こんな夢見ましたけど、という話

舞島由宇二

ずっと、夢を見ていたんだ。

 夢を見た。

 夢の中で私は電車に乗っていた。と思いきや、いつの間にか車両は遊園地のアトラクションに変わっていて――それは地下迷宮を探索するアトラクションで――ミミズと龍の間の子みたいな乗り物に跨がって進んでいく。

 それなりのサプライズが幾つか待ちうけていて、それなりに驚いて、それなりに楽しんだ。

 どこからともなく光が差し込んでいることに気がつく。

 どうやらもうすぐ地上が近づいている。

 それがゴールであることを夢の中の私は知っていた。

 もうすぐこの’’それなりのアトラクション’’も終わるのだ。

 そのことが、それなりに寂しいと感じている。

 エンディングが近いからと言ってミミズと龍の間の子は速度を落とそうとはしない。

 感傷に浸る間もなく地上までを、なんなら一足飛びに駆け抜ける。

 痛いほどの白い光が辺りを包んで、すぐに和らぎ始め、

……なんだか見覚えのある光景。


 ――そこは高田馬場だった。


 という夢だった。

 どこまでも夢らしい夢だったのだが、それ以上に興味深かったのが、地下から地上へと出る瞬間に、小さい頃に見た夢のことを思い出したことだ。

 小さい頃の私は夢の中に自分専用の地下世界を持っていて、眠る度そこで遊んでいた。というような内容なのだが、それが唐突に思い出された。

 夢の中でかつての夢を思い出す、それは不思議な感触だった。

 早速友人にその旨を話したのだが、思ったような反応を貰えない。

 興奮気味の私との温度差が激しい。

「いや、思い出したことって、幼いころに現実に起きたことではなくて、あくまで幼い頃見た’’夢’’のことなんでしょう?それが本当かどうかわからないじゃない。」

 などと言う始末。

 まるでボク真っ当、とでも言いたげなカメムシみたいな顔が本当に腹立つが、冷静に考えればそうだ。

 夢の中で思い出されたことが小さい頃に実際に見た夢であることを確かめる術はどこにもない。

 大体’’実際に見た夢’’ってなんだろうと思う。

 果てしなく、おかしな言葉である。


 しかし夢の中での確信は紛れもなく本物だったのだ。

 おそらく今回の夢のなかに出てきた地下は小さい頃の夢の中に出てきた地下と地続きの地下なのだ。いや全く同じ地下だったのかもしれない。夢の中の地下世界も時が経ち、開発が進み遊園地になっていたのかもしれない。

 現実で、かつて訪れた場所に再び訪れた際、昔の記憶が甦るのと同じように、かつて夢の中で訪れた場所に行けば、かつての夢の記憶を思い出す。

 それはとても自然なことである。


 夢のことを思い出したければ、夢の中で思い出すべきなのだ!

 なるほど、私は何かを掴めた気がした!

 やったぜ、これで私は人類ランキング一位上がったぜ。


 それが勘違いであるかもしれないと思うのに、そう時間は要らなかった。

 虚しかった。


「でもそれは夢のことなのでしょう?」

 友人の言葉を思い出す。(同時に憎たらしいあの顔を思い出す。真っ当ヅラのカメムシめ。)


 全くその通りである。

 結局は、この一言で全ては終わってしまう。

 夢を思い出すには夢の中で、などという発見は虚しき砂上の楼閣。

 だからなんなの?で一蹴。

 ’’夢オチ’’が凄まじい破壊力を持っているその意味を改めて実感した。

 夢とはつまり、再生に至る為の破壊。

 真っ白い無垢なる凶器。

 全てを無に帰すラグナロク。


 夢のことを考えて、大事な休日の半分が終わってしまった。

 フロイト先生、ユング先生、尊敬します。

 私はそれでも夢を見続けることでしょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

こんな夢見ましたけど、という話 舞島由宇二 @yu-maijima

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