高二 夏休み 八月の出来事
第一章 先輩たちの最後の総体
第1話 どこか精気の抜けたサッカー部の二年生
夏休みが始まり、約二週間が経過した八月初旬の日曜日。俺、月山、剛田、池上のサッカー部二年の面々は、コンビニで買ったアイスを食べながら、どこか精気の抜けた表情でぼんやりと青い空を眺めていた。
「終わったな……。先輩たちの最後の総体……」
月山は虚ろな目をしながら、ぼそっと言葉を漏らした。
先輩たちの最後の総体に向けて、俺たちは日々部活にだけ集中して過ごしていた。そして昨日が総体の一回戦であったのだが……あっけなく終わった。
剛田は悔し気な表情で、唇を噛みしめなが言った。
「ぐぬぅ……、俺がもっとシュートを決められていたら……」
「違うよ、剛田くん……。相手の攻撃を止めれなかった、僕が悪いんだ」
ディフェンスに定評のある池上もまた、悲し気な表情でそう言った。
「なぁ、青葉は……昨日の試合、どう思った?」
「――そうだな。」
昨日の総体の試合の結果は、3-2というスコアでの一回戦敗退。ゲームの内容を振り返ると、チーム全体としても、個人としても反省点が多く見られた。
「単純に、相手が俺らより上だった――とは言い難いな。」
決して勝てない相手ではなかったのだ。そして、三年の先輩方はよくプレーしていた。
負けた理由としては、二年連中がいつも通りのプレーをできなかったからだ。おそらく原因は、先輩たちの最後の試合になるかもしれない……というプレッシャーなのだろう。
「剛田は焦ってたのか、無理してシュートを狙ってしまう場面が何度かあったし、池上もボールを追いかけすぎて、サイドチェンジに間に合わなかったり、全体のバランスを見れてなかったりする場面が多かった。月山は……普段からミス多いけど、昨日は普段に増してつまらないミスが多かった。」
「っぐ……悔しいけど、何も言い返せない……。」
月山は苦虫を噛み潰したような表情で言った。
「青葉は……調子よかったよな。後半から出て、ワンゴール決めてたし。」
こちらの得点は、三年のキャプテンである須崎先輩が前半に得点したものと、後半に入った俺が得点した二点であった。
「確かに……、青葉は球技大会の後くらいから、練習でもずっと調子よかったよな。」
池上が月山の言葉に同意を示した。彼らの言う通り、言われてみれば確かに調子はいいかもしれない。
この一か月を通して、技術が格段に上手くなったわけではない。だとすれば、調子がいい理由は――やはり周りの影響だろうか。
ちろるのひたむきに一生懸命に向き合う姿や、芝山さんに青春に全力を捧げる大切さを説かれた事、また球技大会での出来事――それらがプラスに影響をしているとも感じられる。
とはいっても、もちろん俺にも山ほど反省点はあった。もしあの時、こうしていれば……と、一体どれほど後悔したことだろうか。
だけど――いつまでも後悔して下を向いているわけにもいかない。お世話になったキャプテンを始めとする三年生たちはもうすぐ引退する。
「俺にも反省点はいっぱいあるよ……。いつもの調子が出せなかったのはみんな悔しいだろうけど……、だからっていつまでも落ち込んでるわけにもいかない。もう反省は十分したじゃないか。」
反省なら、俺たちは昨日のうちに嫌というほどにしたのだ。
試合に負けた後、剛田は何度も先輩方に頭を下げ、池上は「何でこうなったんだ……」と蒼白な顔でずっと独り言をつぶやいていた。月山は人目をはばからず号泣し、俺もまた――帰り道で一人になった時、電柱を思い切り殴って拳から流血した。
家に帰ってからも、みんな各々で試合の反省を……、いや猛省をし続けていたはずだ。今日、休みの日に俺たちがこうして集まったのは、反省して落ち込むためじゃない。
「先輩たちに対して申し訳ないと思うなら、今回の経験を自分達の糧にするのがせめてもの償いのはずだ。それに先輩たちが引退するのに、今みたいなしょぼくれた顔のままじゃ見送れないだろ。」
俺は自分にも強く言い聞かせるように、月山、剛田、池上の三人に想いを伝えた。
三年の先輩達は泣きながらも、誰一人として二年生で試合に出た俺たちを責める人はいなかった。むしろ彼らが言った言葉は、「――今まで、ありがとうっ!」という感謝の言葉だった。俺たちがしょぼくれていたら、きっと先輩たちは安心して引退できない。
剛田は俺の顔を少し驚いたように眺めてから、「やはり変わったな。」と笑った。
変わった――そんな自覚はないのだけど……。ただ、今までなら言わなかった想いを、少しだけだが、きちんと言葉として人に伝えるようになったかもしれない。
「よしっ、青葉みたいに俺らも気合入れるぞっ! ほら、剛田と池上も!」
「はぁ? 月山が昨日一番ミスってたんだろうが。」
池上は不服そうな顔で、いきなり立ち上がった月山を見上げた。それを剛田が「こら、池上。もう反省はきりあげると言っていただろう。」と注意した。
その日の午後、俺のスマホにはサッカー部キャプテンである、須崎先輩からのメッセージが入っていた。
“悪いが、今から外出てこれないか?”
とても短い一文だけのメッセージだった。
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