第5話「中心街」
少女は机に向かい、「生物の行く先」と書かれたノートに、自身の推測や今まで起こった事、学んだ事などを書き連ねていた。
(今まで、色々な所に行って、色々な生き物とお話をしたけど、未だに人間とは出会えていないなぁ...。)
(一度、雲海に行った時、人間を見る事は出来たけど、あの人と喋ることは出来なかったし...。)
(理性で生きてる人間は、本能で生きる動物達と違って、もう忘れてしまっているのかな...。)
(自分達がどこから生まれて、そして...何処に行き着くのか...。)
───────────────────
時計の針は、既に深夜1時を指していた。
(ああ、なんだか頭がグルグルしてきたな...。)
(結構遅い時間だし、今日はもう寝よう。)
そう思った少女は、電気を消し、布団の中に入るのだった。
───────────────────
学校帰りに、毎晩思考を巡らせて疲れていた少女が眠りにつくまでは、ほんの一瞬だった。
パチっと目を開ける。
(ここ...。何だろう...?)
見渡してみると、辺りは都会の風景で、周りには見たことの無い、人型の亀のような生き物で溢れていた。
(なんだか、今までと何かが違う感じがするな...。)
そんな違和感を感じながら、街を歩く生き物の一体を掴まえ、声を掛けてみる。
「こんばんは、私は人間。貴方は、なんて言う生き物なの?」
すると、話しかけたはずのその生き物は、こちらを振り向きもせず、そのまま通り過ぎてしまった。
(あれ...。わ、私、何か怒らせるような事言っちゃったかな...?)
再び、別の生き物に声を掛けてみる。
「こんばんは、私は人間。貴方は、なんて言う生き物なの?」
先程と同じく、やはり反応は得られなかった。
(なんだろう...?まるで私の事が見えてないみたい...。)
その後も道行く謎の生き物に何度か声を掛けてみたが、やはり誰からも反応は得られなかった。
(やっぱりだ...。私の事が少しも見えてないし、声も全然聞こえていないみたい...。)
(うーん...。この世界について誰かに聞きたかったけど、誰も気付いてくれないんじゃ調べようが無いなぁ...。)
少女は悩み、少し街を歩き回ってみた。
(結構大きな街みたい...。この生き物さん達が作ったのかな...?)
(なんだか見慣れない建物もあるし、モノレールみたいな見た事のある乗り物もある...。)
(調べれば調べるほど、謎が深まっていくなぁ...。)
少女が少し頭を抱えていた。そんな時だった。
───────────────────
(...?なんだか、皆が空を見て慌ててるみたい...。)
少女は気になり、周りと同じように空を見上げた。
(何...あれ...。)
(何か...飛行機...?ま、まさか、宇宙船...?)
少女がそんな考えを巡らせていると、突如、一際大きなビルのモニターに、音声と映像が流れた。
(これは何処の言語だろう...。)
(なんて言ってるかは分からないけど、見た感じ、ニュースみたいな感じかな...?)
映像が切り替わり、沢山のマイクのようなものを向けられた人物が映る映像に変わった。
(あの人は、もしかして国の偉い人なのかな...?なんだか周りの皆も凄く焦ってるみたいだし、やっぱり、あの宇宙船に関することなのかな...。)
少女がそう思った、その時。
周りの景色が、突然早送りの様に動き出した。
(...!な、なに...?は、早送りみたいに景色が進んでる...。)
───────────────────
少女の感覚では、十数秒程経った。
その時、早送りの様に動いた世界は元の速さに戻り、いつの間にか周りの景色も変わっていた。
(ここは...。地下...?)
(皆が凄く怯えた様子で、トンネルみたいなところに集まってる...。)
(奥の方に、モニターがあるみたい。もっと近づいて見てみよう...。)
そのモニターには、さっきまで居たはずの街中の映像が移されていた。
先程とは違い、街の賑わいは少しも無い。
(何だろう...。なんだか、凄く嫌な感じがするな...。)
少女がそんなことを思っていた時、それは始まった。
モニターに移されていた街中が、突如爆発を起こした。
(な、何...!?)
