高二 二学期 九月~十月の出来事
第一章 新学期の幕開けは生徒会と共に
第1話 年長者の言葉にはそれなりの重みがある
二学期が始まり、学校大好きっ子ではない俺は、鉛を背負っているような重い足どりで学校へ登校した。今日は始業式のため、朝練もないので他の学生たちに交じって登校する。
管理人の芝山さんは、校門の前を竹ぼうきでガサガサと音をたてながら掃いていた。
「おう、サッカー少年! 夏休みは青春をエンジョイしてたか!?」
「おはようございます、芝山さん。まぁ、ぼちぼちですかね。」
ぼちぼち――何をもってエンジョイしたと言えるかはわからないが、今年の夏休みは悪いものではなかったとは思う。まぁ、部活もキャプテンを就任し大変になったし、恋愛のことも、進路のことも、もやもや悩んでいる状態が相変わらず続いているのだけれども……。
俺はふと、人生の大先輩である芝山さんに尋ねてみた。
「芝山さんも、若いうちって……恋愛とか、進路の事とか、色々悩んだりしました?」
「おお? もしかして人生相談か!? なんや青春っぽいのぉ!」
芝山さんは、目を細めて懐かしむ様子で俺を眺めた。俺の姿に、過去の自分を投影させているのだろうか。そしてなぜか凄く嬉しそうである。
「そりゃ、わしも毎日いっぱい悩みまくってたなぁ。悩んで、間違えて、失敗して、恥かいて――それでも必死に生きてたから、そんな自分も笑って許してあげられる今がある!」
「はぁ……そういうもんですかね。芝山さんはあんまり、後悔とかなさそうですよね。」
「いや、後悔してる事もそりゃあるわなぁ。」
「え? 例えばどんな事ですか?」
「例えば――打ち込めるものをなかなか見つけられなかったことやの。」
「打ち込めるもの?」
「そうや、大人になるまで……、いや大人になってからもこれがしたいってもんが見つからなんだ。だから、時間を忘れて夢中に取り組めるものを見つけることが大事やで。大人になったらみんな仕事しないかんけど、それだけやとつまらん人生になる。仕事が大変やけど、これがあるから人生楽しいわって思える趣味がある方が良い。」
「なるほど、夢中になれるもの――。」
「夢中になってるうちに、その趣味が仕事に繋がる事だってあるしな。まぁそこまで極めようと思ったら、何せ多くの時間をかけなあかん。それなら若いうちからの方がええやろ? これは大事なことやからよう覚えときや。」
「はい、わかりました。」
「あとは、やっぱり――好きな子に告白しなかった事やなぁ。」
「え!? 芝山さんからそんなシャイボーイみたいな発言がでるとは……。」
「おう? わしも昔は恥ずかしがり屋のシャイボーイやったわ。自分の中で大切に持っていた心を、相手に言葉として伝えて贈るのは、何よりも素敵なプレゼントやからの。」
「わ、なんかロマンチックな事いいますね。」
「そうや、わしはロマンチストやからの。まぁ付き合う付き合わないは別にしても、好きだった事を相手に伝えておくべきやったと思うのぉ。大きな後悔といえば、それくらいやの。」
その時、朝のHRを告げるチャイムがなった。
「おぉ、すまん。始業式の日からつい話し込んでしもたの。」
「いえ、とても勉強になりました。ありがとうございます。」
夏休みはあまり芝山さんに会わなかった事もあり、つい長く話し込んでしまった。人生の先輩は、後悔する事もあったそうだがそれでも幸せそうだった。
これらの芝山さんの言葉は、この先の俺の人生の選択において、確かに大きな意味をもつ事になる。
【芝山さんからのアドバイス1】
――時間を忘れて夢中になれる何かを見つける事。
【芝山さんからのアドバイス2】
――自分の中に大切にしていた心を、相手に言葉で伝えて贈る事。
それが正しいかどうかは別として、年長者の言葉にはそれなりの重みがあるのだ。
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