第18話 罪状認否
とにもかくにも、楢岡小太郎を確保して、星本沙織と月黄泉遥香は保護できた。
楢岡堅太郎氏は一命をとりとめた。
最近、役所や警察官からDV被害者の居どころがばれて事件になるケースが頻発していたため、楢岡堅太郎の矢面に立ち続け、守りきった。木田警部補と勘太郎のことが。かえって評判になった。
木田と勘太郎には、追っかけと呼ばれるファンのような存在が照る囲むようになった。
『これはこれで、少し困りま
したねぇ。』
木田と勘太郎が、追っかけられていた頃、芦田刑事が星本沙織と月黄泉遥香の供述調書を取り纏めていた。
星本沙織と月黄泉遥香は、元々自白しているのだから、文章の問題だけで、罪状の認否を取るための取り調べは必要ない。
問題は、楢岡小太郎である。
押し黙ったまま。一言も話さないのである。
雑談にすら応じようとしない。
どちらかというと、強硬派の芦田刑事は、話せ喋れの押しの一手で、責めてダメな時に、少し引くということを知らないのかとさえ思う。
物的証拠と状況証拠があるのだから立検は可能ということで、責めに責めて数日。
楢岡小太郎には、あきらかに疲労が見え始めたが、話し出す気配は見せない。
反対に、芦田には話すものかという気力がみなぎっているようだ。
そこで、芦田は本間と長沼に相談を持ち掛けた
本来なら、木田か勘太郎が書類を作成するのだが、2人は手が放せなくなっているため、本間が代行する形で、送検して長沼検事の元で罪状認否を取ろうということになった。
しかし、相も変わらず黙して語らない楢岡に、敏腕検事の長沼も困りきった。
長沼の困惑を聞いた勘太郎が助け船に動いた。
『検事・・・
楢岡堅太郎氏の切腹の雑誌
見せて、遺書のコピー見せ
るのは、いかがでしょう。』
普通、彼ほど往生際の悪い容疑者はいない。
したがって、そこまでやるという考え方が長沼にはなかった。
本来、送検前に、芦田がやるべき方法ではあるのだが。
『なるほど、やってみましょう。』
楢岡小太郎は、父親の堅太郎が自慢である。
心酔してもいる。
その父親が、自分の罪を詫びるために、切腹までしたことに驚き。
木田警部補と勘太郎が、世間の好奇の目から守って治療に専念できる環境を作ったことに驚いた。
『検事さん・・・
どうせなら、木田警部補さ
んか、真鍋刑事さんにお話し
したいんですけど。』
さすがの小太郎も、号泣しながら、懇願した。
急遽、勘太郎が検事室に呼ばれた。
芦田刑事の勇み足で、送検が時期尚早だっただけということで片付けられることになるだろう。
勘太郎の顔を見た。楢岡小太郎は、堰をきったように話し始めた。
黙秘する限界に達していたのかもしれない。
世間の好奇の目から、父親堅太郎を守ってくれた勘太郎に対する信頼感からなのかもしれない。
長沼検事は、横で聞いているだけで、記録は検察事務官がやる。
もちろん、可視化の一環で、マイクロカセットに録音もしてはいる。
ここ数日の苦心はなんだったのか、疑問になるぐらい素直に供述する小太郎を、長沼は冷ややかに見ることしかできなかった。
それと同時に、勘太郎の尋問技術の高さに舌を巻いた。
一気にすべて話し終わった小太郎を、検察刑務官が拘置所に連れて帰るのを見送って。
『それでは、検事・・・
自分も、帰らせて頂き
ます。』
『真鍋刑事・・・
今後、よろしく頼みますよ。
本間警部と木田警部補と君
のトリオに僕を加えて下
さい。』
勘太郎にしてみれば、警察だけでなく、検察にも大きな味方が出来たということ。
『ハイ・・・
こちらこそ、よろしくお願
いいたします。』
爽やかに応えると、検事室を退室して行った。
京都魔界伝説殺人事件・2 近衛源二郎 @Tanukioyaji
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