第8話 うっかりミス
馬車との距離も数十mほどと迫って来た頃、馬車の横には窓でもついているのだろう馬車から一人の子供が顔を出した。
充はこっちの世界に来て一日も経過していない。
なので詳しいことは分からないが、見た目だけの印象で良いのであれば随分と若い少年と言った感じがする。
そんな金髪で青い目の少年が遠くからであるが彼らを見ながら手を振ってきた。
黒い髪に黒い目の充からすると、そんな少年のみためと言うのは非常に美しく感じたのかもしれない。
雲一つない青空と少年の雰囲気が見事にマッチしているなと感じつつ、彼の方も手を振り替えしていると、少年が何やらこちらに対して呼び掛けているように感じた。
「◎▲○■◇◆▽……」
何を喋っているのかは分からない。
それを聞いて充は最初、自分と少年の距離が離れているからだと感じていた。
現に今でも彼と馬車との距離は、やはり数十mくらいはあるように感じる。
横にいるアールヴも充に合わせて歩みを止め今では、少年の馬車に手を振っていた。
「●◼️□△▼……」
充の横にいるアールヴが突如、訳の分からない奇声のような言葉を発した。
アールヴの予期せぬ行動を目の当たりにした彼は、アールヴに対して冷淡な表情を向けてしまう。
だが問題のアールヴの方は、そんな事は関係ないとばかりに再び、少年に向かって大声を発する。
すると今度は、アールヴの声に反応するように少年の方も不思議な言葉を返してきた。
最初は馬車との距離が離れていた、そのやり取りも次第に馬車との距離がつまるにつれて、アールヴと少年のやり取りの回数も多くなってきていた。
最初は不思議だなとただ黙ってみていた充。
だが、馬車との距離が短くなるにつれ何やら違和感を強く感じていた。
と言うのも周囲には護衛らしき者達が取り囲んでいるのだが、その者たちはアールヴと少年のやり取りを一向に止める様子など見せずに、微笑ましくながめているのだ。
恐らくアールヴと少年が知り合いと言うのは考えにくい。
それなのに止めること無く、にこやかに笑っている。
そこから考えるに、充にはある一つの不安と言うのが頭の中に過っていた……
(これ、もしかして……意味通じてないのは俺だけなのか??)
最初は随分遠くだと感じていた馬車も今ではすぐ目の前にある。
当然、大きい声で話す必要もないし、相手の声もハッキリと聞こえていた。
聞こえてはいたのだが、相変わらず言っている内容はサッパリ分からない。
だが当人同士は、お互い楽しそうに話している……
走行しているうちにアールヴが充の横っ腹を肘で軽く押しながら目で合図を送ってきた。
その瞬間、彼は悟った!
ここが異世界だと言うことを……
そして言葉が通じないと言う事実を……
充は先ほどアールヴに、この一段の事が興味あると言っていた。
なので少年が声をかけてきたのを幸いと、気を回して話しやすい雰囲気を作ってくれたのだろう。
アールヴの行動事態は彼もナイス判断だと思ったのだろうが……
如何せん肝心要の言語の壁と言うのをアールヴはすっかり忘れているのだ。
当然全く予備知識のない充。
状況が把握できたからと言って、そんな凄い解決策が直ぐに思い付くはずもない。
だが折角、アールヴが作ってくれた状況だけに、なるべく無駄にしたくないと思いながら、彼はなんとも不思議な
当然だがこの世界の言葉どころか状況もまだ分からない充が生半可な
あれだけ和やかな雰囲気だった彼らだが、充の
彼が周囲の雰囲気と表情に気づいた頃、どうあがいても取り返しがつかないと思うほどに周囲の温度は冷えきってしまっていた。
周囲の嘲笑にも似た感情に気づき
彼らはそれを見ると一言、鼻で笑うような表情を浮かべて充の元を去っていった。
★★★
「いやー、お前、何?あんなことがやりたかったのか?マジ最高だなぁ~!」
アールヴが充の元を一団が去った後に、腹を抱えながら言ってきた。
「いやいやいやいやいやいや!違いますよ!誤解ですよ!と言うか、なんなんですか、あれは!」
「はぁ~?あれって何だ?俺、なんかしたっけ?」
「いや、なんかしたっけじゃないですよ。と言うか…違いますね。この場合は、アールヴが何もしてないから起きてしまったんですよ」
「ん?俺が何もしていないから起きた?どういうことだ?」
「あのですねー、この世界と僕がいた世界で言語が違うなら違うで、最初に言っておいてくださいよ!」
「んー?言語が違う……?何言ってんだ、お前…現に俺とお前は……んー…?あれー……?あっ……、そっかー……、そう言うことか、わりぃ!ミスっちまった!」
アールヴは充と普通に話している。
だがそれはアールヴが充の世界の言葉を使っているからにすぎない。
そしてこれは、この世界の能力ではなくて、あくまでもアールヴの能力でしかなかった。
なので仮に充がこの世界の者と話をする際には、言語の問題をクリアしなければいけなかったのだが……
充が自分と普通に話せていたことにより、アールヴはこの問題を忘れてしまっていたようだ。
充と会話をしていく内にアールヴは、どうやら自分のミスと言うものに気づいたのだろう、今回は自分のミスを素直に認めて彼に魔法をかけた。
「いやー、マジでわりぃ!俺としたことがすっかり忘れちまってたぜぇ。でもよ、今きちんと魔法かけたから、次から話す時はシッカリ話せるはずだぜぇ。もちろん有効期限もなし!この世界にいる限り、誰とでも話せるって言う素晴らしい能力にしてやったぜぇ!」
「あー、そうですか。それはどうもありがとうございます」
「おうぅ!その代わりと言ってはなんだけどよぉ。この辺で野宿できそうなポイントってやつを何ヵ所か教えてもらったからよ。今晩は、町に無理に行かねぇで、そこで一晩過ごした方がいいかもなぁ」
「えっ……、そうなんですか?もしかして、それって…モンスターとかでないで安全な場所ってことですか?」
「おう!勿論だぜ!モンスターも出ないどころか、かなり快適らしいぞ。それに近くにある川には魚とかもいるらしいから、一晩くらいの食事ならなんとかなるんじゃねぇかって話だぜぇ」
「ほんとですか?だとしたら凄い嬉しいんですけど……」
「だろ?なー、元気出せよ!男ならつまらねーことにいつまでも悩んでねぇーで心を大きくしていこうぜぇ!!なぁ~?」
「あー、はい。分かりました。とりあえず今日は、その教えてもらった場所で、落ち着きますか。あっ……、そう言えば、話すのは今貰った能力って言語ですよね?」
「おう!もちろん、誰とでも話せるぜぇ!」
「いや、言語だから話すだけじゃなくて読み書きはどうなるんですか……?」
「あっ……、忘れてた……」
この後、充はアールヴからもらう能力を読み書きにも対応できるように改めてもらった。
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