第16話 ギルドの代わり

 「先ずは明日からどうやって生活をしていこうか?」


 今、手元には蛙の皮を換金した分から入場料や宿代を差し引いた残りがある。

 一応、ミツルも蛙の皮はそこそこの価値があったようで、今のままでも何日分かは余裕があるように考えていた。

 そうは言っても、何日分かと言う感じでしかない。

 グータラなことをやっていては、すぐに資金などつきてしまう。

 そー思ったミツルは、アールヴに話しかけたのだが……


 「んー、とりあえず明日、町を見てからじゃねーか?って言うか、別に野宿でもよくねぇ?」

 「えっ?野宿?なんで……せっかく、今日こういう宿に一泊できるんだから明日も出来ればしたいよ」

 「んー、そうは言ってもなー。ただ、やっぱギルドとかねぇーと仕事探すって行ってもな…」

 「えっ……ギルドで仕事探すって行っても、俺、この世界で何が出来るとかまだ良く分かんないんですけど……」

 「んー、別に分かんなくても良いんだよ。それこそ弱いモンスター狩ったりとか草摘みとかなら誰でもできんだろ?」

 「草摘みとかなら確かにルークとか小さい子もやってたよね。でもそれなら、別にギルドとか無くても関係ないんじゃないの?」

 「ちげーっつーの、ギルドはなー。仕事を斡旋してくれたり、後なー特定の物を通常以上の価格で買ってくれたりもするんだっつーの」

 「へー、それなら普段やる仕事に+αの報酬が期待できるってことかー」

 「必ずってわけじゃーねぇーけどな……」

 「でも、それなら今もギルドにとって代わるような組織とかがあるってことじゃないの?」

 「んー、そうだとは思うんだけどよぉ……」

 「だったら今日のうちにその辺のこととか誰かに聞いておきたいよね」


 ミツルはそう思い、今いる食堂を見回すのだが……

 なんと、誰もいなかった。

 

 全員が全員、食事を食べ終えたら食堂から席を立ってしまったのだ……


 「やっぱ、この状況じゃー、情報なんて仕入れらんねーよなぁ。しっかし綺麗にいなくなったよなぁー」

 「そうだね。普通なら酒とかを求める客がいてもおかしくはないと思うんだけど……」

 「酒なんておいてねぇーんだろ?聞いてきてやろーか?」

 「アールヴ飲みたいの?」

 「あればなぁー」

 「でも、子供に売ってくれるとは思わないんだけど……」

 「知ってるっつーの!だからもし売ってたら部屋に持っていってのむんだっつーの」

 「へー。俺としては酒はどうでも良いけど…やっぱ話を聞けそうな人を探しにいきたいから、一旦席を立とう」


 ミツルとアールヴはそう言うと、食堂を再び見渡すのだが、やはり人影はほとんどない。


★★★


 とりあえず誰かから話を聞けないかと二人は探し回ったのだが、結局見つけたのはヨハンとアンナの二人の人影しか見つけることができなかった。


 「はい、聞きたいことですよね。いいですよ」

 「それで、アンナちゃん。この宿にいる人たちって、だいたい俺たちと同じ感じの他所から来た人たちなんだよね?」

 「えーっと……、お客さん一人一人のことはちょっと……」


 アンナは客個人に関しては答えられないと頭を下げた。


 「あー、ごめん。アンナちゃん、別にそう言うことを聞きたいんじゃなくて、仕事の話だよ。仕事の話」

 「仕事の話ですか?」

 「そう、おねぇーちゃん!僕たち、暫くこの町を拠点に活動しようと思ってて、仕事を探したいなと思ってるんだ。本当なら各ギルドに回ってクエストとかチェックをして、とか出来れば簡単だったけど、この町はギルドがないから、そう言う場合はどうしたら良いのかと思ってね」

 「あー、なるほど。ってアールヴ君、随分しっかりしてるね。見た目はルークとあまり変わらなく見えるのにね!」


 アンナはアールヴに本当に感心したようで、頭を撫でてきた。

 一方、アールヴの方はと言うと自身の設定からかあまり邪険に断ることもできずに照れながら耐えているようにも見える。


 (良かったな!アールヴ)

 [うっせーよ……]

 

 「ほんと、こいつ賢いでしょ?いいやつなんだよね!でもアンナちゃん、そう言う人って、みんなどうやって仕事を得ているの?たぶん、俺たちだけじゃないでしょ?もし大丈夫だったら教えて!」

 「はい。そう言う方たちは色々とです。例えば、お店とかから直接依頼を受けたりとか、あとモンスター関係なら代行様のお屋敷とかですかね」

 「「代行様?」」

 「はい。えーっと、一般的に他の町で言う冒険者ギルドとか戦闘系ギルドとか?関係の仕事の依頼と言うのは領主様の代行様のところで一括管理されています。後、これも代行様のお屋敷で頂けるものです」


 アンナはそう言うと、昼間見せてくれたネックレスを再び見せてくれた。


 「それって、確か町の出入りを自由に出来るとかいうやつだよね?」

 「はい。お二人も本日入場の手続きを済ませたので、明日契約書を持って代行様のお屋敷に行けばタダで貰えるはずですよ。もし宜しければ明日一緒に行きましょうか?」

 「えっ……いいの?」

 「はい、いいですよ。ちょうど私も明日代行様のお屋敷には用事で行かなければいけませんでしたので」


 ミツルは横にいるアールヴの方を見ると、彼も頷いていた。


 「そうだね。じゃー、お願いしても良いかな?」

 「はい。後、聞いておきたいことがあるんですけど……」

 「聞いておきたいこと?」

 「えーっと。明日代行様のところでクエストとかを確認しますよね?」

 「えーっと、そのネックレスの手続きをした後でね。そのつもりではあると思うけど」

 「その後って、やっぱりクエストを受けたりするんですか?」

 「ん?」


 ミツルは、アールヴを見たが、彼も何やら分からないと言った表情である。


 「えっと……、昼間お肉をご馳走になったときに思ったんですけど…お二人って冒険者か何かですよね?」


 (そうなのか?)

 [あー、蛙を狩ってるからだろうな……]

 (それなら、別に冒険者ってわけではないよね)

 [まーなー]


 「アンナちゃん、ごめんね。俺たちは冒険者って言うわけではないよ」

 「えっ?そうなんですか?でもモンスターとかを相手にすることもあるんですよね?」

 「いや、初めて相手にしたんですけど……」


 三人の間に沈黙が流れた……


 「いや……、ミツルさん、初めてってそれはいくらなんでも……」

 「えっ……、ほんとに初めてなんだけど……」


 アンナの目が怖い……


 [まー、この辺の簡単に歩ける距離で町とかねーしな、信じらんねーだろーなー]

 (でも、俺、嘘言ってないんだけど……)

 [知ってるよ!でも、とりあえずコイツの言うこと聞くだけ聞いてみれば?]


 アールヴの表情が若干、ニヤついている。

 もしかしたら、コイツの中ではアンナが言おうとしていることに見当がついているのかもしれない、そう思ったミツルだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る