「追跡服…」

低迷アクション

第1話


「俺が、こんな島まで来たのはよ…」


離島の友人が最近、島へ移住してきた“S”から聞いた話だ。


本土で相当派手な生活をしていた様子は、その外見と言動から窺え、

島にいる数少ない若者、特に女性は彼に憧れ、S自身も楽しんでいた。


小さな飲み屋の経営者である友人はSのような男は好かなかったが、彼が店に来れば、

売上が伸びるため、友人のふりをして、付き合っていた。


ある大雨の日、早くに閉めようとした店に、ずぶ濡れのSが現れ、大酒を飲み、

すっかり酔っぱらったところで話が始まった…


「付き合ってた女がさ。クラブってか、店の結構上位にランクインしてる子だった訳よ。

勿論、俺がスカウトしたんだけどね。


田舎から出てきた子で綺麗なんだけど、何か暗くてさ。だけど、それが客に人気なのよ。

影のある美人って奴?まぁ、俺もそれでだいぶ稼がせてもらった訳だけどね。


とこがそいつがさ…とんでもねぇ、馬鹿女だった訳だよ…」


カウンターに肘をつき、がなり立てるSの半笑いのような口調は気分が悪いが、


窓に叩きつけるように降る雨は帰宅困難が予想できたし、それも含め、

彼の話を聞く気にもなったと言う。


「俺もさ、しくったというか、スカウトの前口上で、そいつと結婚する約束しちゃった訳よ。

全然、そんな気ないのにさ?


で、そんな気サラサラねぇつったら、俺呼びつけた部屋で手首切って

あの世逝っちまった…


血がよ?バーバー出て、あいつのお気にの青ワンピ真っ赤っかだよ…

そんで、サツも俺を疑ってるから、店の金全部持って、あちこち逃げ回ってる訳…ハハッ

ざまあ…俺…」


店内にSの笑いが反響する中、窓にぶつかる雨音が変化し…いや違う音だ…

彼の話は続く。


「それから変なんだよ。何処行っても、アイツのワンピを目にする。同じ服?

違うよ?だって血だらけだもん。だからさ、ビビッて、あちこち逃げて、ここに来たんだけど…」


外の音は、濡れた雑巾がぶつかるような音だとわかった…話し続けるSから視線を写す。


「さっき、海岸歩いてたらさ。海から上がってきやがった。風とかに飛ばされてる訳じゃないよ。まるで人が着てるみたいに肉感のある感じで、宙に浮いて、

こっちに向かってきた…だから…」


「帰ってくれ…」


「あっ?」


「話は聞いた。もう店終いだ。」


「お、おいっ」


「帰れ!」


友人に気圧されたSは紙幣を投げ、外に飛び出す。

その後を追うように、窓に張り付いた赤いワンピースが勢いよく外れ、雨の中に消えた…(終)


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「追跡服…」 低迷アクション @0516001a

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