第4話「宇宙」
少女は、机に並んだスノードーム達を見つめながら考えを巡らせた。
(...今まで色んな夢を見てきたけど、また同じ所に行くことはありえるのかな?)
(また、森や、砂漠なんかに行くことは...。)
(もう、無いのかな...。)
少女の表情が、少し曇る。
ふと時計を見ると、時刻は12時40分。
(いけない。もうこんな時間だ。明日も学校だし、早く寝ないと。)
少女は服を着替え、電気を消し、ベッドへと潜り込んだ。
(最近は、少し夜更かしが多くて、あまり夢を見られなかった...。)
(今日は、見られるかな...?)
そんな事を思いながら、少女は眠りについた。
───────────────────
パチッと目を開ける。
少女の目に飛び込んで来たのは、窓越しに見える地球だった。
(ここは...。宇宙船の中...?)
周りを見ても、人はおろか、生き物は1匹も居なかった。
(こんなところで、誰かとお話なんて出来るかな...?)
少女はそう思いながらも、果てしなく広い宇宙船の中を移動して行った。
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(なんだか、変な感じ...。)
(宇宙だから重力が無いはずなのに、ちゃんと足をついて歩ける...。)
(周りのコップなんかは何もしてないと机に置いてあるのに、私が触れると宙に浮き出す...。)
(それに、随分探したけど、やっぱり生き物は見つからなかったし...。)
(.............。)
(誰にも会えないと、なんだか寂しいな...。)
そんな事を思いながら、宇宙船の中を見回っていると、突如声が聞こえてきた。
「おや、君は地球人かい?」
少女は驚いてハッと後ろを振り返る。
「あ、貴方は...?」
「驚かせてしまって申し訳ないね。僕は、君たち地球人の中で言う所の、宇宙人さ。」
「そ、そうなんだ...。宇宙人さん、いきなり驚いたりして、ごめんね。」
「いいのさ。僕の見た目は、君たち地球人には見慣れないだろうからね。」
「.........。」
「...あの、ねえ宇宙人さん、一つ聞いてもいい?」
「なんだい?」
「私、この宇宙船の中を少し見て回ったけど、貴方みたいな宇宙人さんを、他に一人も見なかった...。あの、貴方はここに一人なの...?」
「.............。」
「知りたいかい?」
「う、うん。良かったら教えて欲しいな...。」
「そうか...。そうだな、どこから話せばいいかわからないけれど、とにかく...。」
そこまで言うと、彼は遠くを見つめるように、儚げに言った。
「僕以外の同胞は皆...」
「もう、死んでしまったんだよ。」
「.......!」
「もうあれから何百年経ったかな...。僕らは、僕らの星で歴史上初の宇宙探索に出掛けたんだ。」
「だけど、宇宙探索に出発してから数ヶ月後、僕達の住んでいた星の3分の1サイズの隕石が降ってきて、僕達の帰る場所が無くなってしまった。」
「...そして、その報せを聞いて絶望していた僕達の元に、無数の艦隊がやって来た。彼らは自分達の事を宇宙帝国と名乗り、僕達をいきなり攻撃したんだ。」
「...あっという間の出来事だったよ。船員68名。たまたま襲われた部分の反対側に居て、直ぐに切り離して仲間達を見捨てた僕以外、全滅さ。」
「...........。」
「そうだったんだ...。辛いことを思い出させちゃってごめんなさい...。あんまり言いたく無かった...?」
「いや、いいんだ。もう何百年も前の話だしね。それに...。」
「僕は、君に会う為に、ここで待ち続けて来たんだ。」
「...どういうこと?」
「あの悲劇から脱して、一人宇宙をさまよっていた時、僕は自分のした事に激しく後悔した。仲間達を見捨てて、自分だけが助かろうとしたんだからね...。」
「そして、自分だけ生き残った事に逆に絶望を感じて、僕は自殺しようとした。」
「...........。」
「でも、出来なかったんだ。ナイフで首を刺して死のうとしたけれど、僕の手が見えないなにかに掴まれて動かなかった。」
「他にも、色んな方法で自殺を図ったよ。でも、何故だか全て失敗に終わった。」
「そして、ある時僕は悟ったんだ。自分は、なにか役割があって生かされたんだと。なにか、ここに残ってしなきゃ行けないことがあるんだと。」
