第1話 ようこそ、新世紀へ(9)
三、――脱出(2)
二人は警戒しながら、そっと巨体に近づいた。
もしかしたら、急に動き出すかもしれない。
そう思って茂みに身を隠す。ソッと様子をうかがったが、どうやら取り越し苦労だったようだ。
よく見ると胸部前面のコックピットハッチが口を開けそこからフライトスーツを着込んだ兵士が、グッタリとうつ伏せに胸部装甲に上半身を乗り出して倒れている。
「あのパイロット。さっきの――」
ハルが呟く。
二人して恐る恐る近づくと、パイロットの指先が細かくヒクヒクと痙攣しているのが見える。
「「生きてる!!」」
二人は急いでヴェンダーファルケに駆け寄る。
間近まで近づくと、高さ3mはあるかと思われる一枚の装甲が立ち塞がる。
一瞬たじろぐが、教練で習ったやり方を咄嗟に試してみることにした。
ハルは背中のバックパックを、ピッタリとその装甲に密着させて体を固定する。
腰を膝の高さまで落とす。
カスミがその膝に自らの左足を乗せてステップにする。
次にハルの肩を右足のステップにして立ち上がると、何とか手が届きそうな装甲の継ぎ目に、指をかけて自らの体を持ち上げる。
ハルが、下からカスミの両足のソールを、両手で持ち上げて支える。
カスミは自らの上半身を装甲の上まで引っ張り上げると、次に足を引っかけて、何とか装甲の上面までよじ登った。
よじ登った装甲の上からカスミが、右腕を垂らす。
落ちないように、装甲の上にうつ伏せに這いつくばり、自分の体をしっかり固定する。
身軽なハルは少し助走をつけ、そびえる装甲の手前で思いっきり垂直にジャンプする。一度、装甲を軽やかに蹴ると、そこからもう一段高くジャンプしてヒシっとカスミの右腕にしがみつく。
ハルのほうが幾分体重が軽いとはいえ、人ひとりの体重を片方の腕で支える痛みで、カスミの顔が一瞬ゆがむ。
ハルは両腕の力だけで、カスミの右腕を伝い装甲の上面に何とか指をかけると、懸垂の要領で上半身を引き上げる。
上からカスミが、力いっぱいハルのスーツの奥襟部分を掴んで引っ張りあげる。
ハルはそれに呼応するように、片足と肘から上を装甲の上面まで持ち上げてひっかける。
後は全身の力を使い、這いつくばる様に装甲上面に体を滑り込ませた。
休む間もなく、二人でパイロットをコックピットから引きづり出すと、比較的平らなセレシオンの脇腹の装甲板の上に、仰向けに寝かす。
ヘルメットのロックを急いで解いて引きはがす。
まだ若い男の人だ。
散々、訓練で行った心肺蘇生法を、体で覚えたマニュアル通りに実践していく。
「お兄さん! しっかりして!」
ハルがパイロットの両肩を叩く。問いかけに反応がない。
カスミが、ジッと胸の動きと呼吸を確認する。
しゃっくりを繰り返す様に、途切れ途切れで不安定な呼吸。
「呼吸をしてない。ハル、ヴィヴィちゃんを」
「うん。分かった」
カスミは、フライトスーツの上から胸の真ん中めがけて、両腕で思いっきり体重を乗せる。
胸部圧迫を開始する。
ハルはその間に、スーツの左腕のソケットからヴィヴィを引き抜き、フライトスーツの前腕部にあるソケットに差し込む。
「ヴィヴィ!お願い」
≪―新しいモジュールを検知しました。A-7-5型フライトスーツと同期を開始します。
あらまぁ、殿方のお体ですが失礼して、ボディスキャンを開始しますね。
少々お待ちを――。
死戦期呼吸、心室細動を確認。
カスミちゃん、リズムを音声信号にして合図するから、そのまま胸部圧迫を繰り返して。
充電が完了したら、フライトスーツの除細動器が使えるわ≫
必死に胸部圧迫マッサージを繰り返すカスミ。
「いきかえれ! いきかえれ――!」
ピッ
ピッ
ピッ
ピッ
何回くらい圧迫が続いただろうか。
カスミの額から大粒の汗が伝い、トレードマークの眼鏡のレンズの湾曲に滴った汗が水たまりを作る。
「いきっ! かえれ――!」
≪カスミちゃん。もういいわ。次は人工呼吸を≫
「私がやる!」
苦しそうに息を切らすカスミに代わりハルが、パイロットの気道を確保して鼻をつまむと口を大きく開き、パイロットの半開きの口の上にかぶせ、息を吹き込む。
フーーッとスーツの胸部が大きく膨らむ。
≪――いいわ。胸が沈んだら、もう一度≫
再度、息を吹き込む。
≪よく頑張りました。
充電が完了したわ。二人とも離れて。いくわよぉ≫
ピッーーーーーと言う信号音の後にすかさず、
――ボクンッ!
