第16話ブラックホーク

2019年6月4日火曜日PM2:00

 二階堂は安部首相から誘拐事件の連絡を受けた後、赤坂のJIA 事務所で情報を集めていた。

 分析官の答えでもテロリストグループの『セイント』だけの行動ではないと出ている。他のテロリストとの協同作戦に違いなかった。


 フィリピンに於いての誘拐と言う事で『NPA(ニュー・ピープルズ・アーミー)』が浮かびあがった。アジア地域で最も古くから活動しているゲリラ組織だ。

 JIA にマニラに支局員は居なかった。二階堂は協力体制にあるCIA に連絡を取った。



6月5日水曜日PM1:30

 マニラのNAIA(ニノイアキノ国際空港)に降り立った二階堂は、隣で汗を拭く沢田とタクシー乗り場に向かった。

 ハイドロエナジー社の営業は一時停止し、音声データを総理官邸の金庫室に入れて来ていた。

 全てがクリアになってからの再スタートだ。


 沢田のマニラ行きは二階堂の希望だった。本物のゲリラとの戦いになると、銃よりも沢田の能力が頼りになると踏んでいた。

 

 沢田にとっては久々のマニラだった。フィリピンに来ると自然と笑顔が出るが、今回はダイビング旅行ではない。気を引き締めろと自分に言い聞かせた。


 飛行機のチケットやホテルの手配はJIA御用達の旅行社が手配していた。

 二階堂はホテルに向かうタクシーの中で電話を掛ける。

 英語で短い会話を交わし、予約されていたダイヤモンドホテルに到着する。マニラ市内で小泉氏が首相時代にも宿泊した5つ星のホテルだ。


 各々の部屋にチェックインを済ませ、部屋に荷物を置くと直ぐに二階堂に電話が入る。

 2人はロビーに降りた。エレベーターホールから右に出ると、すぐに声を掛けられる。

「ミスター ニカイド?」

 パンツスーツを着た黒髪の美人。フィリピン人だがスペイン系の血が入っているのは間違いない。

 CIA マニラ支局のエージェントで名前を『イザベル』と言った。


 彼女はフィリピン人で、大学時代に国家捜査局、通称NBI (National Bereau of Investigation )にスカウトされ、卒業と同時に入局し、その僅か半年後にCIAのエージェントとなった。

 フィリピンでの公の立場はNBIの捜査員のままだ。


 イザベルが二階堂に言った。

「部屋の鍵を貸して下さい」

 沢田も鍵を渡した。二階堂が沢田をイザベルに紹介する。JIA の職員だと紹介した。

 鍵を持ったイザベルは2人を残して部屋へと上がっていった。

 15分程でロビーのソファーで待つ2人の元にイザベルが戻ってきて言う。

「二階堂さんの部屋にはワイヤーが仕掛けられているので沢田さんの部屋で話しましょう」

 盗聴器だ。沢田は緊張した。

 エレベーターの中、正面に立つイザベルを見る。

 いい女だ。沢田は唾を飲み込んだ。

 

 部屋のソファーで沢田と二階堂が並んで座り、テーブルを挟んで向かいにイザベルが座って言う。

「パッシグ川沿いで不審なバンが乗り捨てられているのが見つかりました」

 彼女が、テーブル上に数枚の写真を広げる。クルーザーが写っている。


 数ヶ月前からマニラ、パラワン島、ミンダナオ島のカガヤンデオロに出没している船で、船籍はフィリピンだが持ち主はイギリス人になっている。

 マニラでの給油の量の多さでNBI が目をつけていた。

 誘拐事件が起きた前日にも500リットル以上の燃料が入れられていた。

 今の時点で、マニラ付近では該当のクルーザーは発見出来なかった。

 発見され次第、連絡が来ることになっていた。


 沢田がイザベルに聞く。

「もし、連中がパラワンに現れたら俺達は民間機で向かうのか?」

「いえ、ヘリコプターを使います」

 二階堂が言う。

「パラワン島のプエルトプリンセサまで700キロ近く有るけど、ヘリコプターだと3時間程掛かってしまうな」

 イザベルが答える。

「着陸する場所がプエルトプリンセサ市内から離れていた場合、飛行場が無いので。ノーチョイスです」

 二階堂が言う。

「向かう場所が分かっていれば直ぐに行けるんだがな」


 沢田の意識に声が届く。シロからのテレパシー似にている。

『パラワン島に向かいなさい』

 沢田が言う。

「パラワンだ。パラワン島に行こう」


 30分後、3人はダイヤモンドホテル屋上のヘリポートから飛び立った。

 フィリピン空軍が所有するヘリコプターUH-60、通称ブラックホークの中から、マニラの街を見下ろしていた。



 

 



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