3-5. 夢小説はシンプルさが大事【後編】

 すっかり後編を書いたつもりでいたのに、手をつけていなかった。今回で、三回に分けてお送りした「夢小説」に関する話題も最終回に入る。


 以前よりだいぶ間が空いたので、ぜひ、

・前編 https://kakuyomu.jp/works/1177354054892430828/episodes/1177354054892626647

・中編 https://kakuyomu.jp/works/1177354054892430828/episodes/1177354054892626762

 を読む前の方は、そちらから見て頂けると話の流れが分かり易いと思う。


 今回は、「話を進める上で意識した方が良いこと」について触れる。



【2.誰が話を“進める”のか?】

 前回までの通り、夢小説とは「既存キャラ」と「公式に登場しないオリジナルキャラクター(夢主)」のやりとりを楽しむものだ。そのため、夢主だけが唯一、夢小説の書き手が考えた完全オリジナルの登場人物となる。

 これが、中編でも述べた通り、夢主への過度な愛着やいらない存在感の付与につながってしまう根本原因というわけなのだが。


 時としてこの「書き手の過度な愛着」が、夢小説の物語に影響を与えてしまうことがある。

 この観点で言うと、以下のこと強く意識するだけでも、夢小説が「読み手が求める素敵なお話」にぐっと近づくと思っている。


◯ 物語を動かす&決め台詞を言う役割は、「既存キャラ」に任せる!

 無意識のうちにやってしまうのは、自分で考えた愛着ある夢主に、この役割を全部任せてしまうということ。

 もちろん、“夢主は全て受け身であるべき”と言っているわけではない。既存キャラとともに戦い、走り、叫ぶ夢主がいるのは良いことだ。


 しかしその時、物語を動かす行動を取る・誰かに影響を与えるのは、夢主ではなく既存キャラである方が、夢小説としての醍醐味を読み手に味わってもらえる。

 夢小説の読者が求めるのは、あくまで「好きなあの人が◯◯してるところ」。語弊を恐れずに言えば、書き手がどれだけ愛着を抱いていたとしても、読み手は夢主にあまり興味がない。優先順位が下がる。

 夢小説における夢主は、あくまで「既存キャラの良さを引き出す」ものであり、「没入感を引き出すため」のものだ。読み手は夢主に会いに来た訳ではない。既存キャラの姿を見に来たのだ。


 もちろん、魅力たっぷりで読み手を惹きつける夢主はたくさんいる。元となる公式のジャンルによっては、個性豊かで設定も凝った夢小説が多いものもある。

 だが、その場合であっても、「物語を動かす&決め台詞を言う役割」は、既存キャラにしておいた方がいい。夢小説の中で物語の美味しいところを持っていくのは、夢主ではなく相手にした方が、夢小説らしい楽しみ方が出来る。


 ちょっと乱暴な言い方になるが、オリジナルキャラクターに見せ場を作りたかったら、夢小説ではなく一次創作を書いた方がいい。



【3.ハッピーエンドか? バッドエンドか?】

 これは単に私のスキルや作風に寄った感覚だが、どちらかと言えばわかりやすいハッピーエンドの方が読み手に喜んでもらえた。おそらく、自分は「希望が持てる結末」の方が好きだからだろう。


 これは裏を返すと、バッドエンド系が得意・好きな人は、思い切りそちらに寄せた方が良いということでもある。

 ヤンデレ系、ホラー系……。夢小説になりそうなバッドエンドなシチュエーションはたくさんある。自分が得意な方向性に思い切り振り切れば、同じようにそれが好きな読み手が集まって楽しんでくれるだろう。


 あまりバッドエンドが得意でない私が、それに近い夢小説を書いた時に感じた反省点は以下の二つ。


・バッドエンドに向かう過程で話がわかりにくくなり、それが「ちょっと何言ってるかわかんない」状態になってしまう

・単純に、そういった描写が苦手な人に読んでもらえなくなる


 これらの点を乗り越えられるスキルを持っていなかった、というわけだ。

 せっかくの夢小説なのだから、自身の得意な分野、好きな文脈で物語を書いてみた方がいい。そうすれば、「こんな話を読みたいなぁ」と思っている読み手に届きやすくなる。



──



 ここまでで、三回に分けてお送りした「夢小説はシンプルさが大事」はおしまいだ。もし、後編をお待ちになっていた方がいらしたら申し訳ないことをしてしまった。そんな稀有な人はいないと思うが、仮にいたとしても、「待った甲斐があった」と思ってもらえていたら嬉しい。


 この三回で、

・夢小説とはなにか

・夢主について

・物語の進め方について

 について書いたが、少しは参考に、そして話のタネになっただろうか。


 もちろんこれらは、私の感覚によるものなので、完璧な正解でも唯一解でもないし、夢小説作成完全マニュアルでもない。

 だが、「夢小説を書きたいな」と思っている人、なかなかうまく書けずに悩んでいる人、夢小説とは何なのか理解が難しかった人の一助になればいいなと思っている。



 最後に、夢小説にとって一番大事だと思ったことを挙げておこう。

 結局のところ、これに尽きる。


◯己の願望に正直に!

 「あの人のこんな姿が見たい」「このセリフを言わせたい」「悩んで欲しい」という自分の思いを信じて、この世のどこかにいる同志に届くと願って、とにかく書くこと。


 自分が読みたい、書きたいと思った夢小説は、多分少なくとも三人くらいはどこかに同じ趣味の人がいるはずだ。それくらいの気持ちで書いてみて、人目につく場所に置くのが第一歩になる。

 私のさほど強くもないアカウントでも、夢小説が特に多く閲覧されブックマークしてもらえるのは、多分、そうしたシンプルな願望に共感してくれる人が多いからなのでは……と思っている。


 そういうわけで、少しでも夢小説の案が浮かんだら、書いて公開してみるのがいい。

 だってもしかしたらその夢小説は、どこかの誰かにとって、最高の二次創作になるかもしれないのだから。

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