冒険への誘い―門奈計磨との出会い―

第6話 入館へ

***


 東京に住宅テラスユニットが密集し、一極集中型都市アークシティと呼ばれたのは、もう数世紀前の話だ。しかし、道路は変わらずアスファルトだし、電車の進歩も著しくはない。

 相変わらず天候は不安定で、気象の変動を宇宙から操っている機器の数々HRPPYも、どこか夢物語で信憑性がなかった。


「あんた、今日面接でしょ」


 母親がトーストを出してくれたが、珈琲とヨーグルトカプセルだけを口に含んで、家を出る。

『イッテラッシャイマセ』と玄関のドアが喋った。ドアの中に組み込まれたARセキュリティが言葉を投げている。これは警備システムセキュリティ・ロックを組み込んだ画期的なドアだと聞くが、夜は寝ているらしく、仕事をしない。誰のブレインのコピーなのだろう。

閉じ込められた家を出ると、早くも朝陽が街に朝を呼び込んでいる。


 VGOをプレイすると、いつもこうだ。

 朝陽を浴びた自分が、遠くから還って来たような気になる。それほど、ゲームの終末度が高いのか、それとも没入型VRMMOの特性か。


 かつて競うように立っていた高層ビルの名残を潜り、地下鉄へのトラップを踏む。


 ――随分、閑散としてるな。


 それでも、首都、新宿に降りると若干人が増えた気がする。西新宿なので、そのまま西部へとつま先を向ける。

 崩れかけた駅は、あまりにも寂しい光景で、優利を切ない想いにさせる。たくさんの人々の足音は、今は聞こえない。

 以前は犇めくように人々は駅を降り、仕事場に向かい、おしくら饅頭で乗った電車もあったらしい。


 山の手が廃車になったのは、何故だ。西新宿といえば、CCのメッカでもある。広大な土地の西部は、大きな施設をつくるにうってつけだ。


 直下型地震の余震が相次いだせいか、お台場にあった重要施設はほとんどが西新宿に移っている。かわりに、お台場領域は大きな治水工事の拠点となり、来年には大きな水路と、象徴するタワーができ、地盤の緩みもなくなる計画が「ゴドレス計画」……どこにでもある名前ではないが、どうしてもヴァーチュアス・ゴドレス・オンラインを思い浮かべてしまうのだった。


***


『マップはこちらです』


 昨晩、勝手に立ち上がったパソコンはヴァーチュアス・ゴドレス・オンラインの画面を繰り返し表示した後、通信ボックスに地図のデータを置いて行った。


『それが、我が社への地図データと、通行証になります。尚、交通費は自腹です』



 遠隔操作でモバイルに映して、自動探索ルートをオンにする。


 ――マジ、人がいないな。


 ここまでいないとなると、少し不安が過ぎって来るも仕方がない。朝の電車でぎゅうぎゅう詰めになっていた人々は、どこへ消えた?


 結局最寄り駅「初台」に降りるまでにすれ違った人の数は7だった。幾世期も変わらず照りつける陽光を手で遮りながら、優利は地図アプリの通り、歩いて行く。

 少し、日陰に入った。しかしすぐ、大通に出てしまい、再び夏日を避けねばならなくなった。蝉が鳴く季節ではない。


 じりじりと焼き魚の気分になったところで、目的のビルを見つけた。

 その後ろには、移設した大きなメディカルセンターがある。



『キャッスルフロンティアKK』入口の銘板プレートを確認して、かわいらしい受付嬢に近寄った。


 瞬間、床が宇宙空間になり、壁と窓の境目が消えた。


「あ、あのっ……」

「面接のかたですか?」


 たおやかに聞かれ、優利は背筋を伸ばす。


「――はい! ええと、キャッスルフロンティアKKの入社希望して」


 受付嬢はにこりと微笑んだ。


「セキュリティ・ライトを浴びてください。あなたは、ブルーライト塗れのようで、精密機器が反応してしまいます。ですので、一度、全ての電磁波を落として入館してください」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る