第3話 異変
ユリエがそれに気が付いたのは、夜、風呂に入って髪を洗っている時だった。
何となく違和感を感じて、首筋を触ってみる。
「何これ、気持ち悪い」
髪を上げて鏡で見てみるとおできのようなものがある。
でも、おできというよりも、まるで先が尖った棘のようなもの。
小さな肉の棘が皮膚から生えているのだ。
目立つ程の大きさではない。
触っても痛い訳でもない。
実際、髪で隠れているし、服を着れば襟でも隠れる。
気にするほどのことでもないだろうとユリエはとりあえず市販の塗り薬を塗って様子を見ることにした。
その日はそれで済んだ。
そして暫くユリエはその事を忘れていた。
場所が気づきにくいこともあったし、痛みも無かったからだ。
あの日までは……。
それはやはりPTA役員会で、いつもの様に役員達を相手に一方的な説教?をしていた時だ。
「何度も言っていますけど、皆さんは意識が低すぎるんじゃありませんか?」
「このところの役員会の出席率の低さ。これはどういうことです?」
「確かに。しかし我々もそれぞれ仕事もあり、まだ小さいお子さんを抱えておられたり、介護をされている方もいる。その中で、できる範囲で助け合ってやっているつもりですがね」
耐えかねた役員の男性が声をあげて、皆も頷く。
(それでも出てきて何とか活動しているのに、あんたに頭ごなしに責められてばかりだから、出席する気力も無くなるんだよ)
と思っているのは、ウンザリしたそれぞれの顔からもわかる。
「そんなこと言えばキリがないでしょう?
そんなのは責任放棄の甘えですよ!甘え!」
さすがに保護者達の顔が歪む。
「あたしだって忙しいんですよ。それでも役員会を一度も欠席した事はありません。会長としての自覚がしっかりあるからです」
「それにひきかえ、あなた達ときたら。恥をお知りなさい!恥を!」
ユリエが人差し指を突きつけながら、そう言い放った時、ユリエの首筋がまたチクッチクッとした。
それと共にユリエの耳にだけ聞こえる様に
「お前こそ恥を知れ!」
と言う囁き声が聞こえた。
「なんですって?」
思わず叫んだユリエに周囲はザワザワとする。
何?今の声?
「ちょっと失礼。すぐ戻ってきます」
ユリエは席を外して、トイレへと急ぎ足で向かった。
人が居ないのを確認してから、そっと髪を上げて鏡で首の後ろを見てみる。
そこには
びっちりと肉の棘が生えていた。
そして
それぞれについた小さな口は声を合わせてユリエにもう一度
「お前こそ恥を知れ!」
と言った。
「ひぃぃっ」と声にならない悲鳴をあげたユリエは思わず尻もちをついて周りを見渡した。
幻聴?幻覚?疲れているの?
もしかして、誰かの
しかし、急に人が入ってきた気配などない。。
一人座り込んだままのユリエだけがいる。
そこは、まるで初めから何も起こらなかったというように……静かだった。
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