強烈な電気ショックで、パイロットの重い体が一瞬持ちあがる。
「どう!?」
気忙しくハルが、ヴィヴィに尋ねる。
≪まだ、もう少し。胸部圧迫から、続けて≫
「交代するよ!」
ハルが、疲弊したカスミを押しのける。
「お願い!」
カスミは座り位置をハルに明け渡すと、先ほどハルを支えた右腕の痛みを今更ながら気にしている。
「いきかえれ! いきかえれっ!!」
額の汗が目に入ってしみる。
ピッ
ピッ
ピッ
ピッ――――――
「ふぇ!」
何十回目かの圧迫の後に、突然の長い信号音に驚いてハルが、短く悲鳴を上げた。
「ハァ! ハ! ハ! ハァ!! う…ハァ――ハァ……」
パイロットが呼吸を再開する。
≪よく頑張りました。なんとか蘇生に成功したわ。
でもあまり時間がないかも。各所に裂傷と骨折、全身を打撲している。すぐに外科的な処置を推奨します≫
「よかった。ほんとに……よかった」
胸をなでおろしたハルが、ヘタっと座り込む。
「ハル、急ごう!」
カスミがハルに短く声をかける。
「うん。そうだね!」
≪――ようこそ。GT/F-27Cヴァンダーファルケへ。
――これより再起動シークエンスを開始いたします。再起動プログラム開始≫
ぎこちないAIの合成音声が、コックピットに響き渡る。
「再起動シークエンス8番から14番までチェック完了。
コックピット内与圧、正常。メインエンジンスタート」
コックピットシートのアームレストのよく見える位置に、母の写真を養生テープで貼り付けて固定する。
スッと左手で一度、写真を撫でたハルは、再起動シークエンスの手順に従い各システムを慎重にチェックしながら順番に立ち上げていく。
ブゥウウゥゥウー……ン
電圧が急激に上昇していく。
全天周囲モニターが光を帯び、仮想タッチスクリーンパネルがコックピットに浮かび上がる。
ヴァンダーファルケに少しづつ命が吹き込まれる。
≪あら、イヤだわ。
この戦闘AI、まだ直結型のSANDR言語で学習するタイプなの?
私よりもずっと旧式じゃない。
ハルちゃん、操縦補助を、頂いてもいいかしら?≫
「え? 良いけど、ヴィヴィそんな事できるの?」
≪もちろんよ。
だって私はもともと、セレシオンのあらゆる戦闘データのAtoZが網羅された統合デバイスをもとに開発された、唯一無二の人工知能だもの≫
鼻高らかに、自らを自慢げに語りだすヴィヴィ。
「え? なんで?」
≪え?……さぁ?
何で、でしょうね?≫
「ハル! どうでもいいけど、優しく操縦してね!
