1-6.顔のない主人公
うっかりすると、登場人物の見た目の表現を忘れてしまう。多分、自分が今まで読んできた小説の中で、基本的にあまり詳しく書かれていなかったからだろう。
「押し絵と旅する男」なんて何度も読んだけど、私は押し絵と旅するおじさんの瞳の色を覚えていない。車窓からのぞく寒々しい景色の感覚は、覚えているのに。
特に、私の場合は一人称で物語を書くことが多い分、「主人公の見た目についてほとんど触れない」という現象が極めて多い。
・アオイのすべて 〜第四十一代司教に係る司教記録本
https://kakuyomu.jp/works/1177354054888774935
この作品は、登場人物たちの身体的特徴が物語の設定に関わることが多かったり、主人公が初めて会う人々(取材対象)が登場人物の大半を占めていたりという事情がある。
そのため、私の作品の中では比較的、人物の見た目の描写は多い方だ。
しかし、主人公についてはほとんど記載がない。私も、主人公の顔を知らない。
友人に読んでもらって、読んだ印象から想像する姿を聞いてみて初めて、「そうなんだー」と思った塩梅だった。
・七日間のラズベリー(現在は非公開)
そもそも、主人公が「ラズベリー」という「この世の誰かと入れ替わる現象」の真っ只中だ。主人公はいつもと違う体で生活をしている。その分、主人公が入れ替わった先の男の子の顔については、かなり詳しく表現した。
しかし、回想で出てくる主人公については、さほど見た目の記載をしていない。友人とふざけあって、見た目の悪口を言い合うところでも、話の内容は限られている。
日頃、一人称視点で生活をしている私たちが、(見た目を仕事で使わない限り)そんなに自分の顔を気にしているか?というと、そうでもないだろう。だからますます、人の見た目の描写が減っていく。
もし、ファッションモデルが小説を書いたら、見た目や服装の表現が増えるのかもしれない。華やかで、何だか楽しそうだ。
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