第3話


「おはようございます」


「あら?どなた?」


「娘の夕波ですよ、お母さん」


「やっと来てくれたのね、嬉しいわ」



 あの日から、私はまた娘として母の元へ通っている。きちんと謝罪を受けた訳ではないし、すっきり許せた訳ではない。まだモヤモヤとしているけれど、ずいぶん気持ちが変わったことは確かだ。あれから見舞いに来てくれた叔母から、母が祖母に相当キツく当たられていたことを聞いた。あんな言葉をこぼしてしまうほど母もギリギリだったのかもしれないと思うと、不憫に思えてしまう。子供だった私には見えていないことと知ってはいけないことがあって、その綻びから突き出たトゲが胸に刺さって抜けなかった。だけどそのトゲは妄想の産物だったのかもしれない。


 これから私はどんなふうに母と過ごしてゆけるのだろうか。


「今日はお花を持って来ましたよ」


「まぁ、綺麗な芍薬。そういえば、家の庭にもたくさん咲いていたのよ」


「そうよ、そのお庭から摘んできたの」


「まあ、そうなの?それで、あなたどなた?」


「娘の夕波よ。お母さん」


「あら、夕波なの?やっと来てくれて嬉しいわ」


 こうして母は毎朝、私が来たことを何度も喜んだ。


これで

いいのだと思う。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

記憶を踏みつけて愛に近づく ぴおに @piony

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