神隠しにあった女の子。待ち続けた少年は四十路になって、無職。
ある日帰ってきた少女は異世界で呪術を学び、戦っていた。
思わず二〇歳以上離れた年齢は、二人の間に奇妙で微妙な関係を生む。
時間も世界もずれた戦場に居た彼女は、アンバランスな心を持って、主人公との生活を再開する。でも、何かがずれていて、切なさと不穏さがそこにあって。
そんな心の機微をじわじわと見せる良作。
ただのヒューマンドラマでもなく、異世界転移の設定を現実世界から逆方向に利用して、それを人間関係のドラマに融和していくストーリーは、コミカルでありつつ、大人の筆致を感じさせる。
ずれてしまった時間と、ずれてしまった世界を、埋める優しさを。
時々笑いながら、それでも、じんわりさせてくれる物語です。
広い家に一人で暮らすアラフォー無職男のもとへ、三十年前に行方不明になった同い年の従妹が突然帰ってくる。ただし彼女はどうみても十代。なんと従妹の美遊は三十年間異世界に転生しており、時間の流れの違うその異世界から生還してきたというのだ。
そして始まる、遥かに歳の離れた幼馴染の少女との生活。
一応異世界という言葉は出てくるんですが、異世界自体は出てきません。これはそういったお話ではないのです。
本来同年代だったはずの従妹が少女で、自分だけが歳をとってしまい、でも逆の立場で見れば、従妹の少女は住んでいた世界があっという間に三十年も未来になってしまっている。そんな二人の、価値観のズレと心の隙間を抱えた日常が、しっかりとした筆致で淡々と綴られています。
つまり、読者をぐいぐい引き込むような急展開の物語ではないのです。
時間という壁によって引き裂かれてしまった男女の日常。一見ラブコメのような設定にも見えますが、残念ながらラブにもコメディーにもなりません。二人はそこに踏み込むことができないのです。
これは、一緒に住んでいるのに引き裂かれてしまった二人の、お互いを思いやりながら、徐々に徐々に、歩み寄っていこうと足掻く物語です。
お互いに想い合っているのに踏み込めないそのじれったさが、じわりじわりと胸に沁みこむ作品です。
当初、読ませる力が弱いんじゃないか?と思っていた本作ですが、なぜか読み進むうちにだんだん抜け出せなくなるという、そんな不思議な魅力の主人公とヒロイン。いや、家族というべきか。
不器用だけど、思いやりに溢れた彼らが住むその家に、あなたもしばらくお邪魔してみたらいかがでしょうか?