自問自答
いつの間に日付は十二月の二十四日、クリスマス・イブとなった。天気は一段と寒くなり、あともう少しすれば年末年始の長い正月休みに入る。長いようで短かった今年もまた、こうやって過ぎていくのだ。
しかし、佐藤は未だに先月の問題を引きずっていた。それこそ、カップルで溢れかえっているこの混雑した町並みで、どこにも行けず、目的地すら決められずにいる
イブということもあって、他の人も仕事を早々に終わらせてはどっかへと行ってしまった。そんな約束事のない佐藤であったが、雰囲気に当てられたせいで仕事もままならず、用事もないのに早々に会社を出ては街まで来てしまったのだ。
そもそも人が多いところを苦手とする佐藤は、
「――とんだアホな話だ」
口からこぼれてしまった愚痴は、そのまま夜の華やかさに埋もれては、佐藤自身以外の誰にも届かず消えていく。
飽和状態の町並みで佐藤は自分の居場所も、自分がどうするべきかすら見つけられずにいた。
来た道へと粛々と戻って、中途半端に止めた仕事を終わらせるべきなのか。
今からでもこの街へ混ざるために、誰かもしらない誰かを探すべきなのか。
それとも何もかも忘れて、慣れない酒やタバコにでも溺れてしまえばいいのか。
それともいつも通り、いつもの道を進み、いつもの家へと帰るのか。
そして、それらの行動をした時、他人は自分をどう見るのか。
道のど真ん中で、誰にも見向けされずに一人で悩んでいた。
監視し、監視される世の中。
誰もが自分を見ていて、誰もが自分を見ていない。
自分は誰も見ていて、自分は誰も見ていない。
まるで監視者のように、傍観者のように、その真意は心に隠し仮面越しで語り合う。仮面越しで語られるのは、またしても仮面をかぶった嘘からの真実。嘘からの真実は監視者たちに観測され、やがては世界の価値となる。
もしそれが嫌だというのなら、何もしないで、その全てから逃げだすのが一番。
しかし佐藤はそれを選ばない、いや選べない。何もかも投げ捨てて逃げ出すには、彼は中途半端に悪者で、中途半端に強かった。だから彼はどこにも動けず、光で彩られた道の中で顔を上げる。上げた視線の先には満月の月だけが、寂れた夜空を照らしていた。
「――――はあ」
視線を戻し、ため息をこぼして、今度は自分の周りの道を再度確認した。相変わらずどの道も人で溢れていて、佐藤のことは眼中にないかのごとく流れている。
監視者たちの世界、その停滞した濁流の中で、一人の監視者は迷いながらもまた、一歩を踏み出した。
監視者たちの世界 琴張 海 @pocoman
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