第9話JIA
沢田は茂原市の会社へと飛んだ。途中で、ユキが運転する自分のFJクルーザーが眼下に見える。
事務所には数人の従業員と共に矢部の妻、房江が待っていた。
事務所に入る沢田を見て全員が立ち上がり注目する。沢田が言った。
「矢部さんは、もうすぐ帰ってきますが、しばらくは警戒をしなくてはなりません」
従業員からの質問が相次ぐ。
房江が聞く。
「主人は無事なんですね」
そこに矢部達が入ってきた。房江が安堵の声をあげて矢部に抱きつく。
ユキはシロと一緒にその様子を見ていた。
その晩から『ハイドロエナジー社』には常時4人の屈強な警備員を配置する事になった。
午後10時。沢田はビール片手に今後を考えていた。
『このまま平穏に仕事が続けられる訳がない。敵が何かの動きを見せたら話をつけなくては』
沢田のスマホが鳴った。見たことの無い番号。
「はい」
「沢田さんですね・・・警視庁の二階堂といいます」
「警視庁ですか。私に何か?」
「今日の午後、あなたの車を本須賀の駐車場で見ている人がいるんです。知ってますよね。事件が有ったのは。ゆうべはあなたの会社が襲われている」
「・・・」
「もっと厄介な事にならないうちに話を聞かせて下さい」
「仕方ないですね」
「ドアを開けて貰えますか?」
警視庁から来たという二階堂は家の前に立っていた。
沢田と二階堂はリビングルームで向かい合っていた。部屋の隅でシロが警戒の目で二階堂を見ている。
二階堂は警視庁公安警察の上にある組織、JIA(ジャパン・インテリジェンス・エージェンシー)の職員だと隠さずに言った。アメリカに於けるCIA にあたる組織だ。
矢部を拉致した3人は誘拐ビジネスをメインとし、世界中で暗躍する組織のメンバーらしいと言うことだ。
今回は金ではなく、もっと価値の有るものを手にいれて、それを何処かに売り捌く積もりではなかったのかと言う。
襲われた、ハイドロエナジー社に関係するのは確かだと二階堂は掴んでいた。
沢田が言った。
「スパイ映画の話しみたいですね。私達とは無縁の世界だ」
二階堂は表情を変えない。
「だといいんですが。小川ユキさんにも被害が及ばないうちに話して欲しいのですが」
「ユキには関係無いだろう!」
沢田は立ち上がった。
その時『タッタッタッタッ』という連続音が響き、沢田は二階堂に床に押し倒された。
窓ガラスが割れ、食器棚の皿やグラスが粉々に飛び散る。マシンガンからの銃撃だ。
床に伏せた沢田の目の前にシロの顔がある。シロが吠える。
「シロ、静かにしろ。動くな」
「これ何?怖いよ」
「いいから大人しくしてろ」
沢田は勝手口から外に出た。その瞬間、背中と尻に衝撃が来る。
打たれた・・・崩れ落ちるかと思ったが、少し痛いだけだ。
沢田が振り返ると小型のマシンガンを持った男が立っていた。念力で持ち上げて、玄関側に歩く。銃を構えている二人の男が目に入り、彼らの上に空中にいた男を落とした。
一人は気絶したが、もう一人が放り出した銃を拾おうとしている。念力で銃を遠ざけた。
家から出てきた二階堂が男の手を捻りあげて言う。
「何処の組織だ」
地面に押さえつけられた男は瞬間、笑ったように歯を食いしばる。数秒後、泡を吹いて息絶えた。白人だ。
二階堂がぼそっと言う。
「毒カプセルか」
倒れている2人に向かう。空中から落とした男は息絶えていた。もう1人はどこか骨折したのだろう。呻いている。猿轡を噛ませ、構わずに腕を縛り上げて家の中に運んだ。
二階堂が沢田に言う。
「マシンガンを持った相手を・・・いったい何をしたんですか」
「家に穴を開けられた仕返しですよ」
二階堂が電話を掛けると、直ぐに2人の男がやってきて、縛り上げられた男と外の2人の遺体を運んでいった。
その後、すぐに通報を受けた警察が来たが、二階堂が話をすると帰って行った。
滅茶苦茶になったリビングで二階堂と沢田は向かい合った。二階堂が沢田に言う。
「あなたが思っているほどヤワな相手じゃ無いんだ。連中はしつこいですよ。まして、既に6人もやられている訳だ」
沢田はユキの事を思い出し、立ち上がり車の鍵を持つ。彼女を守らなくては。
立ち上がった沢田に二階堂が言う。
「何処に行くんですか?小川ユキさんの家には、うちの職員が警備にあたっているので心配無いですよ」
沢田はユキに電話して無事を確かめ、ソファーに座り込んだ。
沢田は、水から水素を省電力で分離するのに成功した事と、その発明を手にいれようとした連中に社長の矢部が誘拐された事を二階堂に話した。水素エネルギーの持つ可能性も伝えた。
本須賀で三人を始末した事には触れなかった。
最後に二階堂に言った。
「水素を燃やしても、残るのは水だけ」
水素を省電力で手に入れられる事が、どれ程の事なのかが二階堂にも察しがついたようだ。
産業界の革命だけに留まらず、世界のパワーバランスを根底から変えてしまう程のインパクトの有ることだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます