第3話 されど時は過ぎていく
あの日を境に僕と彼女は一緒に遊びに行く回数が増えた。カラオケ、映画、年が明けてからは初詣などなど、本当に僕の人生の中でも楽しい日々がこの時期だった。
三月に入って、来年の受験に向けて気合を入れ始める者やまだまだ遊び盛りの人、その中間にある人などクラスの雰囲気が色々な気持ちで溢れている。
「長谷川くんはどこの大学行きたいの?」
「まだあんまり考えてないかな。三好さんは?」
「私はとりあえず行けるところを探すよ……」
彼女は遠い目になりながら答えた。
学年がひとつ上がれば、クラス替えが待っている。うちの学校はクラス数が多いから、文系理系で分けても来年三好さんと同じクラスになる確率は少ないだろう。
だから。
まだまだ知り合って日は浅いけど、彼女とすごした数ヶ月は本当に幸せだった。だから僕はそんな彼女ともっと一緒にいたい、そう思うようになっていた。そんな気持ちあまり経験してこなかった僕からは考えられないような気持ちだった。
それから数日して、終業式も数日ごと迫る3月の中旬。事件は起こった
短縮授業も始まり、僕らは昼間から自由時間になることもしばしばあった。
「三好さん」
「んー?どしたー?」
帰り支度をしながら呑気な返事が帰ってくる。
「今日どこか遊びに行かない?」
今日にすると決めていた。覚悟していた。頑張って前に進もうと決めた。
するとおもむろに彼女の帰り支度の手が止まる。
「あ、ごめん今日は遊べないかな」
「え?なんか用事でもあった?」
「うん、ちょっと家族で遊びに行くんだー」
申し訳なさそうにこっちを見て笑う彼女。
盛大な肩透かしをくらったあと、このまま帰るのは癪なので以前にスイーツバイキングに行った駅前のビルに入っている本屋に寄ろうとしていた。まだ日中なので、スーツを着たビジネスマンが目立つ。
そんな中、僕と同じ学校の制服を着る男がいた。そこに並んで歩く女子もうちの学校の制服を着ている。手を繋ぎながら本屋のある方向へ向かっていた。
しばらく見ていてなにかに気が付き、僕は衝撃を受けた。
いや、ありえない、だって彼女は家族と一緒にいるはず……でもどう見ても女子は三好さんだった。
訳が分からなかった。彼女に兄弟はいない。
何分たっただろうか。本屋に行く気力がなくなった僕は、帰りの電車のホームに向かう。その時何を考えていたかは思い出せない。
次の日、いつもと変わらぬ様子の彼女に聞いてみる。
「三好さんって彼氏いたの?」
「え、いつ聞いたの?」
「昨日駅で見かけた」
話を聞くと、どうやらお互い秘密にしながら付き合っていたらしい。ちょうど僕が彼女を意識し始めた数週間後から彼に告白されて。
「僕のことは言ったの?放課後いっつも一緒だったじゃん」
「うん、でも長谷川はそう言う関係じゃないだろ?って言われた。」
「それでなんて答えたの?」
「そりゃ、うんって」
信じられなかった。もうここで声を上げて泣いてしまいたかった。僕は全力で彼女に寄り添おうとしていたのに、彼女は少しも見てくれていなかった。
そんな気持ちを抑え込んで新しい学年になり、案の定彼女とは同じクラスにはならずに、関係は疎遠になっていった。
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