瀕死のケガ人を載せてるんだから。後、私みたいな、かよわい女の子もね!」
コックピットシートの後方に後ろ向きに展開した補助席で、負傷したパイロットを抱えたカスミがハルに念を押す。
「分かってるって!! 任せて!」
グイっとフットペダルを踏みこむ。
ヴァンダーファルケが背部のメインエンジンを大きくふかして急激に立ち上がる。
コックピットが激しく揺さぶられる。
「うああああ!! ハル、こらーー! 言ったそばから!!」
≪―ハルちゃん! 踏み込み過ぎよ≫
「ゴメン。ちょっとペダルの感度が高すぎるな。
ビビ、調節できる?」
≪もちろん≫
「3.5くらい、全体のセンシを下げれる?」
≪お安い御用よ≫
「あと、この異常警告パネル。頭部のセンサーだっけ?」
≪左翼のショルダーの被弾警告ね≫
「あぁ、あれか。じゃ、いいや。
センサー系は、全部生きてるんだよね?」
≪今のところ、特に異常はなさそうよ≫
「おけー。んじゃ気を取り直して、行きますか」
≪ペダルは優しく踏み込むのよ。
その後はハルちゃんの目線を、機体が自動的に追いかけてくれるわ≫
さっきより慎重に両方のペダルを、徐々に踏み込む。
核融合推進エンジンが巨大な力を溜めこみ、そのうなり声がますます音階を上げていき、二人の鼓膜を劈く。
フワッっと自然に猛禽の両足が、地面から離れる。
メインモニターに映し出される高度スケールが、どんどんその速度を加速させていく。
一帯の人工林がザワザワと、巨大なエンジンノズルより排出されるプラズマ噴射のあおりを受けて騒ぎ立てる。
「スタート――」
――ズドンッ!
と一度、巨音を響かせた猛禽はとてつもない加速で上昇すると、二人が息を切らせて歩いてきた道程を数秒で逆戻りする。
遥か眼下に、小川のせせらぎが濃く広がった煙雲の隙間からキラキラと光を反射させるのが見える。
ギュっと重症のパイロットを、強烈なGからかばう様に抱きしめるカスミ。
霧の中から現れた倒壊したターミナルビルを飛び越え、曇天が広がる天空へグングンとその高度を上げていく。
「エレベーターに取り残された人たちを助けたい! ヴィヴィ」
ガタガタと揺れるフライトスティックを、やっとコントロールするハルにヴィヴィが答える。
≪――微妙なホバリングコントロールが必要になるわ。
制動のタイミングは私に任せて≫
コロニーの壁面に伸びる、何本ものガラス張りのエレベーターシャフト。
目線のさらに先、曇天が覆い隠すその先に静止するエレベーターとの距離がグングン縮まる。
≪4・3・2・1・逆墳! 3秒。
背部メイン推進カット。
脚部スラスター、コントロール。推力5.4下げ≫
ビビの指示に必死に食らいつくハル。
体をくの字に曲げて、急制動をかける巨体。
≪相対高度30 20 15 10 5 3 2 -1ストップ。
高度を維持、ホバリング開始≫
次第に減速したヴァンダーファルケが、ちょうどエレベーターと高度を合わせて空中でフワリと静止する。
≪すごい!! 素晴らしい反応だわ。ハルちゃんさすが!!≫
ホクホクと嬉しそうな声を出すヴィヴィ。
ハルは操縦に全神経を注いでいてそれに答える余裕がない。
≪気流がかなり乱れてます。
高度を維持。そのまま少しずつ機体を寄せて。
少しずつ。少しずつね≫
繊細な操縦に意識を集中するハル。
じりじりと、エレベーターとの距離を詰める。
いつの間にか額にたまった汗が流れて、鼻先からポタリと太ももに落下する。
グラっと一瞬バランスを失いそうになる機体を、素早く立て直す。
≪焦らないで。ハルちゃんならできるわ≫
エレベーターの中では、取り残された5人の避難民たちが、近づいてくる巨大な機体に顔を引きつらす。
「ヴィヴィ。右腕のライフルをパージ。
コックピットハッチを開いて!」
≪了解。右腕。45mm多砲身機関砲をパージします≫
右手に握られた、巨大なマシンガンをスルリと手放すとパンっと短い破裂音が重なり、右翼のショルダーアーマーにマウントされてマシンガンと給弾ベルトによって繋がった、巨大なドラム型弾倉を火薬で吹き飛ばし中空に投棄した。
コックピットハッチが徐々に開くと、隙間から細かい灰と一緒に強風が流れ込んでくる。
胸部前面の、コックピットハッチを大きく開きながら、エレベータにその正面を向け、ガラス面に近づくセレシオン。
操縦席には学生用の黄色のノーマルスーツを着込んだ少女が、ガラスから離れる様にと大きく両手でジェスチャーを送る。
「え? 女の子? た、助かるのか?
