サーカス5

学校に戻るために、俺たちはまた歩いた。

「給食、間に合うかなあ」

「あの子の名前、聞かなかったね」

「ああ、なんで聞かなかったの」

「なんでって」

「外国人ってほんとにあいさつでキスするんだもんなあ」

俺はほっぺたがくすぐったくて、何度も指で触ってしまった。


MS.バリーには、大目玉を食うだろうと覚悟していた。

だけど彼女は俺たちを抱きしめて、「オーマイガー」と言っただけだった。涙ぐんでいるようにも見えた。

きゅっと胸がせまくなって、「ごめんなさい」と頭をさげた。

あまねは「僕が寛太くんを連れだしたんです」と、まじめな顔で言った。今度は「バリーソーリー」とは言わなかった。


休日になって、親にねだり、改めてサーカスに連れて行ってもらった。

だけど、サーカス小屋のあった場所は、ただ駐車場があるだけだった。

夢だったんじゃないかと思うくらい、あっけなくサーカスはたたまれていた。

――あの子はいなくなってしまった。


それでも、その姿を探した。どこかに隠れているんじゃないかと思った。

「なんだよ、友だちになるって言ったじゃん」

青空がまぶしくて目にしみた。涼しい風が吹いて、俺の前髪をさらっていった。遠く風のなかに、ライオンのうなり声が聞こえた気がした。


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サーカス みずほ @mizuhooo

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