第12話 メディカル・チェック

 何もない空間の意味がだんだん分かって来た。VRオフィスだ。リモート・ビジネスと称される、未来型推進勤務体系ARビジネスモデル。しかし、それはまだ国家の機密シークレット段階で……

 ――本当に、この会社は謎過ぎる。


『あ、新入りさん? 悪いわねえ、そこ、ちょっとどいてくれないかな』

『――そうだな、この、予算審議は……』


『バカじゃねえの? ああ、データ吹っ飛ばしたなら、システム開発のほうに』



 HMDをつければ、そこかしこで、変哲もないオフィスの会話が聞こえ、人々はたくさん集まっているのに、HMDを外すと、そこは真っ白のメッシュの板が部屋を囲っているだけだ。


「おい、VRで遊んでないで、ボスに挨拶してくれないか」


 HMDににゅっと紫の網タイツが割り込んだ。(うわ)と思うと、網タイツは段々人の形になって来て――……


『カズマロ、この子?』

『ええ、逸材です。おそらく、VRのほうに勤務できるかと』


 声がくぐもるので、HMDを再び外すと、久方ぶりに、立っている人を視認した。


 髪はまっすぐに伸び、女性らしいくびれに、ぎゅっと押し詰められた胸。スカートは短く、ブーツの会社員らしからぬ出で立ちだ。


大河内李咲おおこうちりさシーサイト業務課課長。あたしはゲームのことはさっぱりだけど、VRの視認研究員でもある。あんたは、わたしの代行というところね」


 サバサバと喋って、「和磨」と門奈計磨を呼び捨てにしたところで、窓際の人影に気が付いた。


「あの人、ずっと寝ているんですが……」

「堂園誠士。あいつは夜勤だ。夜に強いくせに、昼間の陽光に弱くてね。陽を浴びると眠くなるらしい」


 ――また、変なキャラが出て来た。


「和磨、おやっさんは?」

「ああ、高遠ちゃんがバグったので、企画課とチェック中だが、面接の時に逢っているから」


「暁月優利です。よろしくお願いします」


 大河内李咲は「はい」と小さく頷くと、「早速だけど、もう仕事が溜まっているのよ。サーバー異常と、営業の反抗」ときつい口調になった。



「――ああ、じゃあ、行ってくるか」

「どうも、Aブロのサーバー群がおかしいのよね、一緒に見て来て」


「じゃあ、新人研修チュートリアルと行きますか」門奈計磨は軽く告げると、ついて来いとばかりに、大河内李咲の前を横切り、隣接した部屋に踏み込んだ。


 中央には大きなストレッチャーが置いてあり、機器につなげてある。一瞬医療カプセルのように見えて、優利は門奈計磨に視線を投げた。



健康診断メディカルチェックだよ」門奈計磨はにこやかに告げた――

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