そうか……分かった。みんなガラスから離れて! さぁ離れるんだ!」
エレベータの中で、ジェスチャーの意味を理解したひときわ若い一人の青年が、他の避難民に下がるように指示を出し、ドアのある壁に背中を付けて一塊になる。
ハルはガラス面から離れた避難民を確認すると、両手の親指を大きくグッと立てて面前に突きだした。
フットペダルを器用に操作して両足だけで機体のバランスを保ち続ける。
「そうだ、いいぞ。そのままガラスから離れてて。
ガジェットセレクト・右腕レーザートーチ」
音声認識がヴァンダーファルケの右腕に内臓された、レーザー・トーチをまるで十徳ナイフの可動ギミックの要領で展開する。
ハルはフライトステックを握りなおすと、右手の人差し指でトリガーを軽く引く。
シュッと軽い音とともにトーチの先が薄く青色に光り、それを慎重にエレベーターシャフトのガラス面に近づける。
シャフトとエレベーターを覆う2枚の分厚いガラスは、トーチを近づけた部分を中心に鈍いオレンジ色に発光し、溶けた飴細工のようにじわじわと穴が広がっていく。
溶け落ちた穴を始点に、ゆっくりと正確に、人ひとりが通れる穴の形に慎重に軌道を描いてなぞる。
下唇を噛みしめ、集中力を極限まで高める。
開いたコックピットハッチから、穴の程度を肉眼で確認しながら慎重に作業を進める。
乱れた気流に流されそうになる機体を、フットペダルで調節して立て直す。
ちょうどトーチが、2枚の重なったガラス面に丸い軌道を描いて一周すると、切り離された分厚いガラスが、それぞれ内側に傾き外側のエレベータシャフトのガラスは、エレベーターとシャフトの隙間に滑り落ちて見えなくなり、エレベーターのガラスは床に倒れて粉々に散乱した。
ブワッっと乱れた気流が、コマかな灰と共にエレベータの中に勢いよく流れ込んで来る。
青年は思わず腕で顔を覆ってしまう。
「すまない!!! ターミナルビルの避難民は我々で最後だ!!!
今から一人ずつ、そちらに乗り移る!! マニュピレーターを近づけてくれっ!!!」
爆音を轟かせる熱核融合エンジンの音と、猛烈に吹きすさぶ風の音で、青年の声がかき消される。
“これ? あ……これか? あ! やっとつながった!!”
ヘッドセットから、女の子の声が聞こえる。
“もしもし? きこえますか?”
青年はヘッドセットのバイザーを閉じて、その声に答えた。
“聞こえるっ!!! ターミナルビルの避難民は、我々で最後だっ!!!”
通信装置を介していることをすっかり忘れ、思わず大声で怒鳴るような返答をしてしまった。
“わっ! ごめんなさい!!”
耳を劈くヘッドセットの急な怒鳴り声に、少し驚いた様子の女の子が咄嗟に謝ってくる。
“え? あ、いや。違うんだ。その、すまん。ちょっと興奮しすぎてしまった……”
青年は、女の子相手になんとも跋が悪くなり、ヘルメット越しに頭を掻いて反省する。
“よかった。今から上空のメンテナンス口を使い、エントランスブロックまで行きます。
マニュピレーターを近づけるから、一人ずつ乗り移ってください”
女の子が、屈託のない笑みを、こちらに向ける。
バイザー越しに何となく見あげた、一瞬のその笑みに、
まだ20代と思しきその青年の目は、釘付けになった。
――天使だ……。
心臓が沸き上がる程の高揚感。
マグナムで心を撃ちぬかれたような、青天の霹靂。
天と地がひっくり返ったような爆縮が、青年のハートを限界まで膨らませると、やがて決壊して溢れかえった。
予期せぬ内側からの変化に頭が真っ白になって、呆然とその少女の横顔を目で追い続ける青年。
何故か頭の中によみがえったのは、宇宙史の初期に燦然と輝く偉人のエピソードだ。
――かつて、熱核融合炉エンジンの開発に人類で初めて成功した、かの偉大なイギリス人科学者。
アメリア=ベイリーは、賛辞を贈る研究者たちを前にしてこう言った。
「今日! 人類は、宇宙を手に入れた!」
そうだ、今がきっとそうに違いない。
「この瞬間! 俺は!! 宇宙を手に入れた!!!」
一瞬のその笑みが、永遠とも思えるほどの時間、青年の心の中にループする。
腕を延ばせば、あの屈託のない笑顔(宇宙)にもきっと手が届く!!
