第3話
休憩を終え、再び森の中を歩き回る。
いや、特に目的地とかはないんだけど、異世界に来てからどうすればいいかわかんないしさ。
それに、食べ物もないからさっきから腹がペコペコで。
食べるのは、ちょっと怖いけど。
そりゃあ今のおれはガリガリのゾンビみたいな身体ではなく、きちんと肉がついた身体なんだけど。
でも、見た目はまともだけど栄養だけ吸収できないままって可能性も、ない、とは言い切れない。
数年間、まともな食事ができなかったという恐怖は、異世界へ飛ばされたばかりのおれの中では完全にぬぐえていない。
「ん……? なんか、向こうの方から聞こえてくる……」
そんなことを考えながらジメジメとした森の中を歩いていると、動物の鳴き声のような声が聞こえてきた。
いや、まて。 鳴き声とはちょっと違うか。
この甲高い感じの声は、叫び声といったほうが適切だな。
「うへえ、嫌だなあ・・・」
叫び声を出すような状況っていうことは、動物がすごく興奮しているか、もしくは何か他の、もっと強い動物に襲われているってことだよな?
もっと強い動物ってことは・・・。
百科事典『ミスティア生活記』に描かれていたような、あのやばそうな魔物たちだろうか。
あー、百科事典じっくり見るんじゃなかった。
絵を見てしまったから変に想像しちゃって、怖さ倍増だわ。
グダグダと考え事をしている間にも、奇妙な叫び声は続く。
何が飛び出してくるかわからないので、声がする方向とは別方向へ、音を立てないようゆっくりと進んでいくことにした。
進んでいった、つもりだったのだが・・・。
「うわ、マジかよ。 何だあれ。 現地人、じゃないよな?」
叫び声から離れるように歩いていたつもりが、なぜか叫び声の方へと進んでしまっていたようで。
木々の合間から向こうを慎重に覗くと、おれがいる位置から二十メートルぐらい先に緑色の人型生物が3匹突っ立っていた。
皮膚は深緑色で身長は子供より少し大きいぐらい。 頬まで裂けた口にはギザギザの鋭い牙。 凶暴な眼光。 右手には棍棒を持ち、腰には動物の毛皮のようなものを巻いている。
あれって、ファンタジーモノでよく見る、あいつなのかな?
えっと確か、ゴブリンだっけか。 オークだったかな?
まあ、どちらでもいい。
すげー、異世界生物はじめてみた! かっこいい!
とは、決してならない、醜悪な見た目。
近づくにつれて段々濃くなるこの異臭は、おそらくだがあいつらのものだろう。 確証はないが、見た目が、その、臭そうだし。
あの鋭い牙と武器から推測するに、あいつら絶対肉食だ。 あれで草食だなんてありえない。 草食だったら土下座して謝ってもいい。
よし、ここは逃げよう。
ミメティークという武器はあるが、おれ、剣とか使ったことないしさ。
そもそも喧嘩すらしたことがないし。
何年も病院で入院していたから、まともに動いたのも数年ぶりだし。
幸いなことにあいつらはまだおれに気づいてないみたい。
今離れれば大丈夫だろうーーー
「ーーーパキッ」 「え?」
うわっ、やばっ。 足元に落ちていた小枝を踏んでしまった。
まあでも、これぐらいじゃあいつらは気づかないよな?
「「「ギャッギャギャギャー!!」」」
「ギヤアアアアアアアアアア!」
そう、甘くはなかった。
どうやらあの魔物は音に敏感だったようだ。
おれが折ってしまった小枝の音を聞きつけた魔物3匹は、獲物が見つかったとばかりに歓喜の叫び声をあげて突進してくる。
対しておれは、この世の終わりを見たかのような、絶望と悲哀に満ちた叫び声をあげて地面にへたり込む。
走って逃げる? 無理無理。 キョウフデ、アシガ、ウゴカナイ。
「ひえええ、くるな! 来るなあ!」
恐怖で力の入らない腕を無理やり動かし、落ちていた小石を拾い魔物へ向かって投擲する。
だが、魔物を狙って小石は見当違いの方向へ。 魔物にぶつけることは叶わなかった。
「だ、だれか、だれか助けてくれ! 嫌だ、死にたくない!」
無我夢中で地面を這いずるも、そんなことで逃げれるわけもなく。
魔物3匹の足音は確実に近づいていた。
足音は近づいてくる。 おれの真後ろにいる。 でも見れない。 怖すぎる。
ああ、嫌だ。 せっかく異世界にきて健康な身体を手に入れたのに。
ようやく自由に、好きなことができると思ったのに。
こんなところで死にたくない。
だれか、たすけーーー
「ーーーボトッ」
突如、何か重たいモノが地面に落下する音が聞こえてきた。
それも、3回。
それと時を同じくして、魔物が近づいてくる足音が聞こえなくなった。
おれの叫び声と魔物の叫び声が響いていた森に、再び静寂が戻る。
恐る恐る、縮こまった身体の隙間から後ろを覗くと。
そこには、首をスパリと切断された魔物の死体が3つ、転がっており。
その横には、ゆらゆらと揺れ動くミメティークの姿があった。
異世界採掘生活〜外は危ないので、穴を掘って暮らすことにしました〜 奏 創也 @chica1986
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