第14話 入場手続き

 [いやー、よー。あいつらほんとにボッタくる気満々だったよなぁ~。なんだ、あの態度!マジでふざけんなっつーの!]

 (まー、まーそうは言っても、無事に通れたんだから取り敢えずは問題なしということでね!)

 [でもよぉー。あれはよー初見殺し過ぎんだろ!]


 アールヴは先程から充に訴えかけていた。

 何度も何度も納得がいかないとばかりに……


 アンナの協力により銀貨3枚を用意することができた充たちは、無事に門での手続きを済ませることができ問題なく町の中に入ることが出来た。


 入ることは出来たのだが……

 その際の門番の対応が酷かった。


 最初、充たちを見ると見覚えのない者たちだけに、入場手続きを必要とする者だと言うことにはあちらも気づいたのだろう。

 二人はすぐに別室に通されて軽い説明を受ける。

 その説明は非常に丁寧なもので、充たちも別に疑問の余地なく受けていたのだが、話が入場料の方へと移ったときに問題が生じた。

 入場料として大人銀貨2枚、子供1枚、支払いは町の専属通貨のみ、共通通貨は認められないと言ってきたのである。

 それを聞いた充とアールヴは、一瞬で目が点になってしまった。

 と言うのも《入場料として大人銀貨2枚、子供1枚》これは事前に知識があったのだが……

 専属通貨?共通通貨?そんなのは初耳だったからだ。

 もちろん事前の打ち合わせとは違う話が出てきたので、充はすかさずアールヴの方を見やる。

 すると、アールヴの方も驚いた表情で充を見ていた。


 それらから察するに彼も通貨に種類と言うのがあると言うのは全く知らなかったのだろう。


 そして、そんな二人の反応を目の前の兵士が一通り楽しんだところで、彼ら二人に金の工面ができないのであれば、商人を用意しているので、その者から金を工面したら良いと言ってきたのだ。


 心の中で充たちは

 [(だから商人を使いたくないから金を工面したのに……)]

 と言う思いを揃えたところで、とりあえずアンナから用立てた銀貨を三枚兵士たちに見せると……


 兵士の顔が一気に暗いものになってしまった。

 何故かと二人は訪ねてみると、どうやらアンナに借りたこの通貨が専属通貨と言うのではないか。

 それを聞いた二人は一気に顔色が晴れたのだが……


 兵士の方はと言うと顔色を暗くした後は、二人の方を睨み付けながら舌打ち。

 その後、聞き取れるかとれないか微妙な小声でボソボソと説明をすると言う見事なかわり様を見せる。


 お陰で最後の兵士たちが発した言葉

 「始まりの町ドーンへようこそ」

 と言う言葉に全く気持ちを感じられず、二人は最後までひきつった笑いを浮かべていた。


 「でも、アンナちゃん。よく専属通貨を持ってきてくれたよね。ほんとありがとう!」

 「あっ、はい、町に入る手続きだと前もって教えてくれましたので」

 「なるほどね。そっか、町の人ならその手続きには専属通貨が必要と言うのは、誰でもわかると言うことか」

 「はい。なので、そんな改めてお礼を言われるほどのことでもないので大丈夫です。後、お二人ともこの町には暫くいるつもりなのですか?」

 「うん。一応そのつもりなんだけど……」

 「でしたら、これとかの準備も必要ですよね?」


 アンナはそう言いながら胸元からネックレスのようなものを見せてきた。

 先端には宝石か何かなのだろうか、若干光輝く石のようなものがくっついている。

 

 「えっ……?まー、確かに暫く生活を安定させるまでは、この町でお世話になるつもりなんだけど……でも、それって何?」


 アンナが見せてくれたネックレス。

 当然だが充は、それが何なのか分からない。

 なので、アールヴの方を見たのだが、彼もそれが何なのか分からない様子を見せていた。


 「これは、住人の証として貰えるものです。これがあれば次回から門の外に出たとしても銀貨を払う必要はなくなりますよ。ただし泊まりとかだと認められないらしいですけどね」

 「それって費用とか掛かるの?」

 「費用ですか、掛からないはずですよ。詳しい内容は手続きの時にもらう羊皮紙契約書の方に書いてあるとは思うのですが……門番さんから説明とかなかったんですか?」


彼女にそういわれて、充はそう言えばあの時兵士が何やら小さな声でぶつぶつと呟いていたのを思い出す。

 恐らくは、あの呟きの中に今アンナが言ったことも含まれているのだろうと、取りあえずは納得することにした。


 (おーい、アールヴ!)

 [なんだ?]

 (あのネックレスって旅券パスポートみたいな物ってこと?)

 [まー、理解としてはそんな感じなんじゃねぇーの?俺は使ったことねぇーけど]

 (あー、そー言えば黙って通るんだっけ……)


 充はアンナからネックレスを、まじまじと見せてもらいながらアールヴに質問をして自分の中で分かりやすい例えに置き換えていく。


 「でもさー、おねぇーちゃん!ギルドとかあれば別にそんな心配とか要らないんじゃないの?」


 (お前、その喋り方……違和感あるね)

 [うっせぇー、黙ってろ!]


 充は横目でアールヴを見ている。


 「うーん。そーなんだけど。この町はちょっと事情があって、つい最近、ギルドが無くなっちゃったんだよね」

 「えっ……?ギルドが無い……?でもそれなら生活に困ったりするんじゃ……」


 アールヴがそう言いながらアンナの顔を見上げた。

 

 「うん。でも、そうならないようにと言うことで、領主様が専属通貨というのを配ったと言われているんだけど……アールヴ君!でもよくギルドなんて難しい言葉知ってるね!」

 「あっ……、いやー、お兄ちゃんと旅する前にお父さんが僕に色々と教えてくれてぇー……」


 アールヴはアンナにどう説明するか迷ったのだろう。

 しどろもどろになりながらではあるが彼は彼女に説明しているのだが……

 若干照れながらに見えなくもない。

 充は思わず笑ってしまいそうになっていた。


 (なー、アールヴ。そのギルドって言うのが無いと何かあるのか?)

 [あー……、詳しい説明は後回しにすんだけどよぉ。まー、一言で言うとするとギルドがないと言うのはな、何かあるのか?じゃなくて何もなくなる!ってことなんだよ]

 (何もなくなる?)


 アールヴの言っている意味がよく理解できていない充。

 ただ、だからと言って自らのせいで会話を止めることも良くないだろうと、その場ではそこでアールヴとのやりとりを止めた。


 「それよりも私たちの家に向かう前に換金所の方へ向かった方がいいですよね?」

 「あー、先に行けるのであれば先にいっておきたいかな」

 「ですよね。それであれば、あそこの角を曲がった先にありますので、先にそこへ向かいましょう」


 充たちは、そういって前を進んでいくアンナの後を黙ってついていった。

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