それは、ミサイルの爆撃だった。
その一発目を皮切りに、さっきまで居た街中に、次から次へとミサイルの雨が降り注いだ。
凄まじい振動と共に、天井からパラパラと砂が落ちてくる。
(う...。凄い音と揺れ...。)
その爆撃は、少なくとも10分以上は続いた。
───────────────────
モニターに映る映像が途切れた時、少女は、さっきまで居た街が完全に破壊されたという事を察した。
突然の事で状況が飲み込めず、ただ呆然と、砂嵐の映るモニターを眺めていた。
ふと、我に返り、後ろを振り向いてみる。
すると、先程まで怯えていた周りの者たちが、今度は絶望した空気を漂わせていた。
頭を抱えるもの、泣き出してしまうもの、少女と同じように、呆然としているもの。
その空気の中、ただずっと立ち尽くしていた少女の瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。
(あれ...。なんだろ...。なんだか...凄く...。)
(胸が苦しい...。)
───────────────────
少女が強い胸の締めつけに襲われていると、周りの景色が、再び早送りのように動き始めた。
(...!今度は、何処に行くの...?)
周りの景色の速度が元に戻ると、そこは、砂埃と銃弾の飛び交う、荒れ果てた街中だった。
(凄い銃声...。何と何が戦ってるんだろう...?)
少女は咄嗟に、すぐ近くの瓦礫に身を隠して様子を見た。
どうやら戦っているのは、さっき街中に居た人型の亀のような生き物と、黒い鎧を来た人型の生物らしい。
(あ、あれ、なんだろう...。戦車...?)
黒い鎧を身にまとった軍隊の方を見ると、戦車のような乗り物がこちらに向かってきている。
すると、その戦車の砲塔がキュルキュルとこちらを向き、少女のすぐ近くに向かって主砲を放った。
目の前が大きく揺れる。
「うわぁっ!!!!」
───────────────────
凄まじい爆風を感じた少女が再び目を開けると、今居たはずの街中とは似ているようで少し違う、そんな場所に居た。
(ここは...。)
すると突然、耳を劈くような高音が響いた。
(...!?...う、ううううう...。す、凄い...音...。)
少女がふと黒い鎧を身につけた生物の方を見ると、彼らも少女と同じように、武器を落とし、耳元を抑えて苦しんでいる。
そして、音のする方向を見ていると、大きな機械をこちらに向けた、先程の人型の亀のような生き物が居た。
どうやらあの後、戦況が変わったようだった。
しかし、少女はそれどころではなかった。
(うう...。凄い音...!意識が...飛びそうに...。)
耳を抑えていても貫いてくるような爆音。
その凄まじい高音に耐えきれず、少女はそのまま地面に倒れ、意識を失ってしまった。
────────────────────
少女が再び目を覚ました時、そこは地下だった。
(また...景色が飛んだのかな...?)
辺りを見回した時目に入ってきたのは、見るからに重症を負っている、人型の亀の様な生物達だった。
僅かに見ただけでも分かるほど、兵士の肌が焼けて溶けている。
そして地下への入口の場所には、壁に焼き付けられた、逃げ遅れた兵士だったものの影があった。
(うう、酷い...。あの黒い鎧の生き物、どうしてこんなに酷いことをするんだろう...。)
耐え難い胸の締めつけに襲われていると、再び景色が早送りのように進んだ。
───────────────────
(もう、戦場は嫌だな...。)
そう思いながら早送りのように景色が動く数十秒間をただ待っていた。
(あっ、景色が元に戻ってきた...。)
景色が元の速さに戻り、辺りを見回してみる。
(今度は戦争の真っ只中じゃなくて...戦争の跡地...みたいな感じ...。)
ふと後ろを振り向いてみると、一人の兵士が機械に向かって喋っているのを見つけた。
(何を話してるんだろう...。)
───────────────────
少女の目の前に、光が差しこんできた。
今日もまた、朝を迎えた。
ベッドの上で目を覚ました少女は、最後に聞いた兵士の言葉が耳に残っていた。
大部分はなんと言っていたのか分からない。
ただ、一つだけ、聞き取れた言葉があった。
それは、怒りや悲しみに満ちた声色で聞こえた、
「人間」という言葉だった。
少女は起き上がり、深呼吸をした。
時計を見ると、朝の5時半。
(今日は休日なのに、随分早く起きちゃったな。)
少女はベッドから立ち上がると、服を着替え始めた。
枕元には、中心街を模したスノードームが一つ。
「皆おはよう。今日は怖い夢を見て早く起きちゃった。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます