3.リサイクル

春は別れの季節なんて、自分には関係ないと思っていた。

それがどうだ。もうすぐ付き合って一年になる彼に、授業の合間に呼び出されたかと思えば、開口一番「別れて欲しい」だなんて。なんでと問うても、忙しくて構ってやれないだの、明らかに上っ面の返事をされる。視線は合わないし、左手はそわそわと服の裾をいじっている。嘘つくときの癖くらい、一年隣にいたらわかるっつーの。

私も今年実習とかあるし、本格的にすれ違う前でよかったかも。バイバイ。物分りのいい返事をすると、彼は安堵したように息をついて去っていった。



「結構優良物件だったのになあ!」


ダンッと音を立ててジョッキを置く。それもう何回目よ、と向かいに座った未空が笑った。何回目ったって、今日の今日なんだから許してくれたっていいじゃないか。


「どーせ先月の新歓で新入生捕まえたんだよ」

「あー、それは否定できない」

「否定しようよそこはぁ」

「適当な慰めとかいる?」

「いやそれはいらない」

「いらないんじゃん」


テンポよく突っ込んで、綺麗な二重の丸い瞳を細めて破顔する。美人は3日で飽きるとか言うけど、入学式で声をかけて一年と2ヶ月、少なくとも私は目の前の美人に飽きていない。

顔よし、ノリよしで、勉強もできる。そして優しくてよく気がつく。今日だって、五限前に明らかに様子が変わった私に、愚痴会する? と声をかけてくれたのだ。


「幼稚園の先生になって、子どもたち可愛い〜って言えてるうちに、大学で捕まえた彼と結婚して専業主婦になる予定なのに」

「でた。これが成績上位なんだから、他の子たちはたまったもんじやないよねえ」

「三期連続成績トップの女が何言ってんのよ」

「まあ私は一人で生きるために教員目指してるんだし、うちみたいな地方私大なら上位層にいないとねえ」


ふわっふわの天使みたいな綺麗な見た目のくせして、口にする言葉はいつだってあっさり塩味だ。しれっと同級生たちをディスってるのも自覚してるんだろう。

もうちょいなんか食べようかなあ。あ、舞まだなんか飲む?

決して聞いていないわけではないのに、未空は自分のペースを崩さない。そういうところが気楽で、そこに甘えている自覚はあるのだけれど。

未空が備え付けのボタンを押せば、やたらと通る店員さんの声が返ってきた。しばらくして現れたアルバイトくんに、焼き鳥の盛り合わせとお茶漬けとパンナコッタを頼んでいる。絶対もうちょいの量じゃないよそれ。


「いっつも思うんだけど、その細い身体のどこに入んの?」

「普通に、お腹に」

「うそだあ。やっぱ消費カロリーの差なのかなあ」

「演劇、めちゃくちゃ筋トレするからね。部員募集中だよ?」

「人前で劇とか絶対無理」

「知ってたなぁ」


結局くだらない話ばかりで、愚痴の解決案なんかない。別れ話だって、笑い話になれば浮かばれるのだ。これが私たちの日常で、きっと学生の間は変わらない。

運ばれてきた焼き鳥のタレの香りに、未空が顔を綻ばせる。未空の幸せは食べることだろうな、なんて勝手に検討をつけながら、熱い緑茶を喉に流した。

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箱庭Z世代 南 美桜 @mi0_3io

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