第2話ミルク様
その宇宙船(ミルキー号)は火星の近くにいた。直径300メートルを超える大きさの円盤型の中心部が30メートル程高くなっており、そこが指令室の様になっていた。
指令室の窓から火星を見下ろしている小柄な者がいる。性別、年齢共に不明だ。
横にいる一回り大きな男性に言う。
「やっぱり火星はダメでしたね。私がちょっと油断した隙に、他の惑星が衝突するとは思わなかった。あれさえ無ければ、地球のように面白い星になっていたのかも知れないのに。せっかく植え付けた生命が消えてしまった」
横の男性が言う。
「ミルク様。もう40億年以上も前の事です」
「確かにそうだけど、太陽って言う恒星の近くでは金星、地球、火星の3つの惑星しかハビタブルゾーン(生存可能領域)に入っていないからね。火星では無くて金星に生命の種を植えれば良かったと、たまに思うよ。まあ、その分、地球に植えた人間って種は楽しませてくれているから良しとしよう」
ミルク様と呼ばれているのは銀河が出来てから、地球時間で146億年に渡って、天の川銀河(ミルキーウェイ)を治めている神、ミルクである。
地球が周回している太陽と言う恒星が属する天の川銀河は、大宇宙の『局部銀河群』に位置し、その中には大小48の銀河が存在する。
最大の銀河はアンドロメダ銀河だ。
アンドロメダ銀河は別の神が治めている。
我、天の川銀河も人間の尺度をもってすると相当に大きく、直径10万光年、厚さが1000光年で渦の様な形になっている。
知っての通り1光年とは光のスピードで進んで1年分の距離で約9.5兆キロになる。
その渦巻の様な天の川銀河には太陽と同様の恒星が約3000個存在し、各恒星の周りには惑星が数多く周っている。
想像していると自分の小ささに嫌になってしまうので話を進めよう。
ミルク神は隣りの者に言った。
「地球を見に行きましょう」
数秒後にミルキー号は地球を衛星軌道から見下ろしていた。
周りには宇宙ゴミとなった使用済みの衛星やロケットの部品などが漂っている。
ミルク神の独り言が始まった。周りには12人の側近が集まって来る。
12人の側近は人間からすれば天使と言えるだろう。何度か地上に降り立って人間に道を説いていた。
「前に来た時よりも酷い。ゴミが周りを漂っているし、地球には青い部分が少なくなっている・・・いろいろな生命の悲鳴も聞こえる。もう一度やり直しをさせようか・・・」
そばにいた1人の女が言う。
「また洪水で洗い流しますか」
ミルク神は考えている。他の1人の男が慌てて言う。
「それはちょっと待って下さい。前回は確か、4、5千年前に洗い流しました。あの時は心の清い男『ノア』に種の保存を命じましたが、今ではあのような者は見つかりません」
ミルク神は男を睨んで言った。
「どうしろと言うのだ。このまま自滅するのを眺めていてもいいのだが、惑星の外にまでゴミを出すようになっては放っておけない・・・私達と同じような形に作った人間という生き物には今まで楽しませて貰ったが、中途半端な頭脳を与えたのが間違いだった・・地球は終わりにするか」
「お待ち下さい。人間は皆、自分本位で身勝手な動物に育ってしまいましたが、自分の惑星や他の生命の事を真剣に考えている者も存在します。地球を潰す前に最後の救世主を送ってやって下さい」
ミルク神はため息をついて言った。
「又、メシアを送るのか・・・どうせなら、前にメシアに与えたパワーよりも強力な力を持たせよう。なまじの力では、人間と言う動物は変わりそうにない」
ミルク神は12人の側近で一番若い女、サイラにメシア創造を命じた。
若い彼女が人間を好きなのが分かっていた。
サイラに取っては初めてのメシアを送る(創造する)作業だった。地球上に現存する人間の一人に力を与えるのだ。その人選までを任された。
責任は重大だったが、ミルク神に命じられたら、直ちに行動しなくてはならない。140億年以上も神様をやっているのに、せっかちなのだ。
サイラは考えた。もし、自分が送り込んだ救世主がダメでも、地球と言う惑星がミルキー様の手で『プチッ』と潰されるだけだ。自分が責任を追及される事は無い。3000個も有る恒星の、一つの惑星が無くなるというだけの話だ・・・と、考える事にした。
ミルキー号を出た天使サイラは太陽を背にして、自転する地球を眺めた。
太平洋と呼ばれている海が眼下を通り過ぎ、小さな島の連なりが夜の位置から出て来る。
意識をその島に集中すると、綺麗な弓なりの浜に、太陽に向かって海辺に立つ男が見えた。動物を従えている。
そう、彼女が選んでしまったのが沢田純一だった。朝日に向かって浜辺に立つ姿が神々しく見えてしまったのだろうか。
サイラが選んだ男が初めにした事は、犬と会話し、他人に犬のフンを踏ませる事だった。
人選を間違ったかと思ったが、一度メシアに選んでしまうと、変更が出来ないのだ。
成り行きを見守るしかない。天使であるサイラが沢田を見つめて祈った。
衛星軌道から出たミルキー号の中では、ミルク神が芝居の開始を待つようにサイラと沢田を見下ろしていた。
ミルキー号に戻った天使サイラはミルク神に報告を済ませ、自分の居住区に戻った。居住区ではサイラに遣える12人がそれぞれの仕事をしていた。
宇宙船ミルキー号にはミルク神に仕える12人の天使と、それぞれの天使に遣える12の従者がいた。総勢157人が銀河系(ミルキーウェイ)の守護神だった。
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