第11話 リア充しねしね団は、球技大会の希望調査に組織票を投じる
本校の球技大会の種目は、各学年、男女別で、個人の名前を書いて希望種目とその理由を書いて投票する。
「とりあえず、この希望調査の紙を、種目ごとに分けていったらいいですよね。」
要領は把握しているものの、念のため言葉先輩に確認をとって投票用紙を仕分けしていく。
「うん。そうだね! とりあえず分けてから、エクセルに入力していこうか。」
なぜ球技大会の種目決めごときで、そんな面倒な投票が行われるかというと、生徒が自己の主張を持ち、社会参加する自主性を促す一環だそうだ。
――学生の学生による学生のための学校を作り上げる――
それが姉貴のマニュフェストであり、その実現のためには、一人ひとりの学生の自主性が重要視されなくてはならない。
昨今、選挙に行かない若者が増えている。自分の意見など、社会に何も影響を与えない。どうせ誰も聞いてなんかくれない。そんな自己の影響力の欠如は、きっと大人になるまでに育成されている。
そこで姉貴は、球技大会の種目決めですら、全員に意見を持たせて意欲的に参画する機会を設けさせた。
理由のない投票は無効、納得のいく理由を書いて投票された意見は、十票分の価値を与えるという姉貴の妙案により、真剣に自分の意見を学校という社会に訴えかけよう、自分の考えをもとうという生徒の数も増えている。
まぁ――おかげで生徒会の仕事量は、例年の何倍にも膨れ上がったそうだが……。
「やっぱり、色んな考えを持った人がいるねぇ。」
投票用紙を種目別、理由が記入されているかどうかに仕分けしながら、俺と言葉先輩はどんどん仕分けしていった。
「ふふっ、サッカーとバスケは、サッカー部とバスケ部がキャーキャー言われて調子に乗ってムカつくから卓球にしてくれ。リア充死ね……だって。」
「まぁ気持ちはわからんではないが、そんなもん、だったらお前もサッカー部やバスケ部に入れとしかいいようないですね。」
それにしても、似たような理由で卓球を押す意見が多くみられる。まるで卓球部による組織票のようだ。そしてどの文面にも、おどろおどろしい字で文末に「リア充死ね」という言葉が添えてある。
「なんか……似たような文面で卓球を押してる票がいくつか見られるんですけど……。」
「なんか、最近『リア充しねしね団』とかいう変な団体ができたらしいよ。」
なんだその新手のカルト教団みたいなものは……。
「えらく物騒な団体ですね。まぁ……リア充じゃない俺には関係ないですけど。」
「あれ? 弟君まだ彼女できてないの?」
ぐさっとくる一言である。中学のあの辛い年越しを迎えてからというものの、俺には一切彼女はできていない。
「もう、こんなに可愛い弟くんなのに、どうして彼女ができないんだろうね~。」
と、言葉先輩は再び俺にすぐそばまで顔を近づけてきた。
美人なお姉さんに顔を寄せられ、思わず鼓動が高まってしまう。
「ねぇ……おとうと……くん。」
言葉先輩の吐息が、ふっとかかる距離だ。耳元から立体音響のように、甘い声が聞こえてくる。
「私でよかったら、……付き合ってみる?」
「……………。」
あれれ、おかしいぞ~? どうしてこうなった……。すごいドキドキと鼓動が脈打っている。おい、バカ沈まれ。俺には神崎さんという心に決めた人が……。それにちろるの事だって……。
これはきっと、神様に試されてるに違いない。
「…………あの、からかうのは止して下さい。」
そう言うと、言葉先輩はくるっと回転しながら、元の位置に戻った。
「残念だなぁ~。弟くんなら別にいいんだけどな~。」
やっぱり、からかっただけ……だよな。けど、すっごいどきどきした。
それにしても……、いくら年上のお姉さんとは言え、やらっれぱなしは腹が立つ。
「……。」
「うん?どしたの?もしかして、さっきのことで怒ってる?」
「言葉先輩……!」
” 壁 ドォォンッ!!”
「ふぇっ?///」
「あなたの事が好きです(お姉ちゃんとして)」
俺は言葉先輩に壁ドンを決め、彼女の瞳をじっと見つめながら、そう告げた。
「えっ……/// いっ、いきなりっ? えっ!? ど、どうしよっ……///」
えっ……なにその反応……。あり? 想像してた反応と違う。“またまた何言ってるの弟君? 年上をからかっちゃ駄目だぞ!”くらいの感じで軽く振られると思っていたのだが……。
あからさまに頬を真っ赤にしながら、言葉先輩はおどおどきょろきょろと慌てている。こんな先輩を見たのは初めてだ。しばらくこのまま眺めていたいほど、素直に可愛い。
「あの……すみません。俺もからかってみただけです……よ?」
その瞬間、生徒会室の入り口の方から、殺意に満ちた恐ろしいオーラを感じた。
「おい、糞馬鹿……何してんだお前…?」
恐るおそる振り向くと、鬼の形相の悪鬼……じゃなくて、姉貴が立っていた。
「あれ? 吹雪お姉さま……これは違うのです。ほんの冗談で。」
「だったらなおさら悪いわ。死ね。」
俺はみぞおちを思い切り蹴られ、生徒会室の窓際まで吹っ飛んだ。
「ぐはっ……。」
「大丈夫? 弟くん?」
言葉先輩は俺の背中をさすりながら、抱き起してくれた。
「もう……弟君ったら。 お姉さんをからかっちゃ……だめだぞ?///」
そう言いながら、やはり言葉先輩は少し頬を赤らめているようにも見えた。
けど、こんな馬鹿な事はもう絶対やめとこう。俺の命が持たない。
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