第15話 ギルドがない……
「ギルドがないかぁ~……。んー……」
アールヴは先程から、そう同じことを繰り返しながら充の前を行ったり来たりしている。
無事にアンナの助力で町に入ることができたアールヴと充は、その後の換金についてもアンナの助言をもらうことで特に問題なく終えた。
その後は、彼女からのお願いの一つでもある、
宿屋自体もなんの問題もない。
アールヴが言うには、貧しくて昼飯も食べれないということだったので、ハッキリと言って充は、宿の質については全く期待などしていなかった。
だが、実際に見ると豪勢というような見た目はしなかったが、そこそこに清潔感の溢れる過ごしやすそうな宿屋だ。
なので、充の方は今日くらいはゆっくりと休みたいなと思っていたのだが、その為には目の前のアールヴが目障りだった。
「なー、アールヴ。取りあえずは落ち着こう!先ずは分かりやすく俺に説明してくれないか?」
「んー……、お前わかんねぇーの?」
「あー、まー。仕方ないだろ…だって、こんな世界初めてなんだし……」
「っち……、仕方ねぇな。まー、いーや。取りあえずギルドって何か知ってるか?」
「何となくだけど……。多分、同じ職業の集まりとか、そんな感じでしょ?」
「おう、そんな感じだ。んで、そいつらが無いってことは、全部無いってことだ」
「だから……全部って……説明が飛びすぎ!もう少し分かりやすく言って!」
「んー、そうは言ってもな……、漠然としすぎて難しいんだけどよぉ……したら、取りあえずはなー、一番煽りを受けるだろう商業系ギルドについて説明してやるか。先ずはお前は小麦農家って言う設定な!」
「あー、うん」
「お前の目の前には、一年かけて作った小麦がたくさんある。んで、先ずお前の取り分の中で優先するのは自分の食いぶちだ。そうだろ?」
「あー、まー。そうだね」
「んで、続いて自分の食いぶちを差し引いた分をどこかに持っていって金に代えるわけなんだけど……。少量であれば別になんとかなるとは思うんだが、お前がある程度の量を金に代えたいと思う場合は、ほぼ間違いなく商業系ギルドのお世話になることになる」
「それは、例えばパンとか料理を作る際の仲介とかも商業系ギルドが関わるからだろ?」
「いや、それだけじゃねぇー。元々商業系ギルドって言うのは売買については、よっぽどの事がない限り断らねぇんだよぉ」
「断らない?それじゃー、余った分は?」
「やつら独自のルートを使って、他所で捌いて利益を出すってわけよ」
「独自のルート?」
「おう、一応、都市や町ごとに働いているのは特徴があるもんだからな、普通はギルドって言うのは都市や町毎って言われてるんだけどよ。でもなー、現実には住民の移住なども関係してくっから、ギルドも上の方では都市や国の垣根とかは無いっていわれてんだわ。そうは言っても、それ全部を公表した場合は国とか町のパワーバランスを壊すかもしれないってことで自重している部分があってな。そういった部分で独自のルートって訳だ」
「んー、もしかして……他所に行って売り歩く組織が無いってことは……他所から売り込みに来る人がいないってことにもなる?」
「もちろん、なるだろうなぁ~」
「えっ……てことは、この町ってどうやって生活してるの?もしかして、それで貧しいとか?」
「んー。この町が貧しいって言うのは、元からだったからなぁ……。その辺の関係性って言うのがいまいちわかんねぇーんだよな」
「その辺は、本格的に情報を仕入れないとダメだよね」
「明日から動いていくことにはなると思うんだけどよ……そんな状況で本当に俺たちのほしい分量の品物が揃うと思うか?なんか他の方法を考えた方がいいかもな……」
「他の方法って?」
「って言うかよ、俺だけじゃなく、お前も少しはなにか考えろっつーの!」
「いやっ……そんなこと言……」
充がそこまで言いかけた時、扉から何かの音がする。
一瞬、不安になり隣のアールヴを見やるが、彼は見に覚えがないとばかりに顔を横に振っていた。
充もわけが分からないが、取りあえずは黙って様子をみる。
すると、コンコンと誰かが扉を叩く音がしたので……
「はーい。誰ですか~?」
「アンナです!もうそろそろ夜ご飯の準備が出来ると言うことでしたので呼びに来ました!」
「分かりました。もう少しで行けると思います」
「はい、それではお待ちしております」
アンナの言葉の後、小さいがパタパタという足音らしき音が聞こえるので、どうやら無事に扉の前から去っていったようだった。
どうやら会話を聞かれ不審に思われたということはないようだ。
「んじゃー、とりあえず飯でも食いに行きますか!」
「そうだね。詳しい話は食べながらかな」
★★★
二人は食堂まで行くと意外や意外。
用意されていた食事は、そこそこに見た目に食欲をそそるものであった。
内容的にはパンやスープ、サラダやベーコンのようなものが中心の料理。
アールヴのここに来る前の話ではあまり期待はするなということだったのだが、実際に見てみると中々にして食欲をそそると
少なくとも、昨日は野宿をして過ごした充には、見た目だけであればじゅうぶん御馳走と言えるものだった。
宿屋というだけあって、もちろん充たち二人の他にも客はいる。
食堂には既に数人の客がいて二人よりも料理を食べていた。
そして、そんな彼らは互いが互い食べている様子からすると、それなりには美味しそうに思える。
「いらっしゃいませ。本日はようこそお越しいただきました。私が主人のヨハンです」
若干、恰幅の言い男性が会釈をしながら自己紹介をしてくれた。
そしてこの男性も髪の毛がモコモコしているのはもちろんだが、左右に一本づつ角が映えているのをみるに、恐らくアンナの父なのは間違いがないのではないかと思う。
「どうも、私はミツルと言います。そして、こちらはアールヴです。こちらこそ宜しくお願いします」
「あー、ミツルさん~。父です」
俺とヨハンのやり取りを見ながら、遠くからアンナが手を振ってくる。
「娘さんには、先程、困っていたところを助けてもらいました。本当にありがとうございました」
「はい、話は聞きました。なんでも手続きの件ですよね?あーいうのは結構、あることなので気にしないでください」
めいいっぱいの笑顔をヨハンが俺たち二人に向けてきた。
すると、ヨハンの言葉に
[もしかしてよぉー。昼間のあれって、おねぇーちゃんの計画だったってことか?]
(おいおい、一応助けてもらったのは事実なんだから、そう言う考えは良くないよ)
[へーぇへぇー、そうでございますか~]
そんなやり取りを二人はしていたのはもちろんだが、周囲で食事をしていた者の中にも反応を見せた者があちこちにいた……
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