絶望のトンネル

大幸望

トンネルを進む、その先には


ここ数時間、暗闇の中を歩いている。私はずっとこの暗闇はトンネルの中だと思っていた。

周りには共に歩く人もいる。トンネルを抜けた先には遊園地があると聞いている。

この壁に沿って歩いていけばその先に出口がある。そう信じていた。

いや、今でもそう信じているのだが、トンネルの先への思いは決定的に違ってしまっている。おそらくこれを絶望というのだろう。




祝日に遊園地に行こう、そう友人に誘われたのは一ヶ月前のことだ。遊園地は友人と私の自宅のちょうど中間にあるので、自然と現地集合になった。

遊園地行きのバスにゆられていると、トンネルの手前で終点と言われた。

運転手は、遊園地の近くの駐車場で大規模な工事があり、トンネルの先ではUターンできないと申し訳なさそうに説明していた。

周りの人は何も疑問を持たずトンネルの中に入っていった。

ついていくと、トンネルの中はやけに暗かった。

ただ、周りの人が何の疑問も持たず壁沿いを歩いていくので、そんなものだと思った。

壁沿いには定期的に“オアシス”があり、そこだけは明るく照らされていて、コンセント・wifi付きの食事処もある。1時間ぐらい歩かないと到着しないと聞いていたが、これなら困ることはなさそうだ。

そう思って歩き続けていた。


そして、大きな問題に気づいた。きっかけは、多少の好奇心だった。




ここまでトンネルの壁沿いに歩いてきたが、反対側の壁を見たことがない。“オアシス”ごとに看板メニューがちがうのだから、反対側の壁の“オアシス”にはきっと他の美味しいものがあるに違いない。

そう思い、勇気を出して壁から離れてみた。

その先には、たしかに壁があった。思いの外近くだった。ただ、その壁はトンネルの壁には思えなかった。何しろ、あきらかに四角いのだ。

壁沿いに歩いていくと、曲がり角があり、しばらく歩くとまた曲がり角がある。この繰り返しだ。

同じ場所をぐるぐる回っているだけのように感じる。


ぐるぐる回っていたその時、その壁の向こうからカップルが笑いながら出てきた。

「次は何に乗る?」という会話をしながら。

あまりに驚いて、そして見落としていたことに気づいた。

音が聞こえる。壁の向こうから振動が伝わってくる。笑い声が聞こえる。

でも、そこには壁がある。

扉なんてない。たしかにここから出てきたはずなのに。




あまりの衝撃に、無意識のうちにふらふらと歩いていた。

四角い壁だけじゃない。三角の壁もあるし、丸いものもある。

耳をすませば笑い声が聞こえてくるし、「ポップコーンをください」という声も聞こえる。

まちがいない、ここは遊園地だ。問題は、私にはただの暗いトンネルにしか感じられないことだ。

これまでは、ただ周りが暗いだけだった。

今は、心の中も真っ暗だ。

ぐるぐる回ったので、ここがどこかさえ分からない。




どれだけ落ち込んでいても、何回壁にぶつかっても、歩きまわることはできる。

“オアシス”が見えてきた。念願の“反対側の壁のオアシス”だ。

この暗闇の中で、初めてケーキが売っているのをみた。ここの看板メニューはカツ丼だ。

明るいからだろうか、すこし落ち着いてきた。

カツ丼美味しい。


ケーキが運ばれてきた。栗のモンブランだ。

ただ、ひどく安っぽっくに見えた。

トンネルを抜けた先が、雪国だったらいいのに。

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絶望のトンネル 大幸望 @Non-Oosachi

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