第4話 また歩き出す

大学に入学2年がたった今、友人も増え、生活は楽しいが、僕は高校時代の気持ちを発散することもなく、ふと彼女を思い出すときは、やるせなさが込み上げてくる。大学での時間より、どの瞬間も彼女と過ごした思い出の方が濃密で、大切だった。



二年前と大きくは変わらないイルミネーションで飾られた駅前を、男友達3人で歩く。昨日いきなり友達のひとりが、合コンの人数が足りないとかで、埋め合わせを依頼してきた。断る理由がなかったから、引き受けることにした。


「いやー、今日来てくれてありがとな長谷川!ちょうど一人いなかったんだよ」

「いいけど、ほんとに僕でいいの?」

「大丈夫!俺らが話するから!お前は自己紹介して話すだけしてな」



クリスマスも一週間後に迫っているからか、夜の駅にはカップルが多く、手をつなぎながらイルミネーションを見て回ったりしている男女に彼女の姿が重なってしまい思わず目を離す。



会場の居酒屋に着いたところで、待ち合わせの女子3人と顔を合わせる、と

「あれ、長谷川くん?」

女子のひとりがちょこちょこと寄ってきて驚いたような声を上げる。聞きなれた声だった。


「え、長谷川の知り合いなの?!」

「そうですよ!高校時代の、ね?長谷川くん」


何度も思い出したそのまんまの笑顔で、数年ぶりの彼女は、三好さんは僕の顔を覗き込んだ。


「あ、うん……そうだよ」

「なんだよ長谷川!おまえこんな可愛い子と知り合いだったのかよ!てかめっちゃ仲良さそうじゃね?」

「そうですねー、長谷川くんとはいろいろと……」


悪戯な顔をこちらに向けてる


「いや、ただ勉強教えてただけだよ」

「なにそれ、めっちゃ仲良いじゃん!」

「そんなんじゃなくて……」

「まぁまぁ、あとは中で話そ!ね?」

ここで女性グループの1人が仲裁してくれてこの話は打ち切られた。


合コンでは色々な話をしたが、少しまわったアルコールに彼女の姿に目が離せなくなって、何を話したのかは覚えていない。



結局最後は、僕の友達ふたりは1人ずつ好みの子と固まって今日は解散となってしまった。彼女と僕だけが取り残され、帰りの駅のホームに向かう。


「ねね、長谷川くん」

「何?」

「今日どこか泊まってく?」


周りを見ると駅を少し外れたところで、薄暗い通りにホテルのネオンが連なって光っていた。一瞬迷いながら


「いや、僕は帰るよ。明日一限から講義だし。」

「えー、いいじゃん」

「やだ」

「やっぱ長谷川くんってさ、あの頃私の事好きだった?」


いきなり手を握られながら発せられた言葉の意味が一瞬理解できなくなる。


「え?」

「だから、高二の冬。私結局彼氏作っちゃったじゃん?だから……」

「いや、ないから。」


いつもより語気が強くなってしまう。顔に熱がたまるのを感じる。きっとさっき飲んだアルコールだろう。


「ただ勉強お願いされて、教えてただけだから。それ以上なんてないよ」

「そうなの?……じゃあなんでもいいから私とこの後付き合ってよ。」


握っていた手を、自分の胸元によせながら体を引き寄せてくる彼女、近づくにつれ、手に張り付く弾力や柑橘系の匂いを感じる。苛立ちが収まっていく代わりに、何か感じたことの無い、頭がくらくらするような気分になった。

いつのまにか間がないほどに密着してしまい、完全に手に力が入らなくなって、ただ感触を感じるだけになっていた。


「なんかあったの。」


辛うじて声を発して、理由を尋ねた。



「んーとね、先週ね……彼氏に振られたの。だから慰め……?みたいな。彼女いないんでしょ?長谷川くん。今日だけ、ね?」



あぁ、そうか


また彼女は僕をそのような対象としてみていなかった。


さっきまで力が入らなかった手に力が入り、彼女の拘束を振りほどく。


「もういいよ。僕帰るわ。」

「え……そっか」

「買って帰るものあるからここで別れようか。」

「ついて行くよ……?」

「いいから」


すがるような目で見つめる彼女に、苛立ちを感じながら踵を返して歩き出す。


きっと彼女とは二度と会わない、そんな気がした。


ほらな。人生なんて所詮こんなもんだ。上手くいくなんてありえない。


ネオンが照らす道を、1人で歩く。

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All Right うまくいく 中州修一 @shuusan

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