第247話 裁き

光の神殿にて戦闘が始まった頃、シトリー率いる主力部隊は天使の軍団と対峙していた。


「遠くで大きな魔力反応を感じマスワ!

タルト様が戦闘を開始されたのでしょうけど敵と思われる大天使の反応を2つあるトハ…。

ここで足止めされてるのはワタクシ達デスワネ…」

「罠にハマったって事カ?

向こうが待ち伏せされてアタシ達が助けに行けねえように天使も時間稼ぎが目的カヨ」


あまりにも動きがないことに不自然さを感じたカルンはシトリーの元へと来ていた。


「それでどうするンダ?

無理矢理、突破してタルト姉の手助けに行くノカ?」


この問題に頭を悩ませるシトリー。

タルトとはいえ大天使が二人相手では分が悪いと思われすぐに駆けつけたい想いをぐっと堪える。


「いえ、現状維持デスワ!

ワタクシ達の役目はここで天使を多く引き付けることデスノ。

無闇に攻撃すれば甚大な被害が出るのはタルト様の本望ではありまセンモノ。

誰が相手であろうとタルト様を信じるだけデスワ」

「そうダナ。

相手も同じ目的なら大将同士で決着をつけて貰うのが被害がなくて助かるゼ」


お互いの利害が一致していることから膠着状態はそのまま継続されたのであった。


その頃、タルトはミカエルとの単騎勝負をしている。

技術的に劣る面を固有魔法の未来予知にて何とかカバーしながら攻撃を捌いていた。


「この動きについてこれるとは人間とは思えんな」

「何とか頑張ってるだけですよ!

それにあなたも本気で攻撃してきていないですよね?」

「お前の実力がどれ程か見極めたくて様子見といったところだ。

どれ、ひとつ趣向を変えてみるか」


ミカエルは距離を取り剣を真っ直ぐに胸の前で構える。


「これにどう対抗するか見せてみよ!

浄化せよ、聖域展開ホーリーフィールド!!」


光輝く結界がミカエルを中心に円状に広がっていく。

そして、タルトや桜華達をその内に閉じ込める。


「力が…抜けるぜ…」


桜華は急に全身から力が抜けて膝をついてしまう。


「しっかり気を持て!

この結界内では光属性以外は弱体化させられてしまうんだ」


天使であるノルンには効果がないが桜華には効果覿面であった。


「うちよりタルトはどうなった!?」

「えっ?

何が起きたんですか?」


何とタルトはけろっとして何が起きたかさえ理解していない。


「何故、弱体化しないのだ?」


ミカエルもこれは予測できなかった。

この世界では何処にでも精霊の力が満ち溢れており、自分の属性と同じ力を取り込んでエネルギーへと変換している。

聖域展開は結界内を光の属性で満たすことにより、他属性を取り込めなくさせるのだ。

だが、そもそもタルトは無属性であり精霊そのものを宿しているのだから、外部から取り込めなくなっても何の影響もない。


「よく分からないですけど、私には通用しないようですね!」


何故かどや顔で言い放つ。


「どうも常識から外れた存在のようだな。

良いだろう、少し本気で相手をしてやろう」

「えっ!?」


未来予知で心臓を貫かれる光景を察知し回避行動をとるが完全に避けることは難しいほどミカエルの速度が上昇していた。

このままでは剣先が肩へ直撃すると思われた瞬間、何故かミカエル自身が方向を変え空を攻撃したのである。


「これは…幻術か。

これはどういうことだ?」


タルトの横に白いフードの人物が立っている。

どうも幻術でタルトを助けたようだ。


「あなたは…いつも助けてくれてる人ですね。

お礼が言えてなくてすいません。

本当にありがとうございました!」


この人物は羅刹との闘いやアスモデウスの時など様々な場所でタルトを救っているが、こうして元気なときに会うのは初めてなのだ。


「これはどういうことだと聞いているのだ。

ガヴリエルよ!」

「ガヴリエルさんって、死んだんじゃ!?」


タルトがいないときに街を襲撃しルシファーによって殺されたと聞いている。

だが、白いフードを脱ぎ捨てたその姿はガヴリエルであった。


「答えは簡単よぉ。

この子は希望なのよぉ。

でも、今の貴方には報告出来ないのは自分自身が一番良く分かってるわよねぇ?」

「やはり聖女がお前が選んだ存在であったか。

だが、間違いないのか?」

「ねえ、何の話をしてるんですか?

選んだって私の事ですよね?

それにガヴリエルさんはどうやって助かったんですか?」


話についていけないタルトは立て続けに質問をする。


「もぅちょっと待っててねぇ。

今、大事な話をしてるところなのぉ。

後で教えてあげるわぁ」


そっと優しくタルトに答える。

前に会った時とは比べられないくらいの優しさを感じた。


「それでこの子の事ねぇ。

カなり前から気に入ってずっと見守ってきたのよぉ。

カドモスの討伐に始まり人間の国を纏めあげ、羅刹、ケツァールに気に入られ最近ではアスモデウスも倒してるわぁ。

そして、種族を超えて平和に暮らす街を実現させているのも事実よぉ」

「だが、問題は来るべき災厄に対抗出来るかだぞ?

しかも人間ごときでは私欲に堕ちる可能性さえある」

「でも、これ以上の逸材が今後、現れるかしらぁ?

貴方の時間も残り少ないのではなくてぇ?」

「確かに数千年の中でこのような存在などいないどころかイレギュラー過ぎる存在と言えよう。」


ガブリエルの出現に羅刹とウリエルも闘いを中止し会話に耳を傾けている。


「何の話をしてるか分かるのかウリエルよ?」

「さっぱり分からん!

どうもあの娘が稀有な存在で何故か二人は探し求めていたようだな!」

「それに災厄とは一体、何の事だ?」


周囲の反応には一切気にせずじっと考え込むミカエル。

タルトは意味が分からず状況を見守るしかなかった。


「私に残された時間はもうほとんどないだろう。

良かろう、聖女が信じるに足る人物かどうか最後に試すとしよう」

「あの技を使うのねぇ。

それで貴方の信用を得られるのならリスクを冒してもやむを得ないわねぇ」

「えっとぉ…何か私が試されるのに試練みたいのを超えなきゃいけない流れですよね…?」

「そうよぉ。

失敗すれば貴女は廃人だわぁ」

「えっ!?

私の拒否権は無いんですか?

廃人になるなんて嫌ですよー!」

「諦めなさぁい。

この世界の命運が掛かってるんですものぉ」

「世界って規模も大き過ぎですってばー!」


タルトが駄々をこねるのも無理はない。

明らかにヤバい威力の魔法が発動する直前のようにミカエルが魔力を溜めている。


「聖女よ。

まともに会話が出来るのが最後になるやもしれぬから教えてやろう。

この魔法はお前自身の今までの行いと心の在り方によって精神を破壊する。

真実の天秤が過去の罪と現在の欲の見抜き、公正な裁きを与えるであろう」

「それって助かったって人はいるんですか…?」

「一人もいない。

皆、精神が破壊され廃人となっていった。

人間はそれだけ欲が深く罪にまみれているのだ」

「そんなの無理ゲーじゃないですか!?

やだやだ、そんなの嫌ですよー!」

「もう手遅れだ。

聖女と呼ばれている化けの皮をはがしてやろう!

真実を映し出せ、正義の裁きジャッジメント!!」


するとタルトの頭上に大きく美しく装飾された天秤がゆらゆらと揺れながら現れた。

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