“あの? 大丈夫ですか? どこか気分が悪かったり?”
あたかも、
『腕を高らかに掲げ、恍惚のまなざしをこちらに向け、止まってしまった男を心配して声をかけた』
かの様な、まるでそんな頓珍漢な(頓珍漢に見えたのはむしろ青年の方だが)ヘッドセットの声で、青年の時間が再び流れ始めた。
気づくと巨大なマニュピレーターが、ゆっくりとエレベーターシャフトに近づいてくる。
“え? あ、うん。――いや違う! 気分なんて悪くないっ!!! 元気だっ!!
よぉしっ!! 一人ずつ今から乗り移れっ! おぅっ! 乗り移ってやるぞ!!! 乗り移るぞっ! おいつ貴様らっ!! 聞け馬鹿どもっ!”
急に動き出すと、おかしなテンションで不自然な台詞を吐き、踵を直角に返して通常の3倍の速度で動き出した。
他の避難民に、必要以上に大きな声で、一人ずつマニュピレーターに乗り移るよう強引に指示を出して回る。
指示を受けた避難民たちは、その訳の分からない青年の突然の「奇行」に皆がたじろいだ。
その様子をコックピットからジッと見ていたハルは
「大きな。声の人だ……」
と小さく呟いた。
「え? ハル? なんか言った?」
展開した補助席で、意識のないパイロットの様子を見ていたカスミが、ハルの独り言に反応する。
「ううん。何でもないよ」
――やたらと声がでかいその青年の名は、ヨーゼフ=ヴェルトミュラー。
何をかくそう後に、地球圏国家連合とコロニー国家連合の和解と共存のために奔走し、ついにそれを成し遂げる宇宙世紀史上、最も偉大な人物の一人になるのだが……今はまだその手腕を買われ、地球連合国家側に所属する一介の外交官僚に過ぎない。
この男が歴史の表舞台に立ち、それまでの古い体制を覆えす偉業を達成するのは、まだすこし後の話になる。
避難民をマニュピレーターに乗せたヴァンダーファルケは、ゆっくりと高度を上昇させた。
コロニーの軸の近く、人口太陽の光が大きく迫る。
軸の中心に近づくにつれ、重力が限りなく0に近づいていく。
眼下には厚い灰色の雲から見え隠れする、すっかり様子が変わってしまった街並みが、ばら撒いた米粒の様に広がっていた。
コロニーの軸を貫く様に直線に伸びた、巨大な蛍光灯のような人口太陽の付け根に、ぽっかりと空いたメンテナンス口。
ヴァンダーファルケの目前に迫ったその巨大な横穴は、直接エントランスブロックまで繋がっている。
「助かった」
肩を撫でおろすハル。
「よくやった! ハル偉い!」
カスミがここぞとばかりに諸手を挙げてハルを褒めちぎる。
マニュピレーターに捕まる避難民が、各々に安堵する様子が開いたハッチから見えた。
スッと左手でお母さんの写真を撫でる。
「お母さん。ありがとうね」
ビビビィ―――!
突然コックピットに鳴り響く警告音。
ヒュンっ
と風を切った音がしたかと思うと、黄色く尾を引いた砲弾がヴァンダーファルケをかすめて飛んでいき、人口太陽の付け根辺りに命中して爆煙を上げる。
グラリ、とバランスを崩しそうになる機体。
熱風が開いたコックピットハッチになだれ込む。
「なに!?」
緩んだ雰囲気が、一瞬で緊張感を取り戻す。
≪――まずいわ。連合のセレシオンにボギーとして捕捉された!≫
ヴィヴィが珍しく、緊迫した声を出す。
宇宙世紀 蘚 匣(コケ ゴウ) @koke_goh
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