サーカス5
学校に戻るために、俺たちはまた歩いた。
「給食、間に合うかなあ」
「あの子の名前、聞かなかったね」
「ああ、なんで聞かなかったの」
「なんでって」
「外国人ってほんとにあいさつでキスするんだもんなあ」
俺はほっぺたがくすぐったくて、何度も指で触ってしまった。
MS.バリーには、大目玉を食うだろうと覚悟していた。
だけど彼女は俺たちを抱きしめて、「オーマイガー」と言っただけだった。涙ぐんでいるようにも見えた。
きゅっと胸がせまくなって、「ごめんなさい」と頭をさげた。
あまねは「僕が寛太くんを連れだしたんです」と、まじめな顔で言った。今度は「バリーソーリー」とは言わなかった。
休日になって、親にねだり、改めてサーカスに連れて行ってもらった。
だけど、サーカス小屋のあった場所は、ただ駐車場があるだけだった。
夢だったんじゃないかと思うくらい、あっけなくサーカスはたたまれていた。
――あの子はいなくなってしまった。
それでも、その姿を探した。どこかに隠れているんじゃないかと思った。
「なんだよ、友だちになるって言ったじゃん」
青空がまぶしくて目にしみた。涼しい風が吹いて、俺の前髪をさらっていった。遠く風のなかに、ライオンのうなり声が聞こえた気がした。
サーカス みずほ @mizuhooo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます