第2話 ここが異世界


「っ…異世界に着いたか…森の中じゃなく道の上に飛ばしてくれたことには感謝するべきか…」


俺は起き上がり周囲を確認した。道の左右は森だ。道が石畳って事は少なくとも現代レベルで文明の発達した世界ではなさそうだな…まだ街や村を見たわけじゃ無いから断定はできないが…しかし異世界に来たのにスーツ姿って…これ文明のレベルによっては完全に不審者だぞ?まあ現代でもこんな場所でスーツ姿だったら怪しまれるか。


その時だった。道の先から馬に乗った人が近づいてきた。馬は4匹、うち1頭は小型の馬車を引いている。向こうには完全に気付かれているだろう。ここで茂みに隠れたらただでさえ不審な姿なのに余計に怪しまれる。それに向こうは剣を持っている。転生して早々にまた天国行きなんてゴメンだ。だが馬を何匹も連れているって事は金持ちかもしれない。上手く機嫌を取れば服の1着ぐらいは分けてもらえるかもな。まずはこの服装からなんとかしないと。


「君、何者だ!それにその服装、少なくともこの国では見たことがないぞ。異国の者か!」


「いえいえ、見た目は怪しいですけど怪しい者じゃありません。信じるも信じないも自由。私は別の世界から来た者です。」


「別の世界の者?神の使いとでも言うのか!」


「落ち着くんだモーゼノフ。神の使いでは無いだろうが確かにあの格好は見たことがない。少なくとも何か訳ありの様だな。ひとまず彼の話を聞こう。」


後ろの馬に乗っていたモーゼノフと呼ばれる護衛らしき男の主人が馬から降りてきてこちらに近づいて来た。一見すると話が分かりそうだが…かなりのやり手の雰囲気だ。多分殴りかかろうとしても腰に差している剣で斬り捨てられるだろう。殴りかかるなんて事はしないけど。


「私の名前はロートシルト•ユースティア•ガイヤール。この辺りを治める男爵で領民からは親しみを込めてガイヤール男爵と呼ばれている。君の名前は?」


よし!俺の目は確かだった!まさかこの世界で最初にあった人がここの領主だったなんて!俺ラッキーだぜ!これ上手くいけば勝ち組ルート確定じゃ無いか?


「アサギリ•ユウイチです。この世界の呼び方ならユウイチ•アサギリが妥当でしょう。」


「ふむ…少なくともこの辺りの出身では無い事は確かだな。ではアサギリ君。何か別の世界から来たと言う証拠はあるかね?疑うわけでは無いのだが服装だけでは確証が得られないのでね。」


証拠か…メモ帳とペンじゃ今ひとつインパクトが無い…もしかしたら存在するかもしれないからな…企業戦士の身分証の名刺は…この世界の文明レベルが近代なら作れるかもしれないし…

あっ!確かポケットにスマホが……あった!これならこの世界の文明レベルが10年前でも無い限り存在はしないだろう!


俺はポケットからスマホを取り出し、ガイヤール男爵に見せた。


「これはスマートフォンと言う者です。今から異世界から来たと言う証拠をお見せしましょう。」


俺はアルバムを開き、完成記念にタワーマンションの最上階のベランダから撮った東京の夜景の写真を見せた。


「これが私のいた世界の都市の写真です」


「なるほど…これだけ緻密な絵は人には描けないな…シャシンと言う技術…確かに君が別の世界から来たという話を信じるに足る証拠だな…それにこの絵が本当に君のいる世界の物だとしたら実に興味深い…もし行く当てがないのなら私に仕えてみないか?ぜひ異世界の技術を我が領地のために使って貰いたい。」


「だっ、男爵!いくら何でもそれは危険過ぎますぞ!私も先ほどのシャシンなる物ものを見ましたがそれほどに文明が進んでいる世界の人間ならば我が領地を滅ぼすこともできるかも知れませぬぞ?」


いやいや、そんな兵器は持っていませんよ。それにこの領地がどれほどの大きさかは知らないけど普通の村ぐらいの大きさなら一撃で領地を破壊できる兵器なんて核兵器ぐらいしか有りませんよ?それに俺は企業戦士。軍事とは無関係ですぜ?


「安心して下さい。そんな兵器は持っていませんから。それにそんな兵器があるならもう脅しに使っていますよ。」


「ぬう…確かにそれはそうだが…」


「そういう事だ。それにもし彼の技術が他領に渡れば大きな損失になる可能性もある。万一技術が再現不可能ならば私の娘の執事にでもなってもらおう。見たところ14〜15ぐらいだから年も近いだろうからな。」


14〜15歳?あれ?俺は今年28だぞ?いくら何でも若く見られ過ぎなんじゃ…?まさか…転生したタイミングで若返ったのか…?

俺はスマホのカメラをインカメラにし、自分の容姿を確認した。


マジか…これなら中学の卒業式の写真と大差無いぞ!?でも実は28歳なんですなんて言ったら話がややこしくなる。ここは15歳ぐらいって事にしておいた方がいいな。


「しかしおやっさん。嬢ちゃんは多感な年頃でっせ?それに嬢ちゃんの性格じゃ異性の執事なんて絶対嫌がりまっせ」


後ろの馬に乗っていたもう1人の護衛が男爵に軽口を叩く。


「だろうな。だが娘もいずれ社交界に出る。それまでにあの性格をどうにかしなくてはな…特に男性に対してあの言いようじゃ疎まれるだろう。要するに普段から男性に慣れていれば少しは丸くなると思ってな。まあもし技術が再現可能ならばそちらに専念して貰うが。」


「ユウイチチャン。何としても技術を再現しな。あとおやっさんの嬢ちゃんの執事だけはやめた方がいいぜ。あの嬢ちゃんはキツいからな。少なくとも俺は嬢ちゃんの執事はゴメンだぜ。」


なる程。この男性もかなりのやり手の様だがそんな人間が拒否するって事はかなりのじゃじゃ馬娘と言う事か。だがヤクザに比べれば全然マシだろう。さすがに1人で20人ぐらいの銃を持ったヤクザに囲まれながら土地の交渉をした時はビビったが。


「仕えるからにはキッチリ働いて貰うが成果次第では相応の報酬を出そう。どうだ?ついて来るかね?」


つまり報酬は働けば働く程出る歩合制。良いね。俺歩合制大好きだよ。前の世界の会社も「2000万超え多数」ってキャッチコピーに釣られて入ったからね。実際1番稼いだ年で億越えしたし。まあ年休0日だったけど。


「勿論付いていきます。ですが成果を出した時の報酬は弾んでくださいよ。」


「ああ、ガイヤール家の名にかけて約束しよう。」

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