第4話 増殖

 まるで肉の棘とも思われるそれは、一つずつ見えない場所に増えていっていた。


 それはもう髪で隠れている部分全てに、びっちりと隙間なく生えているように見えた。


 あの幻聴はあれから聞こえなかったし、小さい口が見えたのは疲れのせいだろう。

 それでもさすがにユリエも慌てて、皮膚科を受診した。

 しかし、この肉の棘は、いざ医師に見せようとすると、綺麗に引っ込んでしまう。

 痕さえなく、まるで何も無かったかのように。


 医師は困惑した顔で

「どの辺ですか?綺麗なものですが」

 と言うばかりだ。

 アレルギー検査や血液検査もして貰ったが異常はない。

 皮膚科だけでなく内科にも回った。

 考えられる検査をしたが、全て異常なし。


 でも病院では消えていたはずの肉の棘は家に帰るとまた出てくる。


 夫にも見てもらったが首を捻って「別に何ともないようだがなぁ」と言うばかり。


 けれどもユリエが見る度に肉の棘は増えていった。救いは外からは見えないということだ。


 娘のマリだけは時々母を見て、怯えてオドオドとしているが、この子は昔からそう。

 少し厳しく育てすぎたかもしれないが、良かれと思ってのこと。

 それなのに、あたしよりも夫に懐いているなんて、我が娘ながら可愛げがないったらありゃしないわ。

 ユリエは顔をしかめてマリを見る。

 イライラするけれど、ユリエはそれでマリに当たるような


 毎日、栄養管理をしっかりした食事を時間通りにきっちりと食べさせて、身の回りも恥ずかしくないように綺麗に整えさせて。


 教育問題にもしっかりと関わって、娘の可能性を伸ばすために、学習塾は勿論、ピアノ、絵画、語学教室、バレエと色々な習い事にも通わせているのだ。


 あたしほど子供の為に頑張っている母親はいないとユリエは思う。


 ユリエにとっては娘の気持ちより、自分の理想の子育て、それを狂いなく完璧にやっているということが大切なのだった。


 それだけにユリエのイライラと不安は募った。

 この訳の分からない現象がユリエの完璧さを損なっていた。

 何よりそれが我慢ならなかった。


 そのうち肉棘はユリエの背中の半分を覆い隠すまで広がっていた。


 そんなある日、ユリエは新聞広告の片隅に不思議な広告を見つけた。



 その広告にはユリエの住む所から、そう遠くない街のビル名が書いてあった。

 普通なら、こんないかがわしい広告など気にも留めないのだが、そこにはこう書いてあったのだ。

【病院で治らない不思議な症状でお悩みの方、ご相談に乗ります※相談のみは無料】


 相談のみは無料と書いてあるし、近くに行って様子を見てみるくらいなら、いいかもしれない。

 怪しげな所なら、そのまま帰ってくればいいのよ。

 わらにもすがる思いだったユリエは自分に言い聞かせて、書かれていた電話番号に連絡した。

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