第7話 第一印象
***
入館、出来ないらしい。
優利は受付嬢に連れられて、個室の前に立った。どうみてもWCだが、ドアを開けたそこには、何もなく、見上げると無数のライトがこちらに向けられ、今にも光を放ちそうに輝いていた。
――
「あの、ここは」
『元はバイオメトリック・パスポートのIC発券センターだったんですが、数年前、我が社キャッスルフロンティアKKが買い取りました』
いや、そうではなく。反論を赦さないと言った風情で、受付嬢がまくしたてた。
『RF
「ああ、そうですか」
RF遮蔽の意味不明な説明を生返事でやり過ごすと、受付嬢はどや顔で、優利をメッシュのようなプレートに立たせた。自分は眼鏡の上から遮断用のグラサンをかけ、パネル前に立つ。天上からブルーライトが注がれて、ずしりとした感覚が消えた。
急に身軽になった四肢を見て、優利は考える。これなら、あと三時間はゲームができるぞ。早く帰りたい。
『あなたのブルーライトによるRF遮蔽度は、常人の20倍です。これは電子兵器に相当します。現段階の
「まあ、ゲーム好きだから。一日の半分はパソコンとVRの世界にいます」
『一日の半分、ですか』
「おたくの会社のVGO、あれに嵌まってしまいまして」
『ああ、あれ、わたしも好きです。まだ最下層終えたばかりですけど』
――あ、いい子。そして、可愛らしい。
「これからの実装が楽しみですね。面接を受けに来たので、入れて貰えますか」
にこ。
やっと笑顔を見せてくれた丸メガネにほっとしたもつかの間、フィルターを外した受付嬢は『だめです』と首を振った。
なかなか可愛い顔をしている。ふっくらとした頬、綺麗な目、整った口元はミスなんとかレベルで、さすが、一流運営会社の雇う受付嬢はレベルが高い。
ちょっと、好みかも知れない。胡桃に雰囲気が似ているような……。
『常に変化している磁場は、あなたの廻りに電流の渦を生み出しています。つまり、外部の磁場は、あなたの内側に溜まっていくわけです。RF遮蔽は、時間を要しますが、全ての電流を消すことは不可能です。あなたは歩く電磁場です。大変に困ります。我が社の機器のためにも、お帰りください』
――なんだと? ここまで来て、帰れ?
優利は可愛いが、けんもほろろな物言いに、打って変わって反発しようと口を開いた。
「あのですね、僕はここに面接に来たんです。責任者を出していただければ」
『では、責任者の部署とフルネームを教えてください。認証します』
――……キャッスルフロンティアKKの担当Kと伝えたが、「それでは認証できません」と断られた。困っていると、電磁場シールド・ドアが開いた。
男が二人、談笑しながら入って来て、受付嬢の後ろに立った。青年と中年だ。怪訝に思っていると、青年のほうが受付嬢の首に手を伸ばした。気が付かず、受付嬢は優利を追い出そうと必死である。
『おかえりください。ここに、あなたの居場所はありません。お帰りくださ』
「高遠ちゃん、きみ、休憩ね」
振り返った受付嬢の頭を、青年はがしっと掴んだ。「悪いね」の言葉に、受付嬢はふるふると頭を振る。
「ちょっと! 女の子に乱暴はしないほうが」
「女の子? ああ、そうだったな。でも、こうしないとオフにならないんだよ」
頭を撫でた。すると、受付嬢は機械のログアウト特有の音を奏でて、静かになった。画像が消えると、そこには真っ白の機体がマネキンのように立っているだけ。
人工生命体の存在は聞いていたが、カクカクで動く出来損ないしか見た覚えがない。家には喋る掃除マシーンがいるが、まるで女の子と見分けがつかなかった。
「アンドロイド……だったんですか」
アンドロイドに見惚れそうになったなどと、胡桃が聞いたら罵倒されそうだ。
聞き取りやすい、男性の声と、少しばかり野太いが明るい中年男性の声が響いた。
「おやっさん、やっぱり、このアンドロイドモデル、几帳面過ぎるって」
「可愛いんだがなあ。性格がきつすぎたかな。うちの妻がモデルだったのだが。
「いや、美化しすぎだろ。ホログラム・スキン、全然あんたに似てないでしょ。何CADデザイン課にイイ仕事させてんの」
ブラックスーツに、ノーネクタイ。それに少し伸びた前髪をざっと後ろに流した、いわゆるホストのような風体で、背もそこそこに高い。しっかりと社会を歩いている風体をして、男は優利に目を向けた。眼鏡を外して、優利をじっと見つめたあと、途端に人懐こそうな笑顔になった。
「
「あ、はい」
「驚いたでしょう。この子、アンドロイドにホログラム・スキンを被せただけだからね。しかも、うちのおやっさんの奥さんの若い頃の数値を取り出して、仮想の娘さんとして登録してるんだ。さあ、面接を始めましょうか」
「ヒコマロくん、まさか、ここでやるつもりかい」
「和磨だっつの。重度のゲーム依存体質の
――なんだか、変な会社に来ちゃったな。そして、僕の電磁波は国家の危険レベルというのは本当だろうか。
それが、暁月優利がキャッスルフロンティアKKに抱いた
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