第13話 充の機転

 「珍しい……」


 アールヴの失礼な一言。


 「珍しいって何ですか?って、知り合ってまだ二日目で珍しいって言うのは…」

 「あー、まー。そーなんだけど、まさかお前の口から出任せが成功するなんて誰も思わねぇーだろー」


 アールヴが言う「口から出任せ」だが……


 充は今、アールヴとルークの三人でいる。

 先程までは、アンナと合わせて四人で食事をしていたのだが彼女は今、三人とは別行動をしている。

 その理由と言うのが充たちに銀貨三枚を貸すために一度、家に戻っているからだ。


 最初、言われた彼女はかなり変な顔を充たち二人に向けていた。

 と言うのも、彼女は充たち二人の事をアールヴが言っていた通りにどこかの身分の高い人たちだと思っていたらしい。

 その理由はと聞いてみたところ彼らが亜人などではなく、人間とエルフだからと説明するのだが、異世界生活二日目の充にはさっぱりと言う表情をしていた。

 だが逆に、その時の充の表情と言うのがアンナにとって見ると妙に納得が言ったものだったのかもしれない。


 充は、とりあえず自分にはこの辺りの情報がないという事を告げると、アンナは彼にこの辺りの事を詳しく説明してくれたからだ。


 ・この世界には人間、エルフ、ドワーフを始めとした様々な人種がいて、その中でもアンナたちは動物の特徴を持つ亜人と言う種に分類されると言うこと。ちなみに彼女らは羊の特徴を一部持つ羊人族と呼ばれる種族らしい。

 ・今から二人が向かう町は、その中でも亜人と呼ばれる者が人工の大部分を占める貧しい町であること。

 彼女たちの家も貧しいらしく、今日もこうして草摘みに来ているとも言っていた。ちなみにアンナの年は14、ルークの年は5でかなり若いらしい。充があおれを聞いたときは、そんな年から働かなければいけないのかと非常に驚いていた。

 ・本当に貧しい者が集まる町なので、自分を始め幼い頃から働きに出る者が多くいるし、更に貧しい者たちの中には人身売買などのようなことに手を染める者もいるらしいと言うこと 


 などを教わりながら、同時に彼女から青毒蛙ブルーポイズントードを倒す際には魔法を使ったりしたのか?

 またどんな武器をつかっているのか?

 二人はどこから来たのか?

 とか様々な質問が飛んできた。

 

 もちろん今の充では、彼女に満足いく回答というのを与えることはできないが、逆に彼の方では魔法が必要な世界や戦士や魔法使いなどそういった職業が普通に存在する世界なのかなどの情報が得ることができた。


 おかげで、一通りの事を彼女と話すうち、ある程度の事は自己完結できるようになっていた。

 

 そして、その頃合いを見計らって充は再び彼女に町に入る手続きをするのに銀貨三枚が足りないので、彼女に出してもらえないか頼んだ。

 すると、彼女の方からは二つの条件を飲むのであればと言うことで、一応の了解を得ることができた。

 

 その条件の一つ目。

 今回の条件は銀貨を貸すこと、それであればその銀貨をどうやって返済するのか。

 これについてはアールヴが充に先程、町で蛙の皮を売ると言うことを言っていたので、彼はアンナに皮を見せることで納得してもらえた。

 そして見せると結構な反応を示していたことから、やはり先程アールヴが言っていたように、そこそこの価値を持つものらしい。

 

 そして条件の二つ目

 アンナとルークの二人の実家は、実は町で宿屋を営んでいるらしく、今夜はそこに客として宿泊してほしいと言うことだった。

 とは言っても、この世界の物価と言うのがいまいち不透明な充。アールヴに聞きながら判断してもらったところ、値段的には安い部類と言うことだったので、こちらについてもとりあえず一泊ならと言うことで了解したのだ。


 以上の話し合いから充とアンナの双方は、ともに納得がいったと言うことで彼女は銀貨三枚を両親に借りてくると家に戻っていった。


 「でも……、ここからどうしたらいいんですかね?」

 「えー?どうしたらって?」


 お休み中のルークをつっつきながら、聞いてくるアールヴ。

 腹一杯肉を食えたことで安心したのだろう、かなり気持ち良さそうに寝ている。

 「ねーねー、変に起きて泣き出したりしたら嫌だよ……」

 「あー、大丈夫。何かあったらお前に命令されてとか言うからよ」

 「だから……、そう言うことをいって欲しくないから止めてって言ってるのに……、もぉ~」

 「んで、町に入ってから何すっかと言う話なんだけどよぉ~。お前はどうしたいんだ?」

 「どうと言うのは?」

 「んー?お前にとって有意義な人生ってやつだよ。どんな人生が有意義になるんだ?やっぱ金か?女か?それとも権力か?」

 「んー、そう言う方面ではあまり考えてなかったんだけど……、でもさっきのアンナちゃんの話を聞く限りでは、あの町?だとそー言う感じの事は無理っぽいよね」

 「まー、無理だろうな。それなりに暮らすとかなら行けるとは思うけど……」

 「確か、ここから一番近い人里で山越えるとかいってたし、ってさっきの話聞いて思ったんだけど、ここってほんとに町なのか?村じゃなくて?」

 「んー、町って言ってたし町なんじゃねぇーのか?その辺は、俺にじゃなく、帰ってきたらあっちに聞けよ」

 「ちょっと聞けないよね……。でもまー、町と言うことで納得しておきますか」

 「そうそう!あまり深く考えるなよ。でもとりあえずは、あの町ではある程度の準備をしたら山越えの準備しねぇーとなんねーな。結構、時間かかりそうだから、やっぱ拠点みてーのは欲しいな」

 「どのくらいの日数を見越していけばいいんですかね?」

 「そーだなー。昨日今日のペースだと……お前が前にいた世界の時間感覚だと2ヶ月弱とかじゃねーかなー」

 「は?2ヶ月弱?そんな旅の準備を考えるんですか?無理でしょ!無理!」

 「何言ってんだ?お前、そんなのこの世界のやつらの感覚だと普通だぞ」

 「車とか使って?」

 「お前はアホか!あるわけねーだろ!」

 「えっ……、だって、仮に食料とかはどうするんですか?」

 「え?それ、あんだろ?」

 「魔法の袋これ?そんな入るの?」

 「入るよ!それに、肉とか魚とか食ってみて分かったと思うけど、袋を閉めている間は乾いたり悪くなったりもしねーからな。ただし、袋を空けていると普通に悪くなったりすることもあるから、用がないときは閉めておけよ」

 「なるほど……分かりました。でも、当面の目標は生活の基盤ですか~。なんか異世界に来る前も後も、意外にやることって変わらないんですね……」

 「そりゃー、あっちもこっちも人が生きてるってことは一緒だからな」


 こうした俺たちのやり取りは、アンナが来るまで続くことになった。

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