第23話ロスアンジェルス
6月14日金曜日AM11:00
総理官邸執務室で二階堂、ジェーン、沢田は安倍総理と向かい合っていた。SPは退室させている。
沢田は安倍総理にフィリピンでの事件解決の件で労われ、特殊能力を見せてくれと言われた。
沢田が言う。
「総理、飛んでみたいですか?」
「そりゃ飛べるものなら」
沢田は念力で総理を椅子から浮かせた。4メートルの高さの天井近くに総理を持ち上げる。
総理が驚く。
「おおっ!浮いてるぞ!」
「総理。スーパーマンが飛ぶポーズをして下さい」
「こうか?」
総理は両手を上に上げてバンザイポーズを取った。沢田の念力で、総理をそのままの姿勢で部屋の中をグルグルと飛ばせた。総理が叫ぶ。
「これは凄い!」
椅子に戻った総理は顔を上気させたままで言った。
「沢田さんも飛べるんですね。フィリピンから飛んで帰って来たと聞いていますが」
「休み休みでしたけど」
「正にスーパーマンだ。心強い」
二階堂が言う。
「総理とお話ししたように、沢田さんを伴ってアメリカの石油企業と交渉をしようと思います」
総理は沢田をちらっと見て二階堂に言う。
「力ずくでは無く、あくまでも交渉だね」
「邪魔が入らない限りは」
そこに総理の秘書に伴われてテイラーが現れた。沢田が思わず言う。
「銭形警部」
にやりと笑ったテイラーが言う。
「ミスター沢田にシャドウを仕留められてしまいましたね」
テイラーはスコットランドヤードの、いわゆる警察官では無く、イギリスの諜報機関『MI6』のエージェントだった。
そのテイラーが総理に言う。
「尻尾はまだ掴めませんが、発電所のテロを後押ししたのは中東の国で無いのは確実なようです」
総理が言う。
「アメリカのメジャーか」
以前は巨大な石油企業の7社が7大メジャーと呼ばれていたが、現在では合併と統合を繰り返して6大メジャーと呼ばれている。
アメリカのエクソンモービル、シェブロン、コノコフィリップス。イギリスのBP。オランダのシェル。フランスのトタルの6社だ。
二階堂が言う。
「経団連の村西氏と東西電力の早川氏に、アメリカの3社に会談を申し込むように要請をしています」
総理が言う。
「私からも連絡を入れておこう」
6月18日火曜日
沢田、矢部、二階堂、ジェーンと東西電力社長の早川を入れた5人はロスアンジェルスに向かうJAL 機の中にいた。ファーストクラスではなくビジネスクラスだったが、早川も不満は漏らさない。
沢田の隣に座った矢部が言う。
「アメリカの石油大企業の社長達に会うなんて信じられないです」
「みんな、ただの人間。矢部さんは日本の水素エネルギーを代表する社長なんだから。今に連中が頭を下げますよ」
矢部の言葉が聞こえた早川が言う。
「私だってエクソンやシェブロンの代表に会う事になるなんて考えもしなかった」
6月18日火曜日
現地時間午前10時。定刻通りに5人を乗せたJAL 機はロスアンジェルスに着陸した。
9つの旅客ターミナルからなる巨大な空港だ。1984年の完成時、市長の名前を取って『トム・ブラッドレー・ターミナル』と名付けられた。現在までに何度もセキュリティ強化をメインに改修工事が行われている。
到着口から出ると『ハイドロエナジー』と書かれたボードを持った数人に出迎えられた。ターミナルから出ると2台の迎えの車が待っている。
メルセデス・マイバッハだ。
2台ともシェブロンの社旗が堂々と風に揺れている。
2台のリムジンに分乗して、ビバリーヒルズのビバリーウィルシャー・フォーシーズン・ホテルに移動した。
会談は、このホテルの裏手にある『モンタージュ・ビバリーヒルズ』というホテルで午後3時から行われる。
エクソンモービル、シェブロン、コノコフィリップスの3社のCEOが集まる。安倍総理からの直接の要請が無ければ実現しなかった。
5人はチェックインして、各々の部屋で休息を取る。
通訳で来ていたジェーンは矢部の部屋で専門用語の復習をしていた。日本語、英語、フランス語、中国語、韓国語を自由に使いこなすが、今回は発電や水素の分離等、専門用語の習得が必須だった。
午後2時。5人はホテルのレストランで昼食を済ませ、矢部の部屋で打ち合わせをしていた。
アメリカの電力会社に水素か、水素分離の発明を売るのが簡単なのだが、そうなると強大な力を持つ石油会社が黙っていない。
従来のダウンストリームを変えずに、原油やLNG、シェールガスの販売から、徐々に水素の販売へと梶を切らせる。
相手に話を聞かせるには、まず利益の話からと言うのが、全員の意見だった。
午後3時。ホテル『モンタージュ・ビバリーヒルズ』の会議室に5人は来ていた。
テーブルの向かいには各社のCEO と弁護士や相談役などで10人が座っている。後ろの壁際と出入口には彼らのボディーガードが並んでいた。
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