「僕は持てる力を全て使って調べたんだ。自分の役割がなんなのか、をね...。」
「...それで、役割は何か、分かったの...?」
「...ああ。それこそが、まさに君に出会う事だった。色々考えて居た時に、ある夢を見てね。そこには、喋る暗闇の塊のような物があって、それが僕に言ったんだ。」
「これから何百年も先、何者かがお前の前に現れる。その者が現れた時、お前の全てを伝えるんだ。その為に、お前は生かされている。」
「...てね。」
「全てを...?」
「.....いいかい。これから僕は、君に僕の全てを伝える。それは、頭じゃなく、心で感じ取るものだ。それを覚えておいてくれ。」
少女はゴクリと唾を飲み込むと、覚悟を決めたように言う。
「.......分かった。」
「それじゃあ、僕の手を掴んで。」
言われるがまま、少女は差し出された手を掴んだ。
それはまるで、母親と接している時のような、暖かな手をしていた。
すると、その宇宙人の背後にあった扉が開く。
「扉が...!」
宇宙人に手を引かれるがまま、少女は宇宙船の外へと飛び出した。
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そこは、まさに宇宙空間だった。
本来ならば生物が生きていられる環境ではないのに、少女の身体はまるで、肌と同じ温度のお湯に浸かっている時のように、寒さも暑さも感じなかった。
(体が...ふわふわと浮いてる...。)
「今君は、体に何も感じないだろう?」
「う、うん...。なんだか、生きていないみたい...。少し怖いな...。」
「大丈夫。安心するんだ。何も感じないという感覚こそが、今は大切なんだ。」
「さあ、見て回ろう。」
彼がそう言うと、2人の体は凄まじいスピードで移動した。
太陽から、水星、金星、火星、木星、土星。
そして、地球。
凄まじいスピードで太陽系を巡ると、そのまま銀河全体を回った。
その間、少女の手を握る宇宙人の暖かな手からは、様々な記憶や想いが流れ込んで来ていた。
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宇宙中を巡り、銀河を背にしながら、彼は言った。
「これが、僕の全てだ。君の知りたい答えへ到達出来るかどうか、あとは君次第だよ。」
「...ありがとう、宇宙人さん。」
「君はきっとそろそろ目覚めるだろうから、最後に一つ伝えておくよ。」
彼は、今までの優しい声色を変えることなく、こう言った。
「君の求める答えへの入口は、きっとすぐ近くにある。皆が見落とすほど、すぐ近くにね。」
「それと、君が感じたその体温。それだけは、どうか忘れないで欲しい。」
少女は呟く。
「すぐ...近くに.......。」
すると、宇宙人が言った。
「ふぅ、これで僕は全ての役割が終わった...。」
「宇宙人さんは、これからどうするの?」
「僕は役割を終えたから、あとは元に戻るだけさ。」
「元に...?」
「ああ、初めに生まれた所へ、また戻るんだ。君の求めてる、答えにね。」
「答え...!あなたはそれを知ってるの...?」
「残念だけど、僕も良くは分からないんだ。ただ、そう、感じるだけさ。」
「...........。」
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少女の目の前に、光が差す。
(...!夜明けだ...。)
光に包まれながら消えゆく宇宙人は、最後に呟いた。
「僕を長い時の中から解き放ってくれてありがとう。君の冒険を、僕は応援し続けるよ...。」
(宇宙人さん...。)
その声を聞いた少女は、届かないと分かりながらも、彼の方へと指先を伸ばした。
すると彼は、暖かな表情を浮かべながら、その手に自分の手を重ねたのだった。
今日もまた、朝を迎える。
気がつくと少女は、ベッドの上に居た。
枕元には、宇宙を模したスノードームが一つ。
少女は窓越しに空を見上げた。
「宇宙人さん...。」
「長い間、待たせてごめんね。どうか、安らかに...。」
そう呟いた少女の瞳からは、涙が一粒、零れ落ちたのだった。
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