第二章 球技大会の準備

第10話 宮本言葉は、俺にとっての本当のお姉ちゃん(血は繋がってない)である。

 生徒会室は二年フロアの一つ上、三年フロアがある三階にある。


 別段変わったことのない、小さめの空き教室を生徒会室としている。


 他校や地域からの来客用に、黒皮のソファが置かれており、一応は応接間としての機能も持っている。窓際真ん中に生徒会長である姉貴のデスクがあり、その傍に副会長、会計、書記などの役員席も設置されている。


 なぜ生徒会室の内装をここまで詳しく知っているかというと、これまでも度々雑用を姉貴に押付けられてきたからである。


「だったら、もう庶務とかの役員を新しく作れよ……」


 そう内心思いつつも、これはこれで役得がある。


 ――俺の本当のお姉ちゃんに会えるからだ。


「あっ! 弟君だ。」


 生徒会室に入ると、我が心のお姉ちゃんこと、宮本言葉みやもとことは先輩が出迎えてくれた。無論血のつながりも何もないが、俺は心の中で彼女を言葉お姉ちゃん(先輩)と呼称している。


「遅いぞ、馬鹿。」


 そしてこの実の弟を馬鹿呼ばわりするのが、実の姉貴、青葉吹雪である。彼女こそ泣く子も黙るこの学校の生徒会長であり、その友達であり生徒会の会計を担当するのが、言葉お姉ちゃん(先輩)なのだ。


「早速だが、今度の球技大会の件で、希望種目調査の集計を頼む。学年ごと、男子と女子に分けて……」


「あぁ、去年と一緒だろ? それなら要領はもうわかるから、姉貴は他の仕事してろよ。」


「そうか……。っじゃあ、私は来年度の予算について、職員室に用事があるので、あとは任せた。」

「ほーい。」


「二人きりだからって、言葉に手を出すなよ?」

「そんな事して姉貴に殺されたくないっての。いいからはよ行けや。」


「可愛くない弟だ。」


 と、可愛くない姉貴は言って生徒会室を出ていった。


「さすが、兄弟仲良しだねぇ。」


 言葉お姉ちゃん……こと、言葉先輩は、唐突にそんなわけのわからないことを言いだした。


「言葉先輩、視力落ちました? 一体どこをどう見たらそう見えるんですか?」


「またまた~。そんなこと言って、弟君だって、吹雪ちゃんのこと好きなくせに~。ほらほら、正直になりなよ、うりうり~」


 そう言いながら言葉お姉ちゃんは、俺の頭をやさしく撫でた。


「やめてください、言葉おね……、っじゃない。言葉先輩。」


 あぁもう、言葉お姉ちゃんなら大好きなんだけどなぁ……。いっそのこと本当に俺のお姉ちゃんになってもらえないだろうか。


 とはいっても、家は姉貴と妹の三兄弟だから、義理の姉になってもらうわけにもいかない。くそっ……俺に男の兄弟がいないことが悔やまれるぜ。


 あっ、そうだ。諦めるのはまだ早い、この手があるじゃないか。


「言葉先輩!」

「ん? どしたの、弟くん?」


「家に養子に来ませんか?」


 そうすれば、言葉先輩は、本当に言葉お姉ちゃんになるじゃないか。完璧だ。


「何いってるの弟君? もしかして、熱でもあるのかな? どれどれ、お姉さんが測ってあげよう。」


 そういうと、言葉お姉ちゃん(先輩)は、眼鏡をすっと外した。そして俺の前髪をやさしくかき上げ、おでことおでこをごっつんこさせてきた。


「えっ……///」


「うーん、ちょっと熱いかなぁ。少しお熱あるんじゃない?」


 うわっ、顔近い! 普段眼鏡ごしだとそんな気が付かないけど、言葉先輩の目、くりくりしてて瞳が大きい。そしてやっぱいい匂いがするっ!


「だっ、大丈夫ですよっ!」


 俺は慌てて言葉先輩から距離をとった。


「しっ、仕事をしましょう!」


「弟君は仕事熱心だね! えらいえらい~!」


 と、また優しく頭をなでられてしまった。こんなお姉ちゃんなら、もう超重度のシスコンになっていたに違いない。そして、俺はきっと今以上に駄目な弟になっていただろう。その点だけは、姉貴に感謝せねば。

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