端島教授による輝き論に関する講演書き起こし

丁_スエキチ

輝き論

 皆さま、本日はお忙しい中ご足労頂きまして、誠にありがとうございます。改めまして、私はサンドスター研究所およびジャパリ学園大学サンドスター情報理工学研究科で教授をしている端島ハナシマエイと申します。本日は私の専門分野である輝き論について、少しお話ししたいと思います。


 いまこの場にいる皆さまは、ここジャパリパークがどういった場所か既にご存知かと思われます。サンドスターが降り注ぐこの島は、さまざまな奇跡に溢れています。真っ先に思い浮かぶのは、動物たちが姿を変え、私たちとコミュニケーションをとって共生することができる、ということでしょう。

 それだけではありません。北緯30度付近の太平洋上に浮かぶ島でありながら、全世界を凝縮したかのような気候が不自然に配置され、維持されています。また、物体の劣化が起こりづらく、現状の環境を保持しやすくなっています。これらも全てサンドスターの影響によるものです。

 サンドスターがなぜこのような働きをするのか、詳しい仕組みの全貌は未だ明らかになっていません。ですが、部分的にわかっていることがあります。サンドスターは「輝き」に反応する性質を持っている、ということです。


 そもそも、「輝き」とは一体何なのでしょうか。一般的な、辞書的な意味での輝きは、「まぶしい光」です。一定以上の強度を持つ可視光線と解釈することができますね。この考え方であれば、紫外線や赤外線といった目に見えない電磁波にも概念を拡張することができます。しかし、サンドスターとの反応を考える上では、「輝き」は物理的な性質だけだと不十分なのです。

 サンドスターはもっと精神的で、曖昧な輝かしいものにも反応してしまいます。ここでの輝かしい、というのは、もちろんレトリック的な意味合いにおいてですよ。

 例えばやる気や活気。生気とも言えましょう。活気に溢れたヒトというのは明るい印象を与え、時に輝かしく映るものです。あるいは記憶。かつての記憶をまぶしく感じる、なんてこと、誰しも身に覚えがありますよね。さらに、他者と結びつく絆。あるいは、他者を引き寄せる魅力。こういった心理的に明るくて眩しい、プラスに働くものを、「輝き」と言うのです。

 改めて定義すれば、輝き論における「輝き」とは、「電磁波として観測不能であり、生物の認識を介して正方向に情動を与える概念の総称」です。

 サンドスターと「輝き」の反応はいろいろとありますが、わかりやすい例をひとつ挙げましょう。サンドスターには「輝き」を吸収し、保存しようとする性質が見られます。言い換えれば、第三者から見て快い印象のものは、耐久性が向上して寿命が長くなるということです。サンドスターが存在する環境下では、美味しい食べ物や便利な建物といったものは、汚いゴミと比べて明らかに長持ちします。一般的な現象であれば、食べ物もゴミも等しく朽ちるはずです。しかし、そうならないのがサンドスターの不思議なところなのです。


 観測不能とはいえ、「輝き」がサンドスターという物質の反応に影響を与えている以上、定量的に捉える必要があります。

 さて、これまで人類は、既存の常識では不可能な概念という壁にぶつかったとしても、常識を塗り替えることでその壁を乗り越えてきました。地動説が認められたことによって、カオスであった天体運動が理解できたように。実数から複素数への拡張によって、数学のみならず物理学の世界が発展したように。いわゆる、パラダイムシフトというものですね。

 では、これまで観測不能だったものを客観的かつ定量的に捉えられるようになった前例があるでしょうか。ええ、あります。心理学、あるいは脳科学の分野です。

 フロイトの精神分析学が盛んだったころ、精神疾患や心理的な問題の解決は催眠療法を用いるのが主流でした。精神分析学は意識や無意識という概念を生み出したという点では非常に先鋭的だったものの、まだまだ科学的には不十分なところが多かったのです。しかしその後、精神疾患の原因が脳にあると判明し、医療技術の発展とともに神経伝達物質の機能が明らかになり、こころの状態を定量的に捉えることが一部可能になりました。


 同じことが、「輝き」の測定にも言えます。

 先ほど「輝き」の一例として挙げられたもののうち、やる気や活気といったもの。その有無には体内で分泌される神経伝達物質が大きく関わっています。衝動性を司るドーパミンや、抑制機能を左右するセロトニン。その他にも多くの物質が我々生物の心あるいは行動を左右しています。逆に言えば、このような物質の分泌量を測定することで、「輝き」を定量的に測定することも可能ではないか、と考えられるわけです。

 実際の研究で明らかになったことですが、血中の神経伝達物質の濃度とサンドスターの反応性には強い正の相関があることが分かっています。

 ただし、この結果は対照実験による実験室レベルでの再現であることに留意すべきですし、そもそも「輝き」にはやる気以外の要素もたくさんあることを忘れてはいけません。


 また、アニマルガールの特徴にも、「輝き」が関わっています。

 アニマルガールの見た目や性格には、動物種の特徴が受け継がれたような要素が多く見られますが、時折そうとは限らないものが見られます。例えば、キンシコウのアニマルガールは西遊記の孫悟空をモチーフにしたような品を持っています。彼女が持っている如意棒は、後から手に入れたものではなく、けものプラズムによるサンドスター由来の先天的なものです。キンシコウという動物が孫悟空のモデルであるというのは、1980年代に日本国内で生じたデマであるとされています。しかし、このデマがアニマルガールの見た目に影響を与えているのです。

 これは、「キンシコウが孫悟空のモデルだ」という情報そのもの、あるいは記憶そのものに対して、サンドスターが反応しているためでしょう。

 ほかにも、コヨーテに見られるように、創作物の描写を顕著に示すアニマルガールが存在するなど、サンドスターが情報に影響された反応をすることを示す実例は多く存在します。特に平成初期から現在にかけて日本国内に存在した情報の影響が大きいとされていますが、詳しい理由はわかっておらず、現在も研究中です。

 前衛的な話ですが、インターネットの検索情報と検索場所の距離に依存しているのではないか、という一説もあって、要するにサンドスターの産出地であるジャパリパークが日本に近いから日本の検索の電波を拾っているのではないか、ということです。

 この話における情報も、記憶や記録であって誰かにとって価値あるものとなる、という点で「輝き」のひとつと捉えられます。そのような「輝き」が、サンドスターと反応して、アニマルガールへと影響を与えているのです。


 実際にジャパリパークの自然の中において、どのようにしてサンドスターは「輝き」を見つけ、反応し、どのような結果を生じるのか。判明していないことはまだまだたくさんあります。その上で、ヒトやフレンズ、あるいはモノ、それらから放出される輝きを定量的に測定しなければならない。そのために、神経科学、認知心理学、記号論、比較文化論、量子力学、情報熱力学、他にもさまざまな幅広い観点が必要になります。

 これらの多岐にわたる学問を総括し、サンドスターと「輝き」の研究のために整備していく。これが輝き論です。

 ヒトではなく、動物やアニマルガールが心地よさを感じるのはどういったときなのか。

 心地よさや素晴らしさそのものをアンケートを使って数値的に解釈してみた場合と実際の差はどうなのか。

 実は、そもそも「輝き」自体が未知の素粒子に由来しているものなのではないか。

 このようなさまざまな観点から、サンドスターの性質の解明と、サンドスターを利用した技術の構築を目指していくことが、輝き論の大きな目標です。


 現在、多くの研究者や企業の協力のもと、サンドスターについての研究がなされており、輝き論においても、先程私が言ったような新たな発見がなされつつあります。今後さらに研究が進み、サンドスター科学の一分野として科学貢献ができることを切に願っています。

 以上で私の話はひとまず終了となります。本日はご清聴ありがとうございました。

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端島教授による輝き論に関する講演書き起こし 丁_スエキチ @Daikichi3141

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