浜辺の少女に恋をした
小川貴央
第1話 海辺で出会った
「浜辺の少女に恋をした」
ある片田舎の海辺の通りを歩いていた。
すぐ目の前は浜辺で海が見えていて、人がまばらに居た。
古い家の路地を抜け浜辺に出てみた。
少し緩やかな、ところどころ草が生えている砂浜の坂を
下っていった。
その途中、とてもかわいい女の子に出会った。
髪はショートで素直で柔順な面持ちのその娘(こ)は
決して目立たないけど、清楚な服装は白っぽいセーター
と紺色のスカートを履いていたような。
学生の様でもある清純なその娘の近くを通り過ぎようと
していた。
だがいつの間にか、どちらの方からでもなく、お互いが
そばに一緒に居て 何やら話を二言、三言交わし始めた。
職業を聞かれて、僕はすかさず「中学校の教師です」
と答えた。
否、今はそう言いたかった、決して嘘とか騙りでは無く
そうしておきたかった。その娘は黙ってうなづいた。
後でふと思った、どうしてこんな歳を取った僕に対して
「おじさん」 とか呼ばないのだろうか?
どうしてこんな僕に自然に寄り添い歩けるのだろうか?
まあ、そんなことはどうでも良かった、それほど二人は
自然だったのだ。
その後、お互いまるで自然に浜辺の方へと歩いて行った。
そして二人で一緒にきれいな貝殻を拾おうと真剣に然も
一生懸命に なってきれいな貝殻を探しながらゆっくりと
歩いて行った。
色々きれいな色の貝殻があった、ピンク色、紫色、黄土色、うぐいす色・・・
お互いに貝を拾っては、また別の貝を探しながら夢中に
なっていると、手と手が 触れ合った。
お互い一瞬、見つめ合い、ほっぺたが薄紅色に染まった
のが分かった。
二人とも少し恥ずかしくてクスクスと笑い合った。
それからしばらくして、目の前にある浜茶屋まで行った。
綺麗な貝殻に彫り物や細工をしたり色々な形にして色を
塗って 顔が描いてある、ウサギやカメさん、ディズニー
のミッキーとか可愛い形をした貝殻などが一杯並べられて
いる。
周りには若い学生やカップルも入り混じっていて、賑やか
に話し込んでいる。
僕はその娘に聞いた、「どんな形の貝が好きですか?
ミッキーとかユニークだね、でもウサギが可愛いよ」
その娘は「ミニーがいい」って答えた。僕は念を押した。
「ウサギもかわいいよ、ほんとにミニーでいいの?」
その娘は「うん」と答えた。
僕はいくつかあったミニーの中で特に色がきれいで形の整っている 一番上手く出来ている貝殻を探した。
「ハイ!」と僕はその中からミニーの形をした薄ピンク色のきれいな貝を 取って、その娘に渡した。
その娘はニコッと笑みを浮かべて黙って手にして、とても
喜んだ表情を浮かべてくれた。
そしてまた二人でまた違った綺麗な貝殻を探 したくなって
ゆっくりと浜辺の方へ歩いて行った・・・。
ずっとずっと遠くまで続いている白い砂浜を二人で海を眺めながら 、しばらくは歩き続けた。
言葉など要らなかった、ただ潮騒の調べだけが優しく聴こえていた。
ポカポカと陽気が心地良く温かかった、そして二人の心も。
美しくキラキラ太陽の光を浴びて眩しく輝いている大きな海がそこには 雄大にどこまでも広がっていた。
目が覚めた、何と夢を見ていた。初めての体験だった。
しかもこんなにハッキリくっきりと鮮やかに、その場面が
鮮明に 覚えている。
まるでついさっきまでそこに彼女と二人で居たかのように。
「会いたい!あの娘に会いたい!いますぐにでも会いたい」
「夢の中で初めて出会って恋をした、あの娘にもう一度
会いたい!」
涙が溢れてきて止まらない、ボロボロと泣いている自分が
居る。
こんなに爽やかで純情な気持ちになれて清々しい気分だ。
心は浄化され純心無垢に穢れ無き青空の様に澄んでいる。
僕は初めて出会った浜辺の少女に恋をしてしまった。
それは「夢の中での少女への恋」であった。
それは純朴な初恋にも似たような清らかな恋であった。
しばらくして涙が溢れてきた、何故だか解からないけれど
涙が一杯に 溢れてきた。
そして今も書きながらも涙がまた溢れてきて字が霞んで
よく見えない。
何故だろう? 不思議な感覚でもあった。
僕はすぐにペンを取り、日記みたいに書き出した。
あの娘にもう一度会いたい!あの娘を忘れたくない!
ハッキリと鮮やかに覚えている美しいまでに純朴な想いを
夢の中の鮮明な記憶が時間の経過と共に薄らぎ、忘れ去ら
れて行くのを 留めるために、夢中で便箋に書き綴った。
涙で便箋がボヤけて霞んで見えるのを拭きながら。
どうしてなんだろう? 何故なんだろう?まるで中学生の
子供のような。
そうだ、僕はいつの間にか夢の中で、中学生の初恋をして
いた頃の感覚に戻って いるみたい、きっとそうなんだ。
僕は浜辺の少女に恋をしたんだ・・・。
浜辺の少女に恋をした 小川貴央 @nmikky
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