第14話爆破

6月3日PM4:10

 ハイドロエナジー社に小型のトラックが来た。車体には『松戸商店』と書いてあり、荷台にはガスタンクが数本積んである。ガスメーターの検針だと言う。

 機動隊員の一人が事務所に声を掛けると矢部の妻、房江が出てきた。

 駐車場入り口に止まっているトラックに近づき、運転席に座っている男に声を掛ける。

「松戸さん。ご苦労様です」

 松戸も挨拶をする。

「ガスの検針に、来ました。何事ですか?」

「ちょっと、いろいろあるんですよ」

 房江は助手席に座っている若い男に目を向ける。

「あら、息子さん?」

「いや、倅の友達なんです。先月からウチで働く事になって」

 助手席の男が挨拶する。

「宜しくお願いします。来月から自分が検針に伺いますので」

 愛想のいい若い男に房江も相好を崩す。

「あら、そうなの。頑張ってね」 


 機動隊員は道を開けた。


 トラックの2人は車を降りて、社屋の裏側に置かれている家庭用のプロパンガスの元へと行った。


 検針が終わり、検針票を事務所に置いて、松戸商店のトラックは走り去った。


 事務所に戻った房江に息子の雄二が話しかける。

「何だったの?」

「ガスの検針・・・今月はやけに早いわね。いつも中頃なのに」

 

 その言葉に二階堂が、反応した。

 房江に聞く。

「ガスタンクは何処ですか?」

「裏に回って直ぐのとこですよ」

 二階堂は部屋を出て行った。気になった沢田も後を追う。

 

 2本置かれたガスタンクの裏を見るように二階堂が覗き込んでいる。

 振り返り、後ろに立った沢田に叫ぶ。

「爆弾だ。みんなに逃げるように言って!」

 数歩走った沢田は振り返って二階堂に、聞く。

「爆発までの時間は?」

「分かりません!」

「爆弾を外せるか?」

 二階堂は磁石でタンクに付いていた爆弾を外した。縦80センチ、幅30センチ程のプラスチックの箱に受信機が付いている。沢田がそれを奪い取る。

 二階堂が叫ぶ。

「どうするんですか!C4(プラスチック爆弾)が詰まっているとしたら建物が吹っ飛ぶ威力ですよ」

 後の事を考えている場合ではない。沢田は爆弾を持って飛び上がった。

 高度100メートルまで瞬間的に上がり海に向かって移動する。


 その時、二階堂の叫びを聞き付けた機動隊員が駆けつける。上を見上げている二階堂にならって見上げるが、既に沢田の姿は見えなかった。


 海までは直線距離で3キロだが、爆弾を抱えて飛ぶ沢田には数秒が数時間にも感じられた。

 海上に出て、前方に船がいないのを見極めて爆弾を投げる。

 爆弾は沢田の手から離れて、僅か5メートルの空中で爆発した。

 沢田の目に閃光が見えると同時に熱い爆風と爆音が身体に襲いかかった。

 そのまま高度100メートルの空中から海に落下して行く。


 沢田の目には何も見えなかった。足は自由になるが頭や腕は動かない。

 息も出来ない。沢田は考えた。

『このまま死ぬのか。それとも、もう死んでいるのか』

 もがいていると少しずつ身体が自由になってくる。


 遠浅で水深が2メートルしかない海に頭から落下した沢田は、水底の砂に頭から腰までが突き刺さっていた。 

 脚を動かして身体を捻る。砂から出せた腕で上体を砂から引き抜く。


 水面に浮上した沢田は深呼吸して浜を見た。数人が沢田のいた上空を見上げて指差している。


 ハイドロエナジー社屋から数キロ離れた路上で松戸商店のトラックが発見され、運転席には刺殺された松戸の姿があった。

 JIA の二階堂の部下が松戸商店を調べたが、若者は検針には出ていないと言う事だった。


 ボロボロになり水を吸った服で沢田は会社に帰る。少し離れた場所に着地し、道路を歩いた。


 会社の駐車場。道路際で機動隊員に混じってユキは沢田を待っていた。

 道路の先の方に人影が見える。ユキは目を凝らした。近づくにつれて、その男は、すだれのようになったシャツと、片足がなくなったパンツを履いているのが分かる。

 更に近づくと、その男が手を振る。

 沢田だ。ユキが沢田に走り寄り抱きつく。

「何があったの?いきなり騒がしくなって、二階堂さんは私の顔を見て目を反らすし。さっきはどこかで爆発したみたいな音がするし」

「俺は無事だから」

「無事じゃないでしょ、この格好。靴も履いてないし」

 

 何と言って誤魔化そうかと考えながら沢田は歩いた。

 

 房枝から用意してもらった新しい作業着を着て、沢田と二階堂はFJクルーザーの中で話した。

 二階堂が聞く。

「いつから飛べるんですか?」

「ほんの2ヶ月前からだ。君が家に来てた時にマシンガンの3人をやったのは念力だ」

二階堂は沢田の顔を見つめて思った。

『この男となら大きい事が出来る。要人の警護や不正を誤魔化す為に俺は生まれて来たわけじゃない』

 そして言った。

「沢田さん。日本を、世界を一緒に変えましょう」

「その積もりだよ」

「俺も入れて下さい。仲間に」

「もう仲間になってるじゃん」

 助手席に座った二階堂は沢田の手を取った。









 

 

 



 

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