第13話 絵梨ちゃんは、風花との出会いの思い出を語る

 最低限、妹の友達を出迎えられる程度の身支度を整えリビングに戻ると、家の愛犬であるプーさんはだらしなく仰向けになり、絵梨ちゃんに腹を撫でさせていた。プーさんは横目でこちらに視線を流し、「何か文句でも?」といった表情を向けてきた。


「ありがとうね。プーさんの相手してもらっちゃって。」

「いえいえ……、可愛いですね……。」


 普段は風花におもちゃにされるプーさんは、温厚な絵梨ちゃんに撫でられるのが心地よいらしい。


「……。」

「えーっと……。」


 このまま無言で風花の帰りを待つというわけにもいかず、俺は話題を探した。しかし、俺と絵梨ちゃんの共通の話題といえば、必然的にあの天真爛漫な妹の風花の事になる。


「風花が迷惑かけてない?」


「いえ……、いつも……一緒にいてくれて……楽しいです。」

「そっか。それならいいんだけど。」


 俺が知る学校内での風花は、中学一年の頃の風花で止まっている。家ではのほほんとくだけた様子でいるが、今でもやはり学校はあまり面白いところではないらしく、学校内での話は絵梨ちゃんの事がほとんどである。


「俺が中学三年で、風花が中一だった当時からよく学校の愚痴聞かされててさ。まぁ中学って何かと校則厳しいし、先生も高圧的な人が多いし、気持ちはわかるんだけどな。」


「そう……ですね……。お兄さんが……中学を卒業してから、……風ちゃんは、かなり荒れてました……。当時は……私も……、風ちゃんとは距離を置いてた……と思います。」


「そうなんだ。まぁそもそも二人ってタイプがかなり違うもんね。」


「そうですね……。あの事がなかったら……、多分今でも友達になっていなかったかも……しれません。」


 あの事――クラス内での面倒ごとに絵梨ちゃんが困っていた際、風花の存在が助けになったというその話なのだろう。


「あの事……って、俺もあんまり詳しくはしらないけど……、でも二人が仲良くなれて、今こうして楽しく過ごせてるのは良い事だね。」


 よくは知らないが、おそらく明るく笑って話せるような内容ではないはずだ。過去の件をあまり思い出させるのも悪いと思い、俺はそう言葉を返した。


「そうですね。もしよかったら……、私から……説明しても……いいですか?」


 絵梨ちゃんからの思わぬ提案に、俺は少し驚いた。


「いや、でも……、あまりいい思い出ではないんじゃないの?」


「そんなこと……ないですよ……。その当時は……辛かったですけど……。今となっては、笑って話せるような……、むしろ風ちゃんと出会えたいい思い出の話です。」


 今となっては笑って話せる……、俺は似たような言葉を聞いたのを思い出した。確か芝山さんも、似たようなことを言っていた。


 青春時代にどれだけ嫌なことがあっても、辛いことがあっても、恥ずかしいことがあっても、時間というものは偉大で、懸命に生きていればいつしか笑って話せること日が来るらしい。


「絵梨ちゃんがいいなら、その話を聞かせてもらえたら嬉しいかな。」


 単純に、愛する妹とその友達の、出逢いのきっかけ話を聞きたいという理由が一番だ。だが――辛い時期を乗り越えて、笑って話せるという彼女の話は、きっと青春の悩みに最近ぶつかりまくっている俺にとっても、何かしらのいい影響を与えてくれるような気がした。


「そうですね……。どこから話そうかな……。」


――思案する表情を浮かべた後、黒瀬絵梨は当時の出来事を順を追って語ってくれた。

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