第248話 寄生

タルトの頭上に現れた天秤がゆらゆらと揺れている。


「既に魔法は発動しているから回避は不可能だ。

それが傾いたとき罪と欲によって裁かれるが良い」

「わわわわわっ!!

何これ、触れないんですけど!」


ステッキで叩こうとするが実体がなく触れる事が出来ない。

やがて、少しずつ右に傾いていった。


「うっ!!」


それと同時に胸を押さえて踞るタルト。


「タルト!

おい、ガヴリエル!

本当に大丈夫なのか?」


凄い勢いで迫るノルン。

だが、ガヴリエルは全く焦らず冷静に答える。


「それはぁ、分からないわぁ。

でもぉ、これで駄目なら探してた希望の子ではなかったってぇことねぇ」

「何だと!?

もし廃人になったら私が絶対にお前を殺してやるからな!」

「勝手にすればいいわぁ。

あの子が駄目ならぁ世界の終わりかもしれないわぁ」

「どういう意味だ…?」


その問答の間に桜華がタルトのもとへ駆け付け様子をうかがう。


「聞こえるか?

聞こえてるなら返事しろよ、タルト!」


両肩を押さえ前後に激しく揺らす。


「あばばばばばばば!!

痛い!

痛いですってばー!!」

「おお!

無事だったかあ!

心配したんだぜえ!」

「今ので死ぬかと思いましたよー。

さっきのは胸の奥がチクッとしただけですからね」


この結果に一番驚いていたのはミカエルである。

だが、喜びの一面もみせた。


「聖女とは本当に人間か…?

罪も欲もないとは…。

幼く無垢だからなのか…だが、それよりお前になら託してみても良い気がする」

「分かってくれたみたいねぇ。

それにしてもぉ、それだけの痛みですむなんて面白い子ねぇ」


急な展開についていけない男が痺れをきらす。


「こらああああ!

ガヴリエルよ、何の話をしているのかさっぱり分からんぞ!

分かるように説明せんかーーー!!」

「ウリエルに説明するのは疲れるわぁ」

「何だとおーー!!」


激昂するウリエル。


「こら、ミカエルでも良いわ。

さっさと説明せんか!

ん?

どうした、ミカエルよ?」


ミカエルは両手で頭を抱え苦しんでいるようにみえた。


「ぐっ…もう限界なのか…」

「あの…大丈夫ですか?

治癒魔法をかけましょうか?」


恐る恐る近寄るタルトにミカエルから発せられた黒い帯状の何かが襲いかかってきた。


「うわわっ!?」


身体の柔らかいタルトはギリギリで回避したがスカートを少し切り裂かれた。

すぐに後ろへと退避する。

ミカエルから黒い影のようなものが帯みたいなナニかが生えていた。


「馬鹿な!?

ミカエルから闇の波動を感じるだと!

大天使の長たる者から何故…」

「ノルンさん、それ本当ですか?

あれは一体何なんでしょう?」

「よく分からないが先程の会話から理由を知ってそうな者がいる。

そうだろう、ガヴリエル?」

「そうねぇ。

あれのせいでぇ、タルトの事を報告出来なかったのよぉ。

詳しい話は後だけど一言でいえばぁ、寄生されてるのよぉ」


ミカエルから発せられる闇の波動の禍々しさが増していく。

反応がなかったミカエルであったが意識を取り戻したのか目に生気が宿った。


「よく聞け、タルトとやら…。

私は長らく蝕まれてきたこのナニかに乗っ取られるだろう…。

最後に伝える事がある…北へ向かえ…。

世界の最果てへ…。

ガヴリエルよ…最後の希望を頼むぞ…。

うぐっ!?」


そう言い残しがっくりとうなだれてしまう。

明らかに意識がないのに倒れる事なく立ち尽くしているのだ。


「くっくっくっ、遂にこの日がきたぜ。

大きく魔力を消費し付け入る隙が生まれるのをな」


明らかに今までの声とは違っていた。

更に青い瞳であったのが白い部分も含め、真っ黒になっている。

身体の動きを確かめるように手を開いたり閉じたり準備運動のようだ。


「貴様、何者だ!

ミカエルに何をしたのだ!?」


ウリエルが憤りながら詰め寄ってくる。


「良い実験体がいるな。

どれ、この身体の実力を確かめてみるか」


一瞬であった。

近寄ってくるウリエルを袈裟斬りにしたのである。

だが、鍛え抜かれた肉体であり致命傷になるまで深い傷にはならなかった。


「ぐああああああ!」

「まだ馴染んでいないようだな。

殺せたと思ったのだが」

「ウリエルさん!!」


膝をつくウリエルに駆け寄り治癒魔法をかけていく。


「むぅ…面倒をかけたな。

タルトといったか。

借りができたな」

「そんなことはどうだって良いんです。

手が届く範囲くらいは救いたいんです」

「聖女とはよく言ったものだ。

だが、今はミカエルが先だな」


傷が治癒し再び戦線に加わるウリエル。


「先程は油断したが次はそう簡単にはいかんぞ!」

「もうここに用はない。

最後に教えてやろう。

我が名は中指ミドル

死の王の影である。

長らくこの男に寄生し遂に乗っとる事に成功した。

次は戦場で会おうぞ」


ミドルはそのまま空に舞い上がり消えていった。

誰もが後を追うことなく動けずにいたのである。


「寄生だと?

死の王だと?

一体、何が起こったのだ?」


混乱するウリエルは向け先のない怒りを地面にぶつける。

その威力で固い地面にヒビが周囲一帯に広がった。


「うわわ、揺れる揺れる!

落ち着いてください!

死の王っていつも邪魔してくる人なんですよー」

「何だと!?

知っていることを説明せんか!

ガブリエル、お前もだ!」

「一旦、休戦ということで良いな?

こちらが持っている情報はわたすので、私もガブリエルに説明を求めたい」


ノルンが上手く場を纏めたことで情報交換を行う事になった。

場所を神殿内の一室へと移す。

その前に残っていた連絡用の天使に対峙しているシトリー軍との休戦するよう伝令を任せた。

これで落ち着いて会話をする状況が整ったのである。


「まさか、こんな状況になるとはなあ」


桜華の素直な感想であった。

死闘を覚悟していたが思いがけない展開に理解が追い付いていない。


「でも、こうやって和解出来たのは良いことですよー」


タルトはあまり気にしてないのか平常運転である。


「まず、私が説明しよう」


ノルンがまず、先陣をきって前代未聞の光の神殿にて光と闇の会談が始まったのだ。

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