第9話 一夜明けて

 「いやー、良く寝たぁー!!」

 「おっ!グッスリ眠れたかぁ~?そいつは良かった!」

 「おはようございます、アールヴ!お陰さまで、ゆっくり眠れましたよ!ほんと一時はどうなるかと思ったんですけど……」

 「俺もよ、この世界は結構来るとは言え、野宿なんてしねぇからよぉ。マジで、こんな場所があるなんて知らなかったぜぇ」


 アールヴが馬車から顔を出した少年から聞いた情報をもとに、昨晩は無理に町を目指さないで充たちは野宿を選択した。


 生まれてはじめての野宿、それによりにもよって……

 充は初野宿が異世界だなんてと思いながら過ごすことになったのだが、いざ過ごしてみると意外に快適だった。

 少年から教えてもらった場所に到着するなり最初は不思議に思いながら、周囲を見回してみたのだが……

 とりあえず危険な雰囲気は感じられない。

 それどころか近くに湖があったり、近くの樹木がベッドを思わせるように不思議な育ちかたをしていたりと何とも言えない空間になっていた。

 アールヴに聞いてみても、別段危険な場所でもないと言うことだったので、そのまま本日は教えてもらった場所を拠点に一晩過ごすことになった。


 そして、そんな不思議な夜から一夜明けたのが今と言うことになるのだが……

 思い起こすと……

 記念すべきと言えば良いのか……

 それとも思いがけない状況とでも言えば良いのか……

 死のうと思った矢先に自称死神と言いだす何とも不思議な存在と出会ったことに始まり数々の知らない体験をさせられた。


 当然、一晩明けたので元に戻りましょうと言う話になるはずもない。

 それどころか今日も今日として、充の異世界生活は本日からもスタートを切り直さなければいけない。


 「んじゃー、先ずは食事にすっかぁ~?確か、昨日とった魚がまだ残ってるはずだから……」


 アールヴはそう言いながら魔法の袋の中から魚を2匹ほど出した。


 「んー?お前、どうした?この魚見て……」

 「いえっ…別に……何でもないですよ!」


 昨日、一団から教えてもらった場所の近くには湖もあった。

 そして、その湖には魚も生息していた。

 蛙など食べたくなかった充は、なんとかその魚を自分の飯にしようと考え昨日は日が落ちるまで魚相手に奮闘していた。


 「ふーん。そっかー……、そーいや、お前、あの魚相手に随分夢中になっていたよな……夜飯と朝飯の分あれば足りるってのによぉ……」

 「いえ、予備ですよ!予備!何があるのか分からないので、食料を確保できる時はなるべく確保した方がいいかと思いまして。」

 「予備ねぇ~。まー、確かに予備は無いよりはあった方がいいけどな」


 アールヴはそう言いながら魔法の袋の中を確認してみると、魚はまだ10匹以上は残っている。

 少しばかり予備が多すぎな気もするなと思い、彼は充と一緒に朝飯の準備を始めた。


★★★


 砂糖や醤油などといった調味料がない中で、仕方がなくとった食事。

 それほどうまいと言うわけではなかったが、とりあえず腹を満たすことはできた。


 そして飯の後は……

 アールヴの話によると町までの距離も残りは僅からしい。

 それであればと二人は朝食後、早めに準備をして先ずは町を目指そうと歩き出していた。


 「この道の通りでいいんですか?」

 「あー、まちがいねぇーよ。って言うか…、あそこ見てみろよ!」


 今朝まで拠点にした位置から少し歩くと幸いにして道が広がっていた。

 進んだ方角からみると、どうやら昨日歩いていた道とは若干ずれているように思うのだが、アールヴの話によると問題がないと言うことだ。

 そのような道を二人で話ながら歩いていると、何やら石の壁のようなものが横に繋がっている光景が確認できる。


 「あれですか?なんと言えば良いのか、石の壁といえばいいんですかね?そんな感じの何かが広がってますね」

 「あー、あれなー。あれはモンスター対策って感じだなぁ~。あれがねーと、そのまんま襲われちまうからなぁ~」

 「えっ……、と言うことは、この辺もモンスター出るんですか?」

 「昨日、お前が戦った場所から歩いて半日くらいか?そんくらいしか離れてねーからな、そりゃーでるぞ。普通にな」

 「あー…、結構大変なんですね……」

 「大変って言っても、あの壁あれば別にどーってことねーだろうしよ。それになんの悩みもなく生きていける所なんて、あるか?」

 「でも、モンスターの危険性って、そんなどーでもいいような悩みじゃないですよね」

 「この辺なら多分、なんとかなる悩みだぞ!って、おい!あれ見てみろよ」


 そう言いながらアールヴが指を指す方角を見ると、何やら人影のようなものがいくつか確認できる。

 遠くからなのでハッキリとは確認できないのだが、どうやら3~4人ほどが一塊になり壁の近くで何かをやっているように見える。


 「あれ何やってるんですか?」

 「あれはなぁー、草とか摘んでんだよ」

 「草摘み?って……昨日教えてもらった薬草とかを摘んでるってことですか?へー、この辺にも映えてるんですね。って……、え?この辺ってモンスターとか出るんですよね?」

 「おう出るぞ!だからよ、戦う自信のないやつらは壁にくっつくように草を摘むんだよ。んで、それを覆うように警備のやつらが見回ってるって訳だ」

 

 そう言われ、もう一度アールヴが指を指す方向を見る。

 そうすると、外壁から少し離れた位置をうろうろしている人影と、外壁をぴったりとくっつくように移動する人影の二種類が確認できた。

 話から考えると離れた位置にあるのが警備で、外壁にくっつくような影が草摘みの人たちなのだろう。


 「でも、さー。草摘みの人たちって基本的にモンスターと戦えない人たちなんですよね?」

 「おう、そうだぞ!」

 「ふいにモンスターとかが大量発生して集団で襲ってきたとかないんですか?」

 「んー、もしどうしても仕方がないときは、仕方がないで、そいつらはそれなりに腹をくくってると思うぞ」

 「腹くくるって…」


 そんな感じで二人で話をしていると、アールヴの表情が何やら優れない。


 「んっ、アールヴ、どうしたんです?何かあったんですか?」 

 「んー、ちょっとな……。別にたいした問題じゃねーんだけどよ」

 「あー、そーなんですか。それならいいんですけど。それより、この石壁ってどうやって中に入るんですか?中に町があるんですよね?」

 「あー、それなら、あそこに門番が二人立っているのが分かるか?あそこに町に通じる入り口があるぞ」

 「あそこですね!分かりました。じゃー、とりあえずあそこに向かえばいいんですよね?それなら行きましょうよ!」


 そう言いながら、充はアールヴの手を引くのだが…

 彼は充の反応に反発するように、その場に立ち止まってしまった。


 「いや……、実はな……」

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