第12話総理との会談
6月2日日曜日PM1:30
沢田の家。
銃弾で破壊されたままのリビングルーム。
二階堂と銭形警部(テイラー)は真剣な顔でテロリスト『シャドウ』の話をしていた。
一段落して二階堂が沢田に言う。
「沢田さん。いろいろ調べましたが、ハイドロエナジー社を、茂原の現在の場所で継続するには危険過ぎます」
「どうしろと?」
「大手と組むのがいいと思います」
「傘下に入ると言うことか?」
「交渉次第ですが、大手の元にはいってもハイドロエナジー社が同等の立場となればどうですか?」
「条件が折り合えばいいですけどね」
そばにいるテイラーをチラッと見て二階堂が言う。
「テロリストのシャドウの尻尾を掴むのは、今のままの方が楽でしょうけど、沢田さんの展望を考えると、取り敢えずは規模が大きくして、国策として世界中に知らしめる事が大事だと思うんです」
二階堂とテイラーが帰った後、沢田は会社に出て、矢部と二階堂のアイデアを話した。拉致された恐怖が消え去っていない矢部は「大手」という言葉に目を輝かせた。
二階堂はテイラーを伴って総理官邸の控室で安倍総理を待っていた。
JIA本部の責任者からの至急の連絡となると、総理も一も二も無く応じる。
15分ほどして総理が二人のSPを伴ってきた。立ち上がった二階堂とテイラーの前のソファーに総理は座った。
目の前の二人にも座るように促して言う。
「何が有ったんだ?至急とは」
二階堂は前置き無しに言う。
「最悪のテロリストが日本に入国しています」
総理の表情が変わった。
「隣の方は?」
「スコットランドヤードから来ています、テイラーです」
二人は握手をした。
テイラーが英語で言う。
「イギリスから来ましたテイラーです」
総理が立ち上がって言う。
「執務室に行こう」
3人は、総理の二人のSPと共に執務室に移動し、総理は自分のデスクに座った。2人はデスクの前に置かれた椅子に座る。
SPにドアの外で待機する様に告げて総理が言う。
「ここなら話がリークする事がない・・・テロのターゲットは分かっているのか?」
英単語を混ぜた日本語なのでテイラーも理解する。
二階堂が今までに起こった事を説明した。エネルギー会社社長の誘拐から、テロリストのメンバーを5人始末し1人は監禁中に死なれた事。
ターゲットとなった会社は、エネルギー革命を起こせる程の、水から水素を分離する方法を発明した。それを邪魔する者の差し金でテロリストが動いていたのではないかという分析までを一気に話した。
二階堂の話の途中から総理は身を乗り出している。
「二階堂君。水素がエネルギーとして優れていることはエネルギー庁からの説明を受けて知っているが、その発明は大電力を使わないで水から水素を取り出せると言う事なんだな」
「そうです。今、稼働中の水素発電所は、その殆どが化石燃料からで、水素を取り出す時に大量のCO2を排出します。オイルを燃やすよりは多少は少ないですが」
「その会社の技術者に会って話を聞きたいな」
二階堂は沢田に電話した。
「二階堂です。急ですが、総理官邸に来れませんか?」
「今、装置が稼働中なんだ。急に供給を完全に止めることが出来ないからね。最低限の分だけでも出荷しないとならない。従業員も逆に張り切って働いてるよ。一度帰ったのに全員戻って来てる」
「何時頃終わりますか?」
「早ければ夜の10時かな」
二階堂は総理に沢田の事情を伝えた。総理が言う。
「だったら、こっちから行こう」
午後3時
総理と二階堂、テイラーを乗せたヘリコプターがハイドロエナジー社の駐車場に着陸した。
先にヘリコプターから降りたSP が迎えに出た矢部と一緒に建物に入り、安全を確認した。
狭い応接室で総理の向かいに座った矢部は緊張していたが、水素分離の話になると人間が違った様に饒舌になった。
今現在、日本は日量で400万バレルの原油を使っている。(1バレルは約160リットル) その内の40%が熱源として発電や暖房に使われ、その他の40%が船や飛行機、自動車の燃料。残りの20%がタイヤやプラスチック等の原料となる。その内の40%だけでも水素に置き換えられれば160万バレルの節約だ。1バレルが約60ドルとして、1日に9600万ドル。約100億円。
流石の総理も1日に100億円の節約には息を飲んだ。
ハイドロエナジー社で扱う水素の原料は化石燃料ではなく、殆んど無料の水なのだ。しかもネックとなっている電力の使用量は化石燃料からの分離の0.01%以下だ。
総理が矢部と沢田に向かって言う。
「敵が沢山出てきますね。国内外問わず・・・でも、これは日本が世界に先駈けてやるべき事です」
総理は矢部、沢田と握手して二階堂に言った。
「根回しは私の方でもやろう。電力会社は最大手の東西電力を巻き込もう。二階堂君、頼むよ。テイラーさんと協力して邪魔者は排除だ」
二階堂が言う。
「総理、彼に少しの間、JIA の身分を与えられませんか?」
「そうだな。その方が動きが軽くなるな。テロリストが相手だと銃も必要だろう」
以前は総理と言えども、こんな勝手な事は出来なかった。
全てにおいて手続きが煩雑で時間が掛かったが、公安警察に属するとは言え、総理直属の諜報機関と言う形で出来たJIA は、総理大臣の一存で動かす事が出来た。
総理を見送って沢田と矢部が駐車場に出ると、遅れて到着した機動隊がヘリコプターの周りを固めていた。
飛び立つヘリコプターが巻き上げる砂埃の中で、ハイドロエナジーの社員と共に総理を見送っていた矢部が沢田に言う。
「政府が味方になれば怖いもの無しですね」
「でも、機動隊は俺達を守ってはくれませんからね。注意をするに越したことは無いです」
ヘリコプターに乗らずに残っていた二階堂とテイラーが沢田の横に立っていた
二階堂が言う。
「守ってくれますよ、機動隊が」
1時間後、マイクロバスに装甲装備を施した車両2台に分乗した千葉県警第二機動隊員40人が到着してハイドロエナジー社の周りに配置された。
二階堂からの指示だった。
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