エピローグ

「なるほどー。それがあって今の先生があるんですね。納得しました」

 『新聞屋』の三島は結末を言い切ったタイミングでそう呟く。よくもまあ2、3時間もこんな与太話に付き合ってくれたものだ。

「でも気になりますね。飛鳥さんの正体って結局何者なんでしょう」

 大体察しが付いているとは思うけどトカゲだ。あの後回収したトカゲ達の死骸を調べたら飛鳥と同じ体のつくりをしていた。これは私の専門分野ではないので詳しくは知らない。

 また、あの後で調査をした際に保護したトカゲを、可哀想ではあるが実験した結果。人間の声を真似して発声したのもあり確信に至った。

 それを説明しようか迷っていた所で部屋の奥のソファーで寝ていた飛鳥が起き上がった。私が部屋に放置している上着を被っていたので存在に気付かなくても当然だ。三島がどんな反応をするのか気になったが先の質問について謝っていた。

「謝る事はない。誰にでも、誤りはあるものだ……ヒッヒッヒッ」

 あやまりの駄洒落か。

「ひえぇ。自分で言って自分で笑ってますよコイツ」

「コイツなんて言うな。あー、起こして悪かったな。今、昔話を聞かせていた所なんだ」

「それで余の話題か。成る程。一言で言えば単体で進化する高度な生物でな。この見た目も人間を模しているに過ぎないのだ」

 これは事実だ。彼の問いかけに対し私は人間だと言い張ったのは少し調べれば直ぐ嘘だとわかった。勿論当初は落ち込んでいたものの、今では人間を超える知的生物と事あるごとにこのように称している。

「ところで貴公、あの時アユに明衣は何か頼んでいたろう。あの質問はいいのか?」

 あの時と言うのはハイゼンを訪ねる直前の事だろう。

 あれはタイムマシンの在り方だ。もしかしたらと思い調べさせていた所、大量の水晶で覆われていたらしい。誰かが出入りした痕跡が有れば助かったのだがそんなものはなかった。後に更に充分な装備をしたうえで行った後の調査では水晶に覆われた施設の奥にこれまた水晶が目立つ位置に有る椅子が置かれていてその様子は水晶がまるで座った様な状態だった。

「タイムマシンですね。それについては研究所での解析結果を聞きましたよ」

 飛鳥は暫く首を傾げてから一言。

「完成したという事でいいのか?」

「はい、最終調整終わりました」

「よし、行くぞ明衣ぁ。向かうは有限の未来より無限の過去だ」

 いきなり大声を上げたので三島は驚いて萎縮してしまった。

「落ち着けよ。確かに試運転に志願したけど直ぐ乗らせてくれる訳じゃないぞ」

 そう言うと目に見える形で落胆した。喜んだり凹んだり忙しいな。

「そうか。しかし不思議なものだ。まさかこの地の遺産を使う時が来るとは」

 すると三島が私にジャーナリストらしい質問をする。

「さて、過去に行くとしたら行き先は何処にしますか?」

 考える間も無い。

「じゃあその時、歴史が動いた……少し前で」


 夢日記をつけると精神がおかしくなると言うのはよく言われる冗句だと馬鹿にしたものだが一時期、実践した事がある。おかしくなるか、どうかと聞かれたらどちらかと言うとYes だ。通常の日記と同じように夢を記憶してしまう為にそれが自分の過去に実際に起こった出来事なのか、夢なのかがはっきりしなくなる。これは恐ろしい事だ。社会的な活動を阻害する恐れがあるからだ。

 ただ、今回話したいのはそんな不思議体験ではなくて普段の夢の内容についてだ。人は過去の体験を夢で追体験する事がある。我が友の話では大体小学生の頃の記憶が生々しく甦るようだ。ただある時私が見たその夢はいつもとある人物についてだった。下記にその人物が言った言葉をまとめる。明衣はこれが何を表すのか理解できるだろうか。

——なあ、もし記憶が戻った時に僕が居なくても。気にしないでくれ。

——精神交換でどちらも人間に入る筈だったのだけどね。まさか君、トカゲに入るとは。

——もう未来を見た時にたまたま見えたんだ。僕が撃たれて死ぬ所。でも、そうならないようにするから。二人で一緒に地上で過ごそう。

——僕はかの黒色生物を遥か未来に旅立った同志達のために、打ち倒さなければならない。地上で強力な武力を得て駆逐する予定だよ。

——飛鳥、お前の名前は黒須飛鳥だ。

——私が見た未来では救世主が現れる様だ。対馬明衣。覚えて置くと良い。

——迎合ではない良き理解者となる。

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洞窟に登る朝日 要領の悪い @malz-well168

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