サーカス4
その子の案内で、いちばんうしろのパイプ椅子に座った。
不思議なもので、サーカスの内容を、ほとんど俺は覚えていない。
ただ、うす暗いテントの中で、外国の女の子がとなりに座っていて、サーカスを見てるということ――それがあまりに非日常的で、ソワソワした。ほんとなら学校にいて、社会か何かの授業を受けているはずなのに――。
サーカス小屋を出たら、明るくて目がくらんだ。俺は伸びをして、つぶやいた。
「ライオンが逃げだしたくなる気持ちも分かるよなあ」
あまねが、うなずいて空をあおいだ。
「うん。――空が、こんなに青いもんね」
女の子は、ひとりで怖い顔をして、
「逃げるとか、言わないでください」
と言った。俺たちは「ごめん」と言って、ケラケラ笑った。
サーカスを見せてくれたお礼をしたいと思って、ポケットの中をさぐった。何か持っていたっけ。そうだ、緑のガラス石。
「はい」
「何ですか?」
「あげる。きれいだから」
ちょっと照れくさい気持ちになった。
「ええっ。カンちゃんずるい。僕何も持ってない。なあ、僕も何かあげたいんだけど」
あまねの言葉に、女の子がくすりと笑った。
「じゃあ、友だちになってください」
「分かった。いいよ」
あまねがうなずくと、女の子が「あなたも」と、俺を見つめた。その青い目に吸い込まれそうで、俺は目をそらしてうなずいた。彼女はニッコリとほほえんで、俺とあまねのほっぺたに、キスをした。
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