第3話 ここが領都(領都と言っても農村だけど)


荷馬車の中で揺られる事半日。途中村で休憩を取りつつ男爵の屋形がある村へと向かい辺りが暗くなり始めた頃に村へと到着した。


「着いたぞ。ここが我がガイヤール領の領都、アスト村だ。まあ領都とは言っても小さな村だがね。」


確かに昼に寄った村よりも大きいし村を囲う防壁も丸太を地面につき立てた立てた簡素なものだけどある。それに石造り建物も結構ある。人口は…防壁が円形だとして中央広場がここで建物が平屋建てがほとんど…そこから計算すると大体150から300って所か。平均的な家族構成が分からないからかなり大雑把な数値しか出せないけど。


「いえいえ、立派な村ですよ。道も広場を中心として綺麗に放射状になってますし大きな道は補装もされている。この村の人口で道を舗装するなんて大変な労力でしたよね?」


「そうだな。特に冬は土が凍ってツルハシが通らなくて難航したな。それに採石場も本来冬は閉鎖するのだが好意で開けてもらった。だが春になれば作物を作らねばならないから作業出来るのは冬の間だけ。結果として3年かかったよ。」


機械がある現代ならこのぐらいの道なら数ヶ月で舗装できるってレベルの話だけど中世ぐらいの文明レベルのこの世界だと道を舗装するだけも3年はかかるのか。実際には冬の間だけの工事だから1年ちょっとだろうけど。


「でもこれだけ綺麗に整備しておけば雨が降った後にぬかるむ事も無いでしょうし水溜りで蚊が繁殖することも無いでしょうから衛生面でも良いでしょうね。」


特に蚊は様々な伝染病を媒介する。整備されているのは主要な道だけだけだからある程度しか発生を抑えられないけどそれでも何もしないよりはよっぽどマシだ。マラリアやテング熱がこの世界にあるかは分からないけど蚊がなんらかの伝染病を媒介している可能性は高いからな。


「ふむ、蚊が発生すると何か不都合な事があるのかな?我々の知識だと痒くなる程度の認識しかないのだが。」


「ええ、蚊は様々な病気の元になります。正確に言えば病人の血を吸った蚊が他の人間の血を吸う事で病気をうつす事があるのです。勿論全ての病気を移すわけではないですがなるべく発生を抑えるに越した事はありません。」


特にマラリアは俺の居た世界でも未だに毎年50万人近い死者を出している。多くは医療の未発達な途上国で発生している事を考えるとこの世界でも同じ事があり得るかもしれない。この国の緯度にもよるが…


「なる程。それは初耳だ。他に病気が流行らないようにするために何かする事はあるかね?」


「私は医者では無いので専門的な事は言えませんが我々の世界の歴史では蚊の他にネズミも病気の元になりました。酷い時には国の民の半分が病気によって死んだとの文献もあります。」


ペストやコレラだけは勘弁だな。もし医療が未発達であろうこの世界で感染したらほぼ死ぬと思っていい。国レベルで流行すればもう終わりだ。復興には何十年かかるか分からない。


「ネズミと蚊が危険なのだな。君が落ち着いたら対策を考えよう。知恵を貸してくれるか?」


「ええ、専門家では無いので一般知識で良ければ知恵を貸せると思います。」


「常識レベルのことでも構わない。君の居た世界では常識でもこの世界では恐らく新たな知見だろうからね。さあ、屋敷に着いたぞ。」


馬車が屋敷の前で止まる。俺の目に入ったのはこの世界に来てから見た中で1番立派な建物だった。屋敷の周囲は石垣に覆われ、建物は派手さは無いが2階建ての実質剛健な作りで手入れの行き届いた庭もある。現代でこの館が残っていれば億の価値が付くだろうな。


「立派な屋敷ですね。それに歴史も感じます。」


「なに、私の館など他の貴族の屋敷に比べたら物置と間違われてもおかしく無いさ。まあ200年前の家だから歴史だけはそこそこあるがね。」


築200年か…仮に5〜600年かけてこの世界の文明が現代レベルになったとしてこの屋敷がそれまで残っていれば築800年弱の家か…もしかしたら不動産じゃ無く遺産になるかもしれないぐらい歴史のある建物になるかもしれないな。


「いえいえ、見栄を張って立派な屋敷に住むよりもよっぽど良いですよ。元いた世界では仕事柄見栄を張って立派な家を買って破滅した人間を何人も見てきましたから。」


「ほう、なかなか良い視点を持っているな。私も建て替えを他の貴族に勧められたが特に今の屋敷で不自由はしていないし見栄を張るつもりもないのでね。まあ、内部は必要に応じてリフォームはしているが…流石に200年も経つと痛む所があるからね。でもその方が建て替えよりもよっぽど安く付いているよ。」


最初からある程度は分かっていたけど堅実な人だな。もしこの人が投資をしたら大儲けはしないけど確実に利益を出してくるだろうな。結果的には1番利益を出すようなタイプだ。ウチの会社で不動産投資を始めてくれたらいずれ上客になる可能性が高い人だな。前の世界で会っていたら俺が自ら接客していたな。


「ええ、門を見させて頂きましたがよく手入れされています。石垣に生える苔も定期的に落として居ますね。」


「ああ、冬の時期にこの村の農民に頼んでいる。若者は道路工事で冬の間も仕事を作る事ができたがお年寄りに道路工事をさせるのは酷だと思ってね。お年寄りでも出来る仕事ととして冬の時期に毎年頼んでいるのだよ。」


なる程。公共事業みたいなものか。確かに昔の農家は冬に出稼ぎに出たと聞く。でもこの村の規模では仕事も限られてくるしそこそこ大きな街までも数日はかかる可能性もある。それに道中で吹雪に遭えば凍死のリスクもある。村で仕事があればわざわざ遠くの街に行く必要もない。それに貰ったお金が丸々手元に入る。実に合理的な話だ。


「他にも家の教会や学校の修繕も農家の仕事が無くなる冬に行っている。夏にやろうとすると人手が足りなくてね。」


「お帰りなさいませご主人様」


俺とガイヤール男爵が話をしていると使用人の女性が迎え出て来た。


「ああ、アーシャ君。出迎えご苦労。さて、立ち話はこれぐらいにして屋敷の中に入ろう。モーゼノフは馬を、スティーガンは荷物を倉庫にしまっておいてくれ。今回は荷物も多いから手隙の物を使っても構わない。ユウイチ君は私に着いて来てくれ。」

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モーレツ!企業戦士の異世界転生記。仕事一筋の俺が異世界で美少女に囲まれながら国一番の領地を作る物語 七龍光彩 @kousaisitiryuu

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