第6話保護犬施設

2019年4月1日月曜日PM1:00

 沢田はファミレスでユキと向き合い、チーズハンバーグを食べていた。ユキの休みの日だった。彼女の前にはスパゲティだ。

 

 ユキは自分の父親の話を面白おかしく語った。今は市役所の職員として働いているが、若い頃はヤンチャで、改造したバイクで走り回っていたらしい。

 今でも聞く音楽は『矢沢永吉』で『苦い涙』という曲を聞いて涙を流していると言う。本に興味が無いのがユキの不満らしい。


 沢田は商社マン時代の事を恰好を付けて話した。『ラーメン部隊』だったとは言わずに『原油』の輸入に関わっていたと話した。同期の人間から自慢げに聞かされていた事をそのままに語った。ユキは目を輝かせて聞いてくれた。

 中東の話からイスラエルに話題が移ると、ユキはエルサレムに行ってみたいと言った。

 読書家のユキが今までで一番興味を持った本が聖書で、ヨルダン川流域からエジプトまで、聖書に出て来る場所を訪れるのが夢だと言う。


 沢田は聖書には触れた事も無かった。


4月2日火曜日PM4:00

 沢田は九十九里の砂浜に座り、波打ち際で遊ぶシロを眺めていた。

 銀行口座に9億3千万円を超えるロト7の当選金が入金され、残高は9億4800万円になっていた。

 みずほ銀行の成田支店まで行き、4800万円を引き出していた。

 その後、自分を落ち着かせる為に散歩に出て来たのだった。


 海に向かって座り、考えにふける沢田にシロが近寄って来る。

「何考えてるんだ?走ろう。気持ちいいよ」

 シロは正面から沢田の顔を見ている。

「お金が沢山入ったんだ。何でも欲しい物を買えるし、好きな事が出来る」

「何をしたいの? やりたい事、やってたんじゃないの?」

「そう思ってたけどな・・・違うかも知れない。お前、なんかアイデアあるか?」


 沢田は車にシロを乗せて、茂原市に在る、犬の保護施設に来ていた。

 テレビで放送されていたのをシロが覚えていたのだった。


 NPOとして運営している施設だ。中には200匹近い犬がいる。たまにテレビでも取り上げられるので、犬を貰い受けに来る人もいるという。

 NPOの代表は週に一度、保健所に犬を引き取りに行っているらしい。保健所に捕獲された犬達は1週間後に窒息死させられる。


 沢田は施設を見た後で、土足のままで入れる事務所にシロと一緒に入り、代表者に話を聞いた。

 過激な意見も持っていたが、基本的に動物を愛する『いい人』だった。

 寄付と言って300万円を渡すと、代表者は目を丸くして沢田の手を握った。


 沢田とシロは、代表者とボランティア数人に見送られて施設を後にした。


 シロが沢田に聞く。

「あのお金で肉を買えるの?」

「そうだな・・・犬達の肉も買うだろうけど、働いている人達のゴハンも買うだろうな」

「そうか・・・又、お金持って行ってあげようよ」


 沢田はユキの事を考えていた。

 助手席のシロはパワーウィンドウの操作を覚えていたので、自分で窓を開けて顔を出した。窓を閉じる事は出来ない。


 沢田は家に戻り、ビールを片手にテレビを眺めた。核廃棄物処理の特集をやっていた。

 フィンランドでは『オンカロ』という、核廃棄物を地中深くに埋める最終処理場を作っているらしい。『オンカロ』とは、『洞窟』とか『深い穴』という意味だと言う。


 核廃棄物の人体へ与える影響は最低10万年は続くと言う。人類の歴史よりも遥かに長い期間に渡って危険なのだ。日本を含めた他の国では核廃棄物は地上の施設に保管されている。処理のしようがないのだ。

 某国の政治家が『ロケットで宇宙に捨ててしまえばいい』と言って、国際的な非難を浴びた事も有る。


 番組は『それでも私達は原発を捨てられない?』というメッセージで終わった。


 沢田は考えた。一般家庭でも電気が無いと生活が成り立たない。産業界では尚更だ。


 ふと思い出した沢田は腹を出して寝ているシロを見た。

 犬の保護施設に行った時に見た看板だ。『水素エネルギーで環境保護』と書いてあった。

 スマホで『水素・茂原市』で検索すると『水素エネルギー研究所』がヒットした。


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