第10話二階堂
二階堂実(ミノル)48歳。現在はJIA 本部責任者として、赤坂のオフィスに勤務している。
経歴は、22歳で防衛大学をトップの成績で卒業後、陸上自衛隊に入隊。柔道二段、空手三段。
身長180センチ、体重80キロの身体と頭脳を買われ、25歳で習志野第一空挺部隊に配属される。
第一と言うが第二空挺は無い。
33歳で部隊のリーダーとなり、後輩の指導にもあたる。
小銃から重機関銃等あらゆる銃器を扱え、爆破の知識も部隊一だった。
35歳の時に部隊の後輩が起こしたヤクザ者との喧嘩に巻き込まれ、一人を死に至らしめ除隊。
除隊時に、公安警察のトップであった三室警視の目に留まり、新設された公安警察の上部機関、『JIA 』のエージェントとなり、諜報のテクニックをCIA に派遣されて学ぶ。
その後、数件の海外に於ける日本人拉致事件を解決し、JIA本部の責任者となる。
早くして両親を失った二階堂は未だに独身だった。二階堂の不満は、自分の周りの事よりも、CIAやイギリスのMI6と比べて、JIA の圧倒的な予算の少なさだった。
当然マンパワーも不足しているが、総理官邸を始め、政府から来る秘密裏の仕事など、自衛隊の時には足枷が有って出来なかった事をこなせる快感が有った。
現在、JIA の職員は二階堂を入れて28人。内、国内勤務は15人となっていた。国外での活動時にはCIA を始め、MI6、イスラエルのモサド等、西側の諜報機関と歩調を合わせて作戦を遂行させていた。
今、千葉で起こっている事は、これまでに無いスケールの事件だと二階堂は感じていた。
それに、目の前の沢田という男には何かが有る。マシンガンで襲ってきた3人をあっという間に倒して平然としている。超人なのか馬鹿なのか。
二階堂は沢田に聞いた。
「水素分離の発明は沢田さんが?」
「まあ、そうですね」
「その発明は、大金を生みますが、どうしようとお考えで?」
「資金の回収が終わったら、学会で発表して世界中に無償で提供しようと思っていました」
「襲ってきたのは、その発明を何処かに売ろうと考えている連中か、商業化が進んだら困る連中ですね」
沢田は頷いた。
「確かに、オイルマネーで成り立っている国は困るでしょうね。中東の産油国は特に」
二階堂が答える。
「中東だけではありません。アメリカもサウジと変わらない産油国になっています。今は原油の価格が高いので、米国産原油が流通していますが、中東からの原油の価格が下がったら、アメリカ産出の原油はコストが高すぎて勝負にならない」
「世界中が敵になる発明だと言いたい訳ですか?」
二階堂が間を取って答える。
「言いにくい事ですが、その通りでしょうね。環境の事よりも今のビジネスを優先しますからね」
沢田はため息をついて考える。
「あんた、二階堂さんはどう思う?電気を作るために油を燃やす事が無くなる。徐々に原発も無くなってくるだろう。車も水素で走る。バスやトラックも排気ガスを出さない。出るのは水蒸気だけだ・・・世界中に原発がどれだけ有るのか知らないが、廃棄物を捨てる場所も無いみたいじゃないか」
「そうですね。原発は世界中に有ります。G7の国で無いのはイタリアだけ。G20で見ると、欧州連合を省いて、原発が無いのはイタリアに加えてオーストラリア・インドネシア・サウジアラビアだけです。トルコも建設を計画中です。南アフリカやフィンランド、ベルギーにも原発は有ります。核廃棄物の処理施設があるのはフィンランドだけです」
「オンカロですね」
「沢田さん、流石に良くご存知ですね」
沢田は胸を張った。テレビで見た付け焼き刃の知識だが無いよりはマシだ。
「一応、エネルギー産業に関わる者ですからね。10万年経っても悪影響が残るゴミが出る発電を、世界中が競ってやっているのが信じられない」
二階堂は思った。
『この男と暴れたら面白そうだ』
沢田に言う、
「一緒に世界を変えたくなってきますね。エネルギー業界の変革」
沢田は笑いながら言った。
「協力して下さいよ。公安が味方についてくれれば安心だ」
「JIA です」
沢田と二階堂は握手した。
床に伏せていたシロが一声吠えて、尻尾を振った。
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