第11話「町外れ その2」

 三人は駆け寄り、身を寄せあった。


少女が、驚きながら口を開く。


「ふ、二人とも、なんでこんな所に...?」


「き、君こそ...!そ、それに、その黒猫さんは...?」


「あ...そ、そうだね...!え、えっと、とりあえず順を追って話そっか...!」


───────────────────


 四人は夕陽を前に歩きながら、それまでの事を話した。


「それで、二人はあの後何があったの?うさぎさんの仲間は見つかった?」


二人は軽いアイコンタクトを交わすと、うさぎが話し始めた。


「うん、まずね、あの後、仲間を探して二人で何日も歩いてた時に、誰かが建てたキャンプと、倒れた人間を見つけたんだ。」


「...どうやらその人は探検家だったらしくて、その人が書いたらしい旅の記録があったんだよ。」


「で、そこに面白い事が書いてあってさ。」


「面白い事?」


「うん、この世界はすっごく大きな半球型をしてて、適当な方角に進み続けると、別の世界に行けるんだって。」


「半球型...」


「そう!つまりこの世界は、沢山あるうちの一つって事なんだよ!」


「...その後、仲間達には会えたよ...。でも僕、どうしてもその事を考えちゃってさ...。」


「それで二人で話し合って...二人で安心して暮らせる世界を探す"旅"をしようって事にしたんだ。」


「だから今は僕達も、君と同じ"旅人"って訳だよ!」


「そうなんだ...。って、いうか二人とも、私なんかよりずっと旅人だよ...!」


うさぎとクマの二人は、それを聞いて少し嬉しそうに笑った。


すると、今度は黒猫が言った。


「別の世界ね...。確かにそんなのがあったらいいかもしれないわね。」


「あ、そういえば黒猫さん、そろそろ場所を移そうかと思ってるって言ってたよね?それなら、黒猫さんも世界の端を目指してみるのはどう?」


「んー...そうねー...。その線も全く無い訳じゃないけど、次の住処の場所を決めずに移動するとなると、住処を棄てる事になるし、なにより妹達を常に外で生活させなきゃいけないっていうのが不安ね...。」


「うーん...そっかー...。」


「でも、この辺りの食べ物が無くなりそうなのも事実なのよね...。それに、無闇に山に入るよりは、目的地を決めて移動し続けた方がずっと安全だわ。」


黒猫は、少し下を向きながら考え込んだ。


すると、そんな黒猫の様子を見て、うさぎとクマがなにやらこそこそと話し始めた。


暫くして、うさぎが言った。


「ねえ、黒猫さん!それなら、僕達と一緒に行かない?」


黒猫は、不意の提案に少し動揺する。


「あ、あなた達と...?」


「うん、悩む理由が危険だからなら、移動する時の数は多い方がいいと思うし、こっちには"ひとよ"も居るしね!」


「お、おお!俺、守るぞ!」


"ひとよ"と聞きなれない名を、少女は聞き返した。


「ひとよ?」


「ああ、僕達の名前だよ。僕が"のしろ"で、こっちが"ひとよ"。旅をするんだったら名前が無いと不便だと思って、お互いに考えたんだ。」


「へーそうなんだ...。二人ともいい名前だね...!」


のしろは、少し照れくさそうに笑った。


「えへへ...。あ、で、どうする?黒猫さん。」


黒猫は、頭を捻って悩んだ。


「んー...。」


のしろは、そんな黒猫の様子を見て、少し軽はずみな提案だったかもと、若干慌てたように付け加えた。


「あ、へ、返事はすぐじゃなくてもいいよ...!僕達、今日はもうこの辺りで休むつもりだから、明日にでも教えてくれたら...。」


黒猫は、少し悩んだ後に答えた。


「そうね...。一晩、考えてみるわ...。」


その一瞬、少し重たい空気が流れた。


時間にしてみればほんの1、2秒か、四人とも黙り込んでしまった。


図らずもそんな空気を流してしまったと思い、最初に沈黙を破ったのは黒猫だった。


「はー...。それにしても、初めて会った生き物をその時感じたイメージで信用するなんて...相当貴方に影響受けたわね...。」


「わ、私?そ、そんなにすぐ信じてたかな...。」


ひとよとのしろも、それに加えて言った。


「お、お前...すぐ、相手を信じるぞ...。俺と初めて会った時だって、俺の事、すぐ信じてた...。」


「確かに!初めて会った時のひとよは、とても信用出来る形相じゃなかったもんね。」


「お、俺、そんなに酷かったか...?」


───────────────────


 そんな団欒が続いた後、少女が一つの疑問を口にした。


「あ、そういえば、黒猫さん、名前はなんて言うの?」


「私は一野良猫よ。名前なんて無いわ。」


「ん、そうなんだ...。」


「あー...でも...」


「前に居たとこの仲間内からは、"こま"って呼ばれてたわね...。」


「へぇー...!そうなんだ...!じゃあ、こまさんって呼んでいい?」


「...ん、別にいいわよ。」


すると、ひとよが口を開く。


「こま...こま...。」


「こま姉...。」


「こ、こま姉ってなによ...?」


のしろが乗っかる。


「こま姉だ!」


少女も乗っかる。


「ふふ、こま姉だね。」


すると、のしろが言う。


「黒猫さん、こま姉って呼んでもいい?」


こまは、呆れたように言った。


「...好きに呼んでちょうだい。」


───────────────────


 そんな会話の中、のしろが言った。


「あ、ていうか、君はなんて名前なの?」


「ん、私?」


「うん。」


 少女が口を開く。


「私は、あさ...」


すると突然、目の前が光に包まれた。


世界が揺れたような目眩がすると、少女はベッドの中で横になっていた。


今日もまた、朝が来た。


枕元には、町外れを模した、スノードームが1つ。


「う...。」


頭が、ガンガンと響く。


痛む頭を抑えながら、ベッドから起き上がり、着替えを始めた。




「のしろちゃん、ひとよちゃん、こまさん、今日は皆に会えて本当に嬉しかったよ。それじゃあ皆、行ってきます